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*第54章~邸の不審者~



 予算案の課題も終わり、紗羅達のクラスは他のクラスの授業内容と同じものを授業で受けていた。もちろん、1日に進む量は普通のクラスの5倍で、覚える内容もいっぱいあった。それに加え、週3回ある武術の授業ではハードな筋力トレーニング、持久力トレーニングなどをみっちり行ったうえで、毎回模擬試合をしていたため、授業が終えるころには皆、立つことも出来ないくらい、へとへとだった。

 紗羅は剣術、弓、馬術の中から2つを選択するこの武術の授業で、剣術と弓を選択しており、今日は弓の授業だったため、弓をもって、授業が行われる場所へ向う。歩きながら、紗羅は1週間前の課題の発表をしていた時のダラスのことを思い出していた。

 

 ダラスは紗羅達の発表を終えた後、考え込んだまま、一言も発さず、そのままベルマ吏部尚書とエーデル戸部尚書に引きずられながら教室を去っていった。紗羅はジュダスの邸に帰ってから、ジュダスにダラスの様子を伺ったが、その日ジュダスはダラスと会っていないらしく、その後のダラスのことを知ることが出来なかった。


 弓の授業を終え、辺りがすっかり暗くなった頃、紗羅は帰り支度をはじめていた。いつもはルイやヴィンセントと一緒に帰る紗羅だが、今日は選択授業で、それぞれで選んだ科目が異なっていたため、1人で帰った。

 紗羅がジュダスの邸の前に着くと、いつもと違う気配を邸の中に感じ、紗羅は警戒した。

(アレク、聞こえるか?アレク!!)

 紗羅は心の中で、アレクに呼びかけるが、応答がない。何か起きていると、感じた紗羅は顔をこわばらせ、音をたてないように、ジュダスの邸の中に入った。門を抜け、いつもであれば建物の扉に向かうが、紗羅は左へ曲がり、中庭を抜けていった。そして、紗羅が感じた気配のする部屋の窓の前にたどり着くと、身をかがめて、窓から中の様子を伺った。

 部屋の中は何故かほとんど明かりが消えており、蝋燭が1本だけ灯っていた。目を凝らしてみると、何故か女装したジュダス(ジュリィ)と、見知らぬ男が3人いて、ジュリィは縛られ、膝をついた状態だった。

 紗羅は背中の竜剣に手を添え、深呼吸をした。そして、窓をたたき割ると同時に、部屋の中に飛び込む。突然現れた紗羅に動揺した男たちの隙をついて、紗羅が大きく竜剣を振り上げる。すると、竜剣から水刃が放たれ、男3人をまとめて、壁に叩きつけた。すかさずジュリィの縄を解き、そのままジュリィを連れて窓から飛び出した。

「ちょ、ちょっと待てって、サラ!」

 紗羅に引っ張られながら、後ろでジュリィが紗羅に呼びかける。

「悪いがジュリィ、後にしてくれないか?ここにはシーラとアレクがいない。早く探しに行かなくては。」

 シーラとアレクどころか、邸の使用人の気配さえ感じられない状況で、紗羅はジュリィの静止も聞かず、邸の門まで、一直線に走った。

 門にたどり着き、勢いよく扉を開け放つ。


 バコンッ


 扉の向こうからおかしな音が鳴り、開けたと同時に紗羅は妙な感触を感じて、門の外を確認すると何故かそこにはヴィンセント、イアン、そしてアイザックまで立っていた。

(あれ?)

 紗羅がこのメンバーであればいつはずであろう彼の姿がないことに気づき、ふと足元を見た。そこには顔面を抑え、悶え苦しんでいるルイがいた。

「……お前たち、何でこんなところにいるんだ?」

 紗羅はルイからすぐに目線をそらし、顔を上げて聞いた。よく見ると、彼らは正装をしていた。

「だから、待てっていっていただろう。」

 紗羅の後ろで髪を乱した状態で、ジュリィが言った。紗羅はまだ状況がよく分からず、皆の顔を見渡していた。すると、ルイが、真赤に痕がついた顔を抑えたまま、立ち上がり、紗羅を睨んだ。

「俺たちはな、ここに呼ばれたんだ。国王陛下に!」

「は?」

 紗羅は困惑して、ジュリィの顔を見た。ジュリィはその綺麗な顔をゆがませて、ため息をついた。

「はぁー、あのな、お前らこの前までアイツが無茶振りした課題を何かやっていただろう?その評価を下すからって、ここに呼び寄せたんだ。」

「…意味が分からない。第一、ここにいるのは僕たちの班だけではないか。」

 評価を下すだけならば学校でいいはずと、紗羅は不可解なダラスの行動に、異議を唱えた。

「それは、国王陛下が僕たちに与える評価が、その他の生徒に漏れてはいけないみたいだからだ。」

 イアンが眼鏡の淵を上げながらルイの前に出た。イアンの話を聞いて、紗羅は何かに気づいた。

「じゅ、ジュリィ、もしかして、さっき僕が斬りつけたヤツラ…。」

 紗羅は恐る恐るジュリィの方を見た。ジュリィは、頭を掻きながら渋い顔をした。

「朝廷の官吏だ。」

「?!!!」

 紗羅は絶句した。

(あの明らかに不審者なヤツラが官吏だと?ではなぜジュリィが縛られていたんだ?…はッ!!まさか、ジュリィの奴、また…。)

 紗羅は顔面から冷や汗をダラダラ流しながら、ジュリィに問いかける。

「ジュリィ、お前、また暴れたとか…。」

 紗羅の質問にジュリィはプイッと顔をそむけた。紗羅が窓から見たあの構図は、邸に来た官吏たちに触れられて、ジュリィバージョンだったので、思いっきり暴れたため、手に負えないと判断した官吏たちが苦渋の選択でジュリィを縛っておくことにしたのだった。

 紗羅はがっくりと肩を落として、どう顔を合わせようか悩んだ。穴があったら入りたいくらいだった。

「気にすんなって。俺様に触るアイツらが悪いんだから。」

 いけしゃあしゃあと言うジュリィに、紗羅は静かに怒りを覚えた。

「ジュリィ、悪いけど元の格好に戻ってくれるかな?」

 紗羅はジュリィの肩を叩き、笑顔で言った。

「は?何で俺様がそんなことをしなきゃいけないん……。」

 ジュリィはそれ以上言葉を続けることが出来なかった。否、それを紗羅が許さなかったのだ。ジュリィはそそくさと邸に戻っていった。

「なー、サイル。あのキレーなお姉さん、元の姿に戻るって、どういうことだ?」

 ルイが紗羅におぶさる体制になって、聞いてきた。紗羅は肩にかけられたルイの腕を何とか外しながら、ルイから逃れようとした。

「お姉さんって、ルイ、アイツは…ありがとうヴィンセント。」

 なかなか外れないルイの腕に見かねたのか、ヴィンセントが紗羅からルイを引っぺがした。

「なんだよー!ヴィンス。ったく…。で、あのお姉さんがなんだって?」

 紗羅は先ほど言おうと思った言葉を飲み込み、「やっぱり何でもない」と言って、門の方を向いた。

「それじゃぁ、邸の中に入ろうか。」


 紗羅は先ほどとは異なり、きちんと扉から邸の中に入った。中は相変わらず使用人の気配を感じられず、シーンと静まり返っていた。

(使用人にも聞かれてはならない話なのか。)

 一体何をする気なのか、ダラスの行動が全く読めず、紗羅は不安になった。廊下を突き進んでいくと、ジュリィが捕まっていた部屋の前に着いた。扉の取っ手に手を当てて、深呼吸をして息を整える。

(まずかったな…。殺しまではしていないが、かなりダメージを喰らうように放ったからな…。)

 悩んでいても仕方がないと、紗羅は扉を静かに開けた。

 中に入ると、紗羅が叩き割ったはずの窓は何事もなかったかのように元に戻っており、ジュリィを捕まえていた男連中は椅子に座って、紗羅達を待っていた。

「よく来られました。さ、中へお入りください。」

 男の中の1人、黒眼鏡をかけた男が、手招きをした。男に言われるがままに、ゆっくりと皆部屋の中に入っていき、窓側に立った。

 しばらく、部屋の中に沈黙が続き、誰も何事も発することがなかった。10分ほどたつと、飽きたのか、1人だけ乱れた格好をしたアイザックがあくびをしながら、男たちに尋ねた。

「ねー、僕たちは一体いつまで待っておかなきゃいけないの?なーんにも用事ないのなら、僕花街に行きたいんだけとー。」

 気怠そうに言う、アイザックに対して、黒眼鏡の男が何か言おうとした時、紗羅達の部屋の扉が突然開き、外から中年の男が入ってきた。入ってきた男の顔を見て、紗羅とイアンが絶句した。

「ふむ、待たせてしまったようだな。すまない。それではこれからお前たちの課題の評価を言い渡す。」

 中年の男は部屋に入るなり、いきなり本題に入った。突然見知らぬ男が入ってきて、話し始めたことに、ルイがかなり驚いていたようだが、それ以上に紗羅とイアンがわが目を疑うくらい驚いていた。

(な、何でこんなところに来てるんだ?あの人!!)

 中年の男、礼部次郎セナン官吏が、険しい顔をして、その場に立っていた。

ジュダス兄さんを出そうと思っていたら、何故かジュリィ姐さんが出てきました。そして、せっかく出番をつくってあげようとしたのに、アレクさんが応答してくれませんでした…。どこに行ったんでしょう?

次回、今度はちゃんとジュダス兄さんとして登場させます!

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