*第4章~汚された森で~
アレクが消え、お休み中のシーラと二人きりになった紗羅。アレクが言っていたようにだんだん空が暗くなってきた。
(本当に早くこの森を抜けなければ・・・)
紗羅は寝ているシーラを揺さぶり起こした。
「シーラ、できれば明るいうちに人のいるところに行きたいのだが、道案内をしてくれないか?」
寝ぼけ眼をこすりながらシーラが体を起こした。
「うん・・っとね、この森を西に抜けたらあたしの村があるから、そこに行こう?」
「分かった。急ごう。」
シーラをヒョイっと担ぎ、背中に負い、紗羅はシーラの指示するほうへ走り出した。
森が暗くなっていくと同時に、小さいが黒い靄をだしている生物、おそらく魔物であろうものがあたりにちらほらと蠢いて、その数がどんどん増えていった。
「ねえ、シーラ。」
「なあに?お兄ちゃん。」
走りながら紗羅はシーラに質問した。
「さっきシーラがしていた話の終わりで魔物は大地から消えたって言っていたのに何でこの森にはこんなに魔物がいるの?あそこにいるのって、その魔物だろう?」
「そうだよ。あれが魔物だよ。ホントはね神様を封印した後も、少しだけ魔物たちは大地に残っていたの。あと、空に浮かぶ影の王国からもたまに魔物がおちてくるんだよ。」
「でも、ここにいるのは少しっていう量じゃないよ?」
「・・・あの話には続きがあってね、歴代の王様達は聖獣と契約をしてそれぞれの王国に恵を与えて、魔物から守るように力を使って国を治めていたんだけど、この国、風の国には16年前に神獣が消えてから生き物たちがみんな魔物に代わっちゃったの。」
「神獣が消えた?」
「そう、ほとんどの国の神獣はめったに人と契約せず、ずっと自分の国を見守ってて、聖獣たちが代わりに王様と契約するんだけど、もともと聖獣も神獣から創られたから風の国の神獣が消えると、国中の聖獣も突然消えてしまったの。16年前に王様と契約していた馬の聖獣も、みーんないなくなっちゃって、風の国は魔物がいっぱい住み着くようになってしまったの。おかげで田畑もあまり植物が育たなくなってしまったんだって。」
「へえ、そうなんだ。」
(もしかして、アレクって・・・)
ヒュッッドシーーーン!!!
紗羅が十中八九あたっていそうな考えをめぐらせていると突然空から巨大な熊のような生き物が降ってきた。その熊のような生き物は森中の小さな魔物を吸収し、ますます巨大に膨れ上がり、触れただけで植物を枯らす靄を吐き出しながら紗羅たちに襲いかかろう突撃してきた。
シュッと素早くその場から逃げ、熊の魔物をよける紗羅。そして近くの高い樹にヒョイヒョイっと駆け上ると、頂上の枝にシーラを座らせ、
「ちょっとここでまってて。」
と言い残し、そのままそこから飛び降りた。
元の世界で暁羅に仕向けられた暗殺者から身を守るために身につけた体力と身のこなしで地上15メートル程の樹から飛び降りても、軽やかに着地し、無傷で熊の魔物のもとに走って行った。
熊の魔物の前に立つと、ズボンの裾に隠し持っていた短剣を取り出し、グルルとうなる熊の魔物が動き出すよりも早く、熊の魔物の左目を短剣で斬りつけた。
『グヲオオオオオオォォッッ!!!』
痛みで悶え苦しむ熊の魔物にもう一撃喰らわせようとしたとき、頭にアレクの声が響いた。
『主よ、お待ちください。その魔物は守りの失った土地で動揺した獣に魔物が憑りついているのです。どうか、この獣を魔物から解き放して下さい。』
(そんなの、一体どうすればいいんだ!)
怒り狂った熊の魔物からの攻撃をよけながら紗羅は自分の中にいるアレクに聞いた。
『これをお使いください』
アレクがそう言うと、紗羅の左手に大きな弓が、右肩には矢の入った矢筒が突然現れた。
『この矢は【浄化】の魔法が籠められています。この矢を先ほど主が斬りつけた傷に撃ち込めば、傷口から内部を浄化できます。』
そういわれて自分が斬った傷に目をやると、確かにそこから大量の血と共に黒い靄が溢れ出ていた。
(わかったよ。だが、あまり私のやることに口を出すな。)
スッと自分の中にいるアレクを睨むように、そう伝えた。
『御意。』
アレクは服従の言葉を頭に響かせ、気配をけした。
熊の魔物の倒し方は分かったが、こうも暴れられていたら狙いを定め難い(それでも確実に当てる自信はあるのだが)し、何よりシーラを置いた樹にぶつかりでもされてはこまる。
紗羅は弓を右肩に担ぎ、再び熊の魔物の前に立った。熊の魔物が紗羅を捕まえようと両手を広げると、その開いた懐に潜り込み、無防備な腹に重たい回し蹴りを喰らわせ、10メートル程もある巨大な熊の魔物を蹴り飛ばした。
ズシーーーン!!っと後方へ飛ばされ岩場に頭をぶつけ、座り込んでその熊の魔物は気絶した。
紗羅は熊の魔物が気絶しているのを確認し、後方へさがり、弓を構えた。左目の傷口に狙いを定め、矢を放つ。
パシューッッと白い光に包まれた矢が熊の魔物めがけて一直線に飛び、狙い通り左目の傷口に命中した。
カッッッッ
眩い光が熊の魔物を包み、熊だけでなく、森中にその光は広がり、魔物が踏み荒らしたところはもちろん、あらゆる土と、植物が浄化されていった。そして、魔物と一体化していた熊も、もとの正常な獣に戻った。紗羅が斬りつけた傷は残っていたが、血は止まり、左目だけ、金色に変色していた。
「一体何が起きたんだ?」
声に出さずとも通じるのに、紗羅は思わず口に出してアレクに問うた。
『思っていたよりも主の魔力が強く、獣を浄化した影響で森中が浄化されたようです。おかげで森には1匹も魔物がおりません。さすがは我が主。』
見えていなくてもアレクが微笑んでいるのが分かる。いや、虎は微笑まないか。
混乱している頭を整理しつつ、紗羅は熊に近づいた。そしてそっと傷口に手を添える。
「すまなかった、乱暴をして。」
そういって、傷口をなぞる紗羅の耳に突然声が聞こえた。
『いいえ、とんでもないです。むしろ、汚らわしい魔物を消して頂き、ありがとうございました。この御恩は一生忘れません。」
「・・・・・・。」
(この熊も特殊な獣なのか?!)
無言で動揺しながら紗羅はアレクに問う。
『いいえ、私が最初に御身にかけました【言語】の魔法で人々の言葉だけでなく、獣や、植物、鉱物の言葉も主は解せるようになったのです。」
(なるほどな。だが、鉱物までっていうのはいささかやりすぎのような。そんな無差別な魔法なのか。)
『いいえ、魔法自体はそれほど大したものではないのですが、魔法を使用するものの能力に応じて効果がさまざまなのです。申し訳ございません、私は自分の力をコントロールするのが苦手で・・・。』
そう申し訳なさそうにアレクが言った。
(ところで熊の目の色が変わったようだが、あれはやはり私のせいか?)
『まあ、そのとおりなんですが、特にそのせいで獣に障害は生じません。むしろ一生魔物に憑りつかれなくなるでしょう。』
そうか、と心の中でアレクに言い、熊に問いかける。
「お前はこれからどうするのだ。」
『北の森で仲間が助けを求めているのでそこへ向かいます。北の森も以前のこの森と同様、魔物に侵されているので、できればみんなでこの森に移住しようかと思っています。』
そう言って動き出した熊に別れをつげ、紗羅はシーラのもとに戻った。
大木の上で不安そうに脅えているシーラを見つけ、樹からおろし、そのまま紗羅は森を抜けた。
この話では紗羅の男らしさとアレクへの強気が頭角を現します。そして、紗羅さん、無敵なくらい生身でも激強です。物語が進むにつれどんどん人間離れしていく紗羅にご期待ください。




