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*第55章~暗行御史~



 紗羅は門の外にいた皆をジュダスの邸の客間へ案内した。そこには既に男の格好に戻ったジュダスと、紗羅が斬りつけた3人の官吏がおり、官吏たちは紗羅が入ってくるのを見るやいなや、ものすごい形相で睨みつけてきた。紗羅は居た堪れなくなり、ヴィンセントの後ろに隠れた。

「おーし、皆部屋に入ったようだな。そいじゃあ、セナン官吏、よろしく頼む。」

 ジュダスがそう言って、セナン官吏を引っ張り出した。セナン官吏は強引なジュダスに少し渋い顔をしたが、コホンと咳払いをして、紗羅達を見た。

「先日の諸君らの課題で、我らがダラス国王陛下はとある新機関を設立することを発表した。」

 セナン官吏の言葉と共に、後ろにいた3人の官吏が前に出た。

「以前より、刑部直下にあった、御史台を独立した機関として、設立する。その一環として、現御史台官吏の中から、半数以上を移動させ、新たに登用を検討している。また、御史台の長官、監察御史も一新し、彼らに新たな権力を与えることとする。これに合わせて、百官の糾察と共に、地方官吏の取り締まりを強化すべく、全州に暗行御史を派遣する。彼らは今回その任務を与えられた者たちだ。」

 紗羅達はセナン官吏の言葉に驚き、顔を見合わせた。

(確か、何度か歴代の光の国の国王たちは暗行御史を使っていたと思うが、ここまで大規模なのは始めたなんじゃないのか?)

 セナン官吏は皆の反応を確認して、続けて話す。

「もちろんこのことはごく少数にしか知られていない。暗行御史の派遣も極秘裏に行う。そこで諸君らには2組に分かれて、暗行御史に同行してもらいたい。」

「「??!!」」

 ルイとイアンが絶句した。紗羅は何となくそんな気がしていたので驚かなかったが、ヴィンセントは相変わらず反応が薄いし、アイザックに至っては全く興味がない様子で、あくびをしていた。

「国王陛下のご意向としては、諸君らに同行する暗行御史の補助と、諸君らだけにもう1つ特命があるそうだ。」

 イアンが、セナン官吏の方を見て、手を挙げた。

「セナン官吏、特命とは一体何なのでしょうか。」

 セナン官吏は首を横に振って、応えた。

「すまないが、内容までは私にもわかりかねる。出発の際に事目を渡すので、大門をくぐった後に、それに目を通しなさい。」

 事目とは、暗行御史の任務と派遣地域を記された書類である、内容は一切他言してはいけなく、そのため王都内で見ることを禁じている。

「セナン官吏、その任務が我々に対する評価なんでしょうか。」

 ルイが困ったように聞いた。セナン官吏は頷き、何故か紗羅の方を見た。

「うむ。この御史台を独立させるという案、実は前々から検討されていたことでな、それを一学生である諸君らから出て来たということ自体、国王陛下だけでなく、その場にいたベルマ吏部尚書やエーデル戸部尚書も大変驚き、感心したそうだ。そこで諸君らにもっと、実践力を身に着けてもらいたく、国王陛下御みずからこのことを決められたそうだ。権力に屈さず、立ち向かわなくてはいけないこの任務、官吏ではない諸君らでは厳しいかもしれないが、やってくれるかね。」

 一瞬の沈黙が流れた。皆戸惑っていたのだ。そして、その沈黙を紗羅が破った。

「やりたくない、と言ってもいけないんでしょう?このような話をされた時点で断ることが出来ないはずです。ですが、我々は学生の身です。本来であれば、学業に身を投じなければならないかと思うのですが。」

 紗羅の質問は、セナン官吏でなく、ジュダスが答えた。

「そいつは、大丈夫だよ。この任務自体がお前らの授業代わりになるんだからな。そして、この任務も卒業後に響いてくると思え。」

 えらそうに言うジュダスを見て、ルイが紗羅の方を振り返り、小声で話しかけてきた。

「なぁ、あの男の人誰なんだ?」

「……誰って、お前さっき会っているではないか。」

「へ?」

 ルイの目が点になった。思い当たる節が内容で、首を傾げながら、ジュダスを見ていた。

「そこ、喋るんじゃねぇぞ!で、話の続きだがな、任務期間は約2週間。この任務は文官としてだけではなく、武官としても役に立つ任務だから、しっかりやるんだぞ?」

(武官としても?……まさか、もう1つの任務って…。)

 紗羅はジュダスを睨んだ。ジュダスは紗羅の視線に気づき、悪い笑みを浮かべ、それをみたその他の者の背筋を凍らせた。

「んじゃ、出発は明日だから、各自明日の早朝に大門前に集合な。」



 すべての話が終わり、皆を帰らせた後、紗羅はジュダスに詰め寄った。

「で、シーラとアレクはどこにいるんだ?」

「お前、1番に聞くことはそれかよ…。何であんなことをさせるのかーとか、きかねぇのか?」

 ジュダスが呆れたように言うので、紗羅がムッとした。

「そんなこと聞かなくても、だいたい意図は読める。何だったらお前らが僕に指定した派遣場所や、もう1つの任務というのもだいたい察しが付く。」

 ジュダスはその言葉を聞いて、ギョッとした。

「で、僕はアレクを連れて行きたいんだが駄目か?」

「……なんでだ?」

 ジュダスは真剣な顔をして、紗羅に聞いた。

「いや、この前な、アレクからとある魔物の噂を聞いたんだ。その魔物っていうのが気になっているんだが、お前たちもその噂をもちろん知っているんだろう?だから僕を地方に行かせることにした。違うか?

「……………。」

 ジュダスは答えない。紗羅はそれを肯定ととった。

「もしかしたら、その魔物、僕たちに関係がある奴かもしれない。だからアレクも連れて行きたいんだ。」

 紗羅はジュダスをジッと見つめた。

「好きにしろ。その間、あの嬢ちゃんは俺たちがしっかりあずかっといてやるから。」

「すまない、ありがとう。」

 紗羅はホッと胸をなでおろし、笑顔になった。


 ジュダスがアレクとシーラはジュリアのところにいると言っていたので、紗羅はジュダスの邸にあるジュリアの邸への魔法陣を使って【空間歪曲ワープドライブ】でジュリアの邸へ移動した。

 急いでジュリアの邸の中へ入り、2人の気配を探し、そこへ向かう。2人がいるであろう部屋の扉を思い切りよく開けると案の定、ジュリアに着せ替え人形にされたシーラとアレクがいた。

「ジュリア、その辺にしてくれないかな?」

 紗羅は開口一番、ジュリアをたしなめた。

「えー、これからがいいとこなのに!」

 ジュリアは不満を表情に現したが、紗羅は急いでジュリアからシーラとアレクを引き離した。シーラは髪の毛を結われ、白のふわふわした衣装に、その年齢の子には似合わない化粧までさせられ、完全に脅えた状態で、紗羅にしがみついた。アレクも、何故か女装をさせられて固まっていた。

「アレク、何で止めなかったんだ?」

「も、申し訳ございません。ですがあの魔女、私が何か言う前に既に目にもとまらぬ速さでシーラお嬢様を拘束して、あの衣装を着せていたのです。何なのですか?あの魔女は化け物ですか?」

 必死に訴えるアレクを見て、紗羅は言葉に詰まった。

「わ、分かったから。悪かった。お前たちには彼女は手におえなかったんだな。」

「なによー、サラちゃん。あたくしをそんな風に言うなんて。もうっひどいわ!!せっかくサラちゃんに光の第4魔法を教えて差し上げようと思っていましたのに…。」

 プイッとそっぽを向くジュリアに、紗羅は慌てて取り繕った。

「ジュリア、怒らないでくれよ。確かに君が仕立てたシーラとアレクは可愛いと思うが、あの子たちはそういうのに慣れていないんだ。もう少し、大人になってから、一緒に楽しめばいいではないか。」

 紗羅が、困った顔をすると、ジュリアはしぶしぶ機嫌を直した。


 ジュリアから新しい魔法を教わり、紗羅達はジュダスの邸に戻っていった。部屋に入り、シーラを寝かしつけると、紗羅はアレクに明日地方へ行かなくてはいけない事と、アレクにもついてきてほしいことを伝えた。

 アレクはすべてを話さない紗羅を不審に思うことなく、「承知しました。」と即答した。


1日1更新、それを目標にしてきましたが、昨日、とうとう更新することが出来ませんでした。ショックです…。

さて、ジュリア姐さん、久々の登場!!そしてしばらくダラス兄やんとジュダス兄やんとシーラ嬢に会えなくなってしまいます…。寂しい。そんなストレスをアレクで発散するしかないですねー。

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