↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/94

*第53章~課題と不正~



 課題が出されてから1週間がたった。週3回の武術の授業で顔を合わせていたが、武術の授業は選択制で、全員が顔を合わせるのは課題が出されて以来だった。1名を除いて。教室はざわついており、紗羅達以外の生徒が、紗羅達の様子を伺っている。

 教室の扉が開き、パラスが入ってきた。生徒たちは席に戻り、ざわつきもなくなった。

「じゃぁ、出席をとる。レナード・アディン―――」

 パラスが次々に名前を読み、生徒たちが返事をしていく。本日も、『アイザック・ベルン』が呼ばれた後には返事が聞こえなかったが、パラスは気にせず、次の名前を呼んだ。全ての生徒の名を読み終えると、パラスは出席簿を閉じ、教室を見渡した。

「それでは、今日は課題の発表をしてもらう。それぞれ発表者を前に出して、自分たちの考えを述べるんだ。評価は―――」

「俺たちがする。」

 パラスの言葉を遮るように教室の扉が開かれ、ダラスが入ってきた。突然の国王の登場に動揺する生徒もいれば、1週間前に1度見ているので、慣れた顔をする生徒もいた。

「うわッ何でまた国王陛下がいらっしゃるんだ?」

「暇なのか?」

「普通王様って、こんなに授業のことに口出すものなのか?」

 小声で生徒たちが囁きあう。

(完全に国王の威厳0じゃないか。暇人扱いされているぞ、アイツ。)

 紗羅は呆れた顔をダラスに向けた。

「こ、国王陛下、いらっしゃるのであれば、あらかじめお伝えください!」

 パラスが噴き出る汗を、手拭いで拭った。ダラスはニマニマと意地の悪い笑みを浮かべて、パラスの肩を叩いた。

「こうゆうのは突然だから面白いんだって。今日も、アイツ連れて来たんだから、大目に見ろって。」

 「アイツ」の言葉に皆が入り口を見ると、見覚えのない男に、無理やり引きずられてアイザックが入ってきた。その後をもう1人、別の男が入ってくる。

「お前なー、登校すればいいってもんじゃないんだぞ?ちゃんと授業受けろって。」

 ぐしゃぐしゃッと、アイザックの頭を撫でながら、ダラスがアイザックを押し出した。やはり、面倒くさそうな表情を浮かべ、アイザックがしぶしぶ席についた。

「さて、諸君の課題の評価は我々が行う。課題の出来次第では、諸君らの卒業後の進路も左右するかもしれんから、しっかりやるんだぞ。」

(学生の課題に何人生をかけさせるようなことをするんだ…。皆凍り付いてしまったぞ。)

 紗羅が心の中で思ったように、ほとんどの生徒が青ざめてしまっている。

「王様!そこの御二方はどなたなんですか?」

 皆、固まっている中で、ルイが唯1人、発言をした。ルイの質問に、ダラスは再び意地の悪い笑みを浮かべ、2人の男の間に入り、肩に手を回した。

「よくぞ聞いてくれた。こいつらはな、我が光の国の優秀な官吏である、こっちの髭の男がベルマ吏部尚書で、こっちの女みたいな男がエーデル戸部尚書だ。まぁ、あんま緊張しないで、堂々とやれよ。」

 その場にいる2人の男が人事を担当する長と、国庫を管轄する長であることが分かり、生徒の青ざめた顔が一瞬にして、更に絶望の色に変化した。中には泣き出す生徒もいた。そんな生徒の反応を気にも留めず、ダラスは2人をひきつれて、教室の後ろの席に座った。

(国王だけでなく、朝廷の高官まで来るなんて…。朝廷って暇なのか?…いや、違う。あの2人に関しては、かなりの無理をしている!)

 紗羅は視線だけダラスの方に向け、2人の男の状態に気づいた。ベルマ吏部尚書は目の下にアイラインと思われるくらいの濃い、クマをくっきり浮かべており、何日も休んでいないという顔をしている。変わって、エーデル戸部尚書はその綺麗な顔にクマをつくるようなことにはなっていないが、イライラと、こめかみをピクピクさせていた。


 どの班が1番に発表するか各班の代表で話し合いが始まったのが、どの班もこの状況で自ら名乗り上げることをしなかったため、紗羅は見かねて、手を挙げた。

「僕たちが最初にしよう。案外早く終わらせた方がいいかもしれんしな。」

 1番の有力株が真っ先に発表をするということに、他の班の生徒が少し困っていたが、どちらの班も1番に発表する勇気などなかったため、紗羅達の班が最初の発表班になった。

 

 発表者である紗羅と、助手であるイアンが前に出て、ルイが、生徒とパラスと、ダラス達に資料を配った。

「我々の班は前年度の決算報告書を基に、現在の各役所の活動状況を鑑みて、予算案を創りました。まず、工部で行っている橋の建設ですが、この事業は優先順位の高い物だと存じます。ただ、昨年度の決算表では前年度の予算を大幅に超えた金額が上がっております。にも関わらず、現場では費用が足りなく、さらなる金額を要請しようと、考えているようでした。ですが、我々で計算したところ、橋の完成までは昨年度、割り当てられた金額だけで十分に足りるはずなのです。それと…。」

 紗羅がイアンに目配せし、イアンが皆に資料の次のページを捲るように言った。

「そこに記載があるように、決算の報告として上がっている人件費に虚偽の報告があったことが判明しました。ここには1人当り、日当8000Gの記載がありますが、実際配分されている金額は日当4000Gでした。橋の建設で働いている人間は100名いましたから、100×4000G×本日までの勤務日数183日で合計7320万G分、浮いているお金があります。また昨年度に橋の建設に必要な材料費をすべて、工部にやったはずが、現場では材木の不足が判明しており、400万G程、更に申請予定と伺っています。ですが、昨年や今年の材木の市場に出回っている値段で計算しても、ここまでの金額が足りなくなるようなことはないはずなんです。この2点から、工部ではかなり不正を働いている官吏がいると、我々は考えています。」

 課題とは異なることを発表する紗羅達に、クラスがざわつく。紗羅はダラス達の方に視線を向けた。ダラスはずーっとにやけた顔をしていたが、隣にいたエーデル戸部尚書が更に表情を険しくさせていた。

(もしかして、聞いてなかったのか?ダラスが私たちにこのことを調べさせようとしていたこと。)

 ダラスの下で働く官吏は大変だなと、紗羅はしみじみ思った。

 紗羅は顔を引き締めて、コホンと咳ばらいをした。

「不正の件でもう1つ。昨年度の決算表の中で、我々は不審な点を発見しました。それは刑部のものです。上がっている報告書に、不審なものが2、3点あり、それについて、いろいろと調査をさせて頂いたところ、ずるずるとたくさんの不正に関する重要証拠が出て参りました。」

 イアンが次の資料に目を通すように言うと、ページを捲った人たちから、驚きの声が漏れた。


 花鶴楼で刑部尚書から漏らされた情報の中には、捕まった官吏が刑を軽くするための賄賂を受け取っている話や、罪人の調査費用と称して、刑部に当てられた金額の中から1部を、刑部尚書が私的なことに使用していること、工部官吏と結託してさまざまな不正を働いていることなどがあった。酔った勢いで話す刑部尚書の話だけでは真偽のほどがうかがえないため、紗羅達は残りの日数を費やして、調査に乗り出した。あれだけうかつなことを話す刑部尚書のことだから、簡単に終わるだろうと高を括っていたが、思ったよりも調査は進まず、難航していた。だが、刑部尚書が紗羅とイアンを邸に呼び寄せ、向かった邸で決定的な証拠を見つけたのだ。

「この資料を見て頂ければ一目瞭然だと思います。これ以上のことは我々ではなく、朝廷の方々がなすべきことだと思いますので、不正に関することの発表は以上になります。これを踏まえまして、我々が提案します、予算案ですが…。」

 紗羅は、資料に基づきながら、各役所の予算案を発表していった。

「現役所への予算配分は以上になります。」

「ちょっと待て。」

 エーデル戸部尚書が、資料に目を通しながら発言をした。

「この予算案では、予算が幾分か浮く。これではちゃんと配分されていないではないか。」

 ダラスが課題の中で提示した予算額は全部50兆G。うち、紗羅達の出した予算案の合計が48兆G。2兆Gもの金額が余っていることに、エーデルだけでなく、クラス中の皆が疑問に思った。紗羅は皆の反応に、笑みを浮かべて、イアンや、ルイ達と顔を合わせ、頷いた。

「余った金額は新官署の設立に当てたいと思っています。」

 紗羅の発言の意図を解せず、生徒たちの顔に困惑の表情が浮かんだ。

「詳しく説明を聞こうじゃないか。」

 皆の動揺を抑えるように、ダラスが促した。

「今回の調査で、朝廷に蔓延る不正がかなり存在することが判明しました。その原因は、百官を糾察する御史台が、独立した官署ではなく、刑部の1部であるからだと、我々は考えました。御史台は誰に対しても準ずることなく、公正明大に努めなくてはなりません。であれば、御史台を独立させ、どんな人物にも干渉することのできない、独自の権力を与えるべきであります。その力は例え、宰相相手でも、弾劾できるほどのものである必要があります。そしてそれは、政治を行うに当たっては、全く関わりのない力です。そのための御史台の建物の建設費等や、諸々の諸経費のために2兆円の予算を当てようと考えました。以上で、我々の発表を終わります。」

 教室を静けさが包んだ。ダラス達でさえ、何か考え込むように、黙っている。


 パチパチパチパチ


 沈黙を破るように、拍手の音が聞こえた。それはアイザックが叩く手の音だった。

「いやー、すごくない?うちの班。表彰ものだと思うけどねー。」

 自画自賛とも思える発言だが、今回の課題について、彼は花鶴楼で紗羅達に少しだけ協力して以来、一切関わっていなかった。

 紗羅がチラリとイアンの顔色をうかがうと、案の定、イアンはブチ切れ寸前だった。

(まずい…。)

 紗羅はことが起きる前にさっさと、イアンを引っ張って、席に着き、何とかルイにイアンを抑えるように言った。

「そ、それでは次の班、前に出なさい。」

 パラスが頃合いを見計らって、進行した。紗羅達の発表の後に出た生徒は、ガチガチに固まって、課題の内容も散々だった。また、次の班も、緊張は収まっていたようだが、ありきたりな案を出して、エーデル戸部尚書にため息をつかせていた。紗羅達の発表後、ダラスはただずーっと考え込んだままで、授業が終わるまで、一切発言をしなかった。

いやー、本当に自分勝手な王様ですねー、ダラスさん。最後は何か真面目ぶっていましたけど。ていうか、前回のあとがきで今回ルイとヴィンスを出すって書いていましたが、ルイは紙配りとイアンを抑え込むだけ、ヴィンスに至っては全然出てきませんでした。すみません。アレクも出せなかったしなー…。次回こそは、次回こそは出して見せます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。