*第47章~疑似官吏体験~
「それではまず、出席をとる。」
黒板の前に立った男が、出席簿を手に取った。
「レナード・アディン。」
「はーい。」
「ルイ・アングレイス。」
「うっす。」
教壇の男が次々に名前を呼び上げ、各々返事をしていく。
「サイル・フォード。」
「はい。」
「アイザック・ベルン。」
男の呼びかけに返事が返ってこない。
「アイザック・ベルン!!」
再度大声で呼ぶも、教室は静まり返ったままだった。男が教室を見渡し、何かに気づいた。
「1人足りないな…。15人のはずだが。」
紗羅が教室を見渡すと、確かに席は15個あるのに、座っている人数が紗羅含め、14人しかいない。紗羅の真後ろの席が空席のままだった。
「まったく、初日から遅刻とは馬鹿にしているのかっ!もうよい、次。ジェイド・モーリス。」
「はい。」
全員分の名前を読み終えると、男は出席簿を閉じ、教壇に置かれた冊子を配り始めた。
「えーと、挨拶が遅れたが、私は君たちの担当教師、ジェイド・パラスだ。主に教科を教える。それでは配った資料を見るように。」
パラスに言われ、紗羅達は冊子を開く。そこには課題のようなものがびっしりと書いてあった。
(あれ?)
紗羅はその課題の内容がおかしいことに気づいた。紗羅同様、他の生徒たちも首を傾げている。すると真っ先にイアンが手を挙げて発言した。
「パラス先生。ここに書かれているいる内容ですが、ライツ学院で習うべきことが一切書かれていないです。それに、国家の予算の使い道、河川の氾濫の対処方法等、我ら学生ではなく、朝廷で議論されるべきことが書かれているのですが、これはどういうことですか?」
皆がイアンの質問に同意し、頷いていた。パラスがそのことについて、説明しようとしてこちを開いた時、突然教室の扉が勢いよく開いた。
「その説明は俺が直々にしてやろう。」
扉から入ってきたのは、ダラスだった。…何故か、黒髪の学生を連れて。
「あ、パラス君。こいつ、樹の上でさぼってたから連れてきてやったぜ。ほら、さっさと席に着け。」
「えー、めんどくさーい。」
バラスに背中を押されて気怠そうに黒髪の男が頭を掻きながら、紗羅の後ろの席に座った。
「それじゃあ、お前ら。これからお前たちが卒業するまでの1年間の授業内容について説明するぜ。」
ダラスが悪だくみをしている時のような子供っぽい笑みを浮かべて教壇に立った。
「おい、そこの眼鏡君。えーっと、イアンだっけか。お前何のためにここに来たんだ?」
唐突に質問され、イアンはすぐに答えることが出来なかった。
「…な、何のためって、立派な官吏になるためです。」
「そのとおり!」
ダラスはイアンの答えに拍手をした後、バンっと、教壇を叩いた。
「お前たちが何のためにここにいるか。それは官吏になるためだ。ならばここで学ぶべきは偉い人の言葉でも、難しい計算でもない。登用されてすぐに使える官吏になる勉強だ。というわけで、お前らには実際に朝廷の人間がやっている仕事と同じことをこの1年間やってもらう。」
ダラスの言葉に生徒たちがざわついた。
「そ、そんな…僕たちはまだ未熟者で、学ぶべきものも学び終えていない者ばかりです。急に朝廷の方々と同じ仕事をするだなんて、無理に決まってます。」
反射的に、イアンが声を上げ、他の生徒たちも賛同した。
ダンッッッ!!!
ざわつく教室の中でダラスが黒板を拳で殴り、皆を黙らせた。
「お前たち、仮にもこの間の試験の合格者だろう?ならある程度の知識は頭に入っているはずだ。いいか?知識だけもっていても全く持って無意味だ。実際に官吏になって重要なのはいかにその知識を使えるかだ。お前らラッキーなんだぞ?他のクラスじゃこんなこと学べずにいきなり朝廷で仕事をしなくてはならなくなるんだからな。実際、新人の半数が辞めるか、クビになっているぜ?そんな中でお前らは先に自分たちがする仕事の内容を体験できるんだ。せいぜい、この俺様に重宝されるような人間になるんだな。」
ダラスは生徒たちを焚き付けると、そそくさと教室から出て行った。残されたパラスは咳払いをし、今後の日程について、説明を始めた。
パラスの話が終わり、小休憩をはさむことになった紗羅達。紗羅が教室を見回すと、各々ダラスの言葉を思い返し、蒼い顔をしていたり、目を輝かせていたりした。
(ダラスの奴、あいつまさかこれも私のために決めたんじゃないだろうな…。いや、ダラスならありえる。)
紗羅はこの1年で王として立派に風の国を治められるようにならなければならない。紗羅が風の国の王になるということは世界の平和に繋がる。そのことを考えると、この授業体制は紗羅のためのものとしか考えられなかった。
紗羅が、そんなことを考えていると、紗羅の後ろで結んだ髪がクイッと引っ張られた。
「な、何?」
紗羅が後ろを振り向くと、遅れてやってきた黒髪の男、アイザック・ベルンが眠たげな目をしながら紗羅を見ていた。
「いや、綺麗な髪だからカツラかなーって思って、引っ張ってみた。」
「地毛だ。痛いから離してくれないか?」
紗羅がそう言っても、なかなか紗羅の髪を離そうとしないアイザック。
「なんで離さないんだ?」
「んー、これ売ったら高値がつくかもって思うと離しづらくて。」
(売る気かッ!?)
紗羅は身の危険を感じアイザックの手を振り払った。
「ちぇっ、ケチ。」
アイザックは不満げに口を尖らせた。
休憩時間が終わり、パラスが戻ってきた。その手には大量の資料を抱えている。
「さて、ここにあるのはこの国の各部署の予算の額とと昨年度の決算表だ。これを見て、本年度の予算を5人1組で考え、割り当てろ。レポートの提出は1週間以内。それまでに各自書庫を使って調べるなりして、協力しながら完成させるんだ。出来上がったレポートは国王陛下に提出する。それまで教科の授業はないが、週3回の武術の授業には必ず出席するように。以上で、今日は解散だ。」
生徒たちは皆、唖然としていた。しばらく間をおいて、あちこちから、絶望の声が上がる。
「い、1週間だと?国家の予算の割り当てをそんな短期間で決めなければいけないのか?」
「鬼だ、鬼に決まっている。どうやって調べればいいんだ?」
「そうだ、5人1組と言っていたから優秀な人間がいい。」
「親が貴族の人間もいいんじゃないか?」
ざわつきがぴたりとやむと、生徒たちが一斉に紗羅達の方を見て、歩み寄ってきた。
「フォード君、是非僕と組まないか?」
「イアン、同郷だろ?俺とやろうぜ?」
「ルイ、頼む。お前のその顔の広さを生かして、俺と一緒にレポート書こうぜ。」
「ヴィンス。お前の親確か、戸部の官吏だったよな?」
次々と紗羅達に誘いの言葉をかける生徒たち。紗羅がどうしようか迷っていると、突然肩を掴まれた。
「だーめ。この4人は僕と組むの。他をあたってよ。」
紗羅の真後ろから声がした。振り向くと、アイザックがにこにこと笑っていた。
(何勝手に決めてるんだ…こいつ。)
「悪いけど…。」
紗羅は断りの言葉を言おうと思ったが、その続きを言うのをやめた。
「…そう、僕たちはこの5人で組むから、悪いけど、君たちとは組めないよ。」
イアンたちが「聞いていない」という顔をしていたが、紗羅は無視した。
(だって、こいつら割と優秀だし。人材探しにはもってこいな人脈もあるみたいだし。色々と都合がいいからな。)
「じゃあ、そういうことで、僕たち行くね。」
紗羅はそう言って、ルイ達を急かして、教室を出た。
新キャラ登場!ザ☆マイペース男なアイザック君です。またしても名前に30分くらいかけ、結局適当に名前を付けました。で、思ったんですが、ダラスさん国王なのに暇なんですかね…。違いますよ。私が出したいだけですよ。
さて、いよいよ授業開始です。(あまり授業とはいえませんが。)




