*第46章~アベル・ライツ~
入学式が終わり、各学年の学生たちは自分たちの学び舎へ戻った。本来であれば紗羅達も皆が向かう学舎に行くはずだが、飛び級クラスの生徒である紗羅達は3学年の特別クラスの生徒たちと同じ特別棟、別名『光の学舎』と呼ばれる学び舎で今後勉学に励むことになった。
紗羅がルイ達と一緒に光の学舎へ向かおうとすると、生徒会長であるアベル・ライツに呼び止められた。
「サイル君。ちょっといいかい?」
さわっと、まだ残っていた学生たちが騒ぎ始める。その表情は羨望のまなざしを浮かべていたり、嫉妬の表情であったりと、反応は多種多様だったが、より一層紗羅が目立ったことには変わらなかった。
「なんですか?」
紗羅が無表情で答えると、アベルはちょっと困った顔をして、紗羅に入学式があった建物の裏に来るように言った。
紗羅はルイ達と別れ、1人、アベルに言われた場所へ向かった。
紗羅がたどり着くと、そこにはアベルの他もう1人いた。その人影は紗羅を見つけると大手を振って声をかけてきた。
「おーい、サラ…間違えた、サイル!こっちだ。」
紗羅は『サラ』と呼ばれた瞬間、ズルッとこけそうになった。
(あいつはアホなのか?!)
紗羅は怒りだしそうな自分を必死で抑え、その呼びかけに答えた。
「ダラス国王陛下、何故ここにいらっしゃるのでしょうか。」
妙にかしこまった紗羅の態度にダラスは最初首を傾げたが、やがて隣にいるアベルを見て、「あぁ。」と気づき、ニカッと笑った。
「サ…イル、こいつには俺たちが知り合いだってことは伝えてある。というか、こいつはまるっきし身内だからそんなかしこまらなくてもいいぞ。」
ダラスに言われ、紗羅は少し考えるそぶりを見せ、そしてうんと、頷くと、ダラスに笑顔を向けた。
「そうか、遠慮はいらないってことか。じゃぁ、言わせてもらうがダラス、そしてアベル先輩?あなたたちは僕の学園生活を脅かす気か?アベル先輩、あんたこいつの息子だろう?そんな存在がたかだか主席合格の一生徒に軽々しく、しかもあんな皆が見てる前で声をかけるのやめてもらいます?ただでさえダラスの無茶な試みと、首席合格者ってだけで目立っているのに、これ以上目立つと、学生生活に支障をきたしてしまうだろう!一国の主と、その後継者ならそれぐらい配慮したらどうなんだ。」
静かに怒りをぶつける紗羅にダラスとアベルがキョトンとした。紗羅が怒っている理由が分からないと言わんばかりに間の抜けた顔をした2人を見て、紗羅は思いっきりため息をついた。
「分かった!!」
突然ダラスが何かにひらめいたように、大声を出したため、紗羅はビクッと身体が反応した。
「アベルのことをお前に言っていなかったから怒っているんだな?悪い悪い。でも、もうお前分かっているんなら紹介はいらないか。」
的外れなことを言い始めたダラスに、紗羅は完全にお手上げ状態になってしまった。仕方がないから紗羅はダラスの話に乗ってあげることにした。
「なんとなく、アベル先輩のことは把握しているが、せめて紹介はしろよ。」
「それもそうだな。」
紗羅に言われてダラスはガハハハと豪快に笑った。
「サイル、こいつは俺の息子で長男のアベルだ。この見事な金髪は母親譲りでな、俺と違ってなんでも優秀なんだ。学生の間何か困ったことがあればこいつに頼れよ。そんでアベル、こいつはサイル。訳あって俺とジュダスとジュリアはこいつに協力をしなければならない。まだお前に話す時期ではないからこれ以上は言わないが、知ってのとおりお前と同じくらい優秀だからな。多分気も合うだろう。こいつを助けてやってくれよな。」
ダラスが紗羅とアベルの肩を抱き寄せる。
「よろしくね、サイル君。」
「こちらこそ、アベル先輩。」
ダラスに方を掴まれたまま、紗羅とアベルは挨拶を交わした。
やっとのことでダラスから解放された紗羅とアベルは光の学舎へ向かった。先ほどまでは目立つのを嫌がっていた紗羅だが、今度は堂々とアベルと肩を並べて歩いている。2人を見る大勢の学生の視線など気にも留めず。紗羅はダラスの言葉を思い出していた。
―――ダラスと別れる前、ダラスが紗羅にこそっと耳打ちした。
「おい、紗羅。出来るだけ目立つような行動をするんだ。まずはお前という人物の噂を広めることから始めるんだ。そしてお前に群がる連中の中からお前につき従うような人間を探せ。そこから見方をつけていくチャンスに繋がるからな。」―――
(あいつ、考えなしじゃなかったんだな。そういえばここに来たもう1つの目的は仲間を作ることだったな。)
その行動の裏に深い意味があったことに紗羅は感慨を受け、ならばと、周りに思いっきりアベルと仲良くする姿を見せつけながら光の学舎に入っていった。
アベルと別れ、紗羅は飛び級クラスの部屋へ向かった。
紗羅が自分のクラスの部屋に入ると、ルイとイアンが待ち構えたように紗羅に詰め寄ってきた。
「お前、国王だけでなく、皇太子殿下とも知り合いだったのか?」
「お前は一体何者なんだ?僕に筆記の試験で勝ったことといい、只者ではないな。」
威圧するルイとイアンに紗羅は落ち着くように言って、2人を引き連れていったんクラスを出た。
「つまり、昔国王が紗羅に助けられて、その縁でたまに会っているということか。」
部屋の外で、重要なことをすべて省いて、紗羅はダラスとの関係を大まかに説明した。
「あぁ、まさかここまで感謝されているとは思わなかった。それにアベル先輩に関してはあの人、僕たちの試験中に、あの宿舎の中庭に来ていたよ?」
「まぢか?」
ルイが身を乗り出して喰いついたので、紗羅は一歩引いた。その後も根掘り葉掘り聞いてくる2人にうんざりした紗羅は早々に話を切り上げて部屋の中に戻った。
最初に入ったときにはあまりよく見れなかったが、再び入って、部屋の中を見渡すと、紗羅達以外にも何人か緑の制服を着た生徒がいた。全部で紗羅達を合わせると14人。その中には入学式の前に見つけた小柄の学生もいた。
紗羅はヴィンセントのいる席の隣の席に座った。すると紗羅の後を追ってきたルイとイアンが紗羅達の席の目の前に座り、紗羅達の方を振り返り、延々と紗羅に話しかけてきた。紗羅は2人の言葉を聞き流しながら、どのように仲間をつくるか考えをめぐらしていた。
「――――――か?サイル。」
呼びかけられたことに気づき、紗羅は反射的に顔を上げた。明らかに話を聞いていなかった紗羅にイアンが顔をひきつらせながら、メガネのふちを上げる。
「聞いていなかったのか、お前。」
「す、すまない。考え事をしていた…。何の話だ?イアン。」
素直に自分の非を詫び、紗羅はイアンに話を再開するよう促した。
「だから、僕たち以外のこのクラスの連中が選ばれた理由が分からないって言っているんだ。」
「どういうことだ?成績上位者が選ばれているんじゃないのか?」
紗羅は首を傾げた。同じ光の学舎の3学年の生徒たちは成績上位者から集められていると聞いていたから、当然自分たちもそうなのだと思っていたのだ。
「それだったら、あいつも入っているはずなんだ。バルドがな。それにあのチビ。あいつ多分成績なんて下から数えたほうが早いと思うけど。だいたいこのクラスが何の目的で作られたかが全く分からない。」
(チビって、お前も小さい方だろう…。因みにこのクラスが作られた理由は私だがな。)
紗羅が感心したふりをしながら、「へぇー。」と相槌を打って聞いているのに納得し、イアンが更に話を続ける。
「気になるのが、このクラスの人間の国籍。ほぼ全員が違う国の人間なんだ。僕たちも含めてね。」
「そうなのか?」
初めて聞いた話に、紗羅が興味を示した。
「そうだよ。僕は大地の国出身だし、ルイは花の国出身だろ?ヴィンセントは生命の国の人間だ。」
「あれ?でもお前ら元々知り合いじゃなかったのか?」
宿舎で2人ともバルドのことを昔から知っているような口ぶりで話していたため、紗羅はてっきり同じ国の幼馴染か何かだと思っていた。
「それは、僕たちは幼いころから立派な官吏になるため、この国の同じ私塾で学んでいたんだ。この国は小学のレベルから他の国とは比べ物にならないほど高いからね。ルイとバルドは僕と同期で、ヴィンスは3年前に来たんだ。…というか、サイルは私塾に通っていないのか?お前ぐらいの頭の良さで光の国の人間なら、絶対に噂になっていたはずなのに。」
きわどい質問をされ、紗羅は返答に困った。
(そりゃ、この世界に来たのが最近なんだから、知らないのも当たり前だろう。)
「か、家庭教師がいたから、そいつに習っていたんだ。」
下手に嘘をつくよりはある程度本当のことを言った方がいいと考え、紗羅はそう答えた。
「へー、金持ちなんだな、お前。」
イアンの話を黙って聞いていたルイが、口を開いた。
「俺なんか俺を私塾に通わせるために俺の家の家計は火の車だぜ?それなのに家庭教師がつきっきり指導なんて、いいご身分だな。」
ちょっとやさぐれた感じでルイが言った。
(いや、受講料はタダだったぞ?そもそも僕は今一文無しなんだが…。うん、やっぱり金銭的にこの状態は芳しくないな。いつまでもダラスやジュダスに頼るわけにはいかないし。てっとり早く稼げる方法ないかなー。)
頭の中で考えが脱線していき、言葉を発しなくなった紗羅を見て、ルイはますます不機嫌になっていった。
「お前さ、俺のこと馬鹿にしてんのか?貧乏人とは話もしたくないのか?」
ルイの怒りの声が紗羅を現実世界に引き戻した。
「あ、悪い。でも僕言っとくけど金持ちじゃないよ?家庭教師も僕の家庭教師をしてくれることと僕がその家庭教師の望みをかなえることとの交換条件でしてもらったことだし。僕の身分は使用人だからね。それに君は貧乏人じゃないだろ?だって、私塾にも行けて、この学院にも通えるんだから。よっぽど恵まれているよね。」
笑顔なのに、言葉の端に棘を含んで話す紗羅に、ルイは言葉を詰まらせた。ルイの口が何かを言おうとして開きかけたとき、教室の扉が開き、教師らしき黒服の男性が入ってきた。
「さあ、席について、前を見るように。これからこの飛び級クラスについての説明を始める。」
男がそう言うと、教室は静まり、後ろを見ていたイアンとルイも前に向きなおした。
あまり話が進みませんでした。学生ももっとキャラを出す予定ですが、上手く治めることが出来るかどうか、不安でいっぱいいっぱいです…。当面の目標はクラスメイトをちゃんと書くことです。頑張ります。




