*第48章~橋の建設と情報収集
教室を出た紗羅は引き連れてきた4人の方を振り返った。
「すまないが、そういうことだから一緒に課題をしてくれるか?」
紗羅に言われると、ルイが頭を掻きながら、息を吐いた。
「しょうがねぇな。ったく、まぁ、俺もお前らと組みたいと思っていたから全然かまわないんだが…。だが、こいつは別だぜ?」
ルイがアイザックを指差しながら言った。
「サイルとイアンとヴィンスとは試験の時からの仲だからやりやすいと思ったんだが、こいつは思いっきり初対面だし、どういうやつなのかもさっぱり分からねぇ。そもそも今回の試験、順位はどれくらいだったんだ?」
みんなの視線がアイザックに集まる。アイザックは照れたように顔がにやけた。
「下から5番目くらい。僕にしては頑張ったと思うんだよねぇ。」
アイザックの言葉に、皆が固まった。ルイとイアンが、わなわな震え始めている。
「し、下から5番って、それで頑張ったといえるか!!!お前そんなんでよく俺たちと組もうと思ったな?!」
「ふざけないでくれ。僕はそんな意識の低い人間とは組みたくないぞ!」
ルイとイアンがアイザックに詰め寄り、激昂した。
「えー、だって僕、そんなめんどくさい課題頑張りたくないんだもん。だからー、優秀な人と組めば、僕が頑張らなくてもいいでしょ?ほら、僕ってあったま良いー。」
自画自賛し、パチパチと拍手をするアイザック。
(完全にダメ人間ではないか。本当にこのクラスの選考基準は一体何なんだ?!)
紗羅がルイ達の方に目をやると、2人も、震えながら拳を握り締めていたので、紗羅は慌てて止めに入った。
「落ち着け、2人共。いずれにせよ5人1組なんだから、だれかもう1人入れなきゃいけなかったんだ。誰か他にめぼしい奴がいるなら話は別だが、いないだろ?なら、別にこいつでもいいじゃないか。」
紗羅になだめられ、まだ納得のいかない様子だったが、ルイとイアンはしぶしぶ引き下がった。
紗羅達は光の学舎にある書庫に移動し、話し合いを始めた。
「まず、予算を決める上で、昨年の決算表から確認しよう。それからかく部署で今後どのようなことにどれくらいの費用が必要になるか、調べる必要がある。ということで、各々役割分担を決めようと思う。この決算表からある程度の予算配分を考える人間と、各部署の調査をし、何にどの程度費用が必要が調べてくる人間に分ける。いいか?」
紗羅は机を囲む4人の顔を見渡す。内、1名は既に眠りに入っているが、残りの3名は納得したように頷いた。
「じゃあ、俺とヴィンスが各部署を調べてくるから、頭の良いお前たちは昨年度の決算表を洗ってくれ。連絡はサイル、これを持っていてくれるか?」
ルイが懐から水晶玉のようなものを取り出した。
「【呼応】をかけたものか?」
紗羅が聞くと、ルイが頷いた。
「あぁ、これで俺と連絡が取ることが出来る。常に2人で行動することを心がけようぜ。」
完全にアイザックを数に入れず、ルイが提案し、皆同意した。話し合いにも参加しなかったアイザックはその日、話し合いを終えた紗羅達に置いて行かれ、夜中に見回りの教師が来るまで、寝ていた。
翌日、紗羅とイアンは昨日同様、書庫にいた。2人で膨大な量の資料を調べ、昨年の決算表と見比べていた。
(?)
刑部の決算表を見ていた紗羅が不自然な数字に目を止めた。
「イアン、これちょっと見てくれないか?」
紗羅は自分の資料をイアンの方に向けて確認してもらった。紗羅から見せられた資料をじっくりと見た後、イアンが頷く。
「あぁ、確かにこの金の流れは不自然だな。だが、何より不自然なのが…。」
「「これを僕たちに見せていること。」」
紗羅とイアンの声が重なると、2人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
「これ、本物の決算表じゃないよな。素人目の僕たちから見ても分かるものを放っておくはずないからな。」
紗羅が目を輝かせながら言うと、イアンも高揚したような声で答えた。
「同感だ。この課題、ただ単純に予算をあてるだけでなく、裏にもう1つ課題があるみたいだな。どうする?サイル。別にコレはやらなくても、減点にはならないと思うが…。」
紗羅の答えは決まっていた。
(これはダラスが私に与えた課題だ。ならば、受けて立たないとね。)
「もちろん、すべて残さずきっちりと完ぺきに、課題をクリアしたいから、この課題にも応えてみせるさ。」
紗羅の答えを聞き、イアンも眼鏡は光らせて笑っていた。
一方、ルイとヴィンスは工部が建設に携わっているという、橋を創る工事現場にいた。
「必要なのは現在の進捗状況、今後の建設予定だ。俺は役人たちの話を聞いてくるから、お前は現場の人間の声を聞いてこい。」
ルイとヴィンセントは二手に分かれた。
ルイは持って来た下働きの人間の格好に着替え、お茶の準備をする人たちに紛れて、建設を指揮する役人たちがいるテントへ向かった。
テントの中には指揮官である工部の官吏が1人と、王都ライツの役人が3人、机を囲み、設計図を広げて話し合いを進めていた。
「あと3か月もあれば完成します。ただ、ここにきて材料不足が発覚しまして、今の予算だと足りないのですが、如何いたしましょう?」
「何が不足しているのだ?」
「材木です。戸部へ頼んで、予算を回してもらえませんか?」
「うーむ、既に多額の予算をもらっているからな…。」
(今年の予算の割り当ては工部にかなりいっているようだな…。)
ルイは役人たちの話を聞きながら情報を整理していた。
「あの時のことを持ちかければ、なんとかなるやもしれんな。」
(あの時のこと?!)
意味深な発言をした官吏の話を詳しく聞こうとルイは思わず身を乗り出してしまった。
「な、何だね君は?!無礼ではないか!」
身を乗り出すあまり、思わずお茶をこぼしてしまったルイに役人が激昂した。
「も、申し訳ございません!すぐに片付けます。」
「いいから、もうここから出ていけ。」
ルイはそう言われて、テントから追い出されてしまった。
「チェッ。もう少し情報を聞きたかったんだが…。それより、気になるな…。あの工部の官吏の言葉。調べてみる必要があるな。さて、ヴィンスのとこにでも行ってみるか。」
ルイは小走りでその場から去った。
橋の建築現場では、数十人の労働者たちが汗を流しながら働いていた。この世界には魔力をもって生まれてくるものがいるが、大多数は彼らのように魔力を持たない一般人だった。
ヴィンスは彼らと同じ、ぼろ布をまとい、顔を汚して、労働者の中に入っていった。
「あれ?新入りかい?こりゃまたえらい図体のでかいのが入ってきたねぇ。兄ちゃん、年いくつだい?」
無精ひげを生やした、年配の男性がヴィンセントに声をかけてきた。
「………16歳。」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で答えるヴィンセントに男は豪快に笑いながらヴィンセントの肩を思いっきり叩いた。
「めちゃくちゃわけぇじゃねぇか。そんだけでかくて若いなら、俺の分もしっかり働いてくれよな。」
「おーい、シラス!何さぼってんだ?!ただでさえ人手が足りねえんだから、早く来いよ。」
作業場の奥の方で声が聞こえる。ヴィンセントに話しかけていた男は嫌そうな顔をしながら、ゆっくりと歩き出した。
「やれやれ、こーんな安い賃金でこれだけの重労働させるなんて、そんな人生だよなー。」
「……やすい、賃金?」
シラスと呼ばれた男に、ヴィンセントが反応して、聞いた。後ろから質問を投げかけられ、シラスが首だけヴィンセントに向けた。
「おうよ。ここだけの話、本当ならかなりの金額がこの橋の建設のために動いているって話なのに、俺たちの給料は雀の涙ほどしかない。しかもここにきて材料不足つってんで、俺たちのあいだじゃぁ、不正が働いているんじゃねーのかって、話題になっているんだ。もっとも、偉いお役員様の前じゃぁ、こんな話は出来ないがな。」
「…………そうですか。」
ヴィンセントは木の丸太を運びながら、相槌を打った。そのままシラスと呼ばれる男の後をついて行こうとすると、突然ヴィンセントの肩を誰かが引っ張った。ヴィンセントが驚きもせず振り返ると、そこには既に情報収集が終了したルイがいた。
「よーう、何かいいネタ掴んだか?」
「…………。」
無言のヴィンセントに、ルイが思わずこけてしまった。こけた拍子でついた泥を振り払いながら、立ち上がり、「よし。」と言って、建設現場から離れようとする。
「その顔は何か情報を得たって顔だな。とりあえず、俺の宿で、話をしようぜ。」
ヴィンセントはこくりと頷き、ルイの後をついて行った。途中やはり、後ろについているはずのヴィンセントが行方不明になり、あわててルイが捜したりしていたので、2人がルイの宿に着いたのは既に日が暮れた後だった。
新キャラ、アイザック君が全然活躍してくれません!そもそも活躍しようと思ってくれません。ただひたすらにぐうたらに過ごすことを目標としているようです。
次回、引き続き課題編です。アイザック君は働いてくれるのでしょうか。




