*第45章~光の国国立ライツ学院~
光の国国立ライツ学院。そこは光の国の者だけではなく、各国から選りすぐれの人間たちが集う、いわばエリートの中のエリートを育てる学校。広い敷地の中に、綺麗な学舎、武術を鍛える鍛練場、学院所有の馬屋、魔法の実技をするための建物など、豊富な設備が整っている。学年は全部で3学年あり、2年までは成績でクラスを分けるが3年からは文官、武官、魔導師のクラスに分けられ、各クラスのトップたちだけで編成された特別クラスがある。春の入学のための試験が過ぎ、緑の季節が始まる直前に、今年の新入生たちの入学式が始まった。
紗羅は入学前に渡された緑の学生服を身に纏い、背中に長弓と竜剣を担いで、ジュダスの邸を出た。
道中、何故か国境の方へ向かって歩いているヴィンセント、酔っ払いと喧嘩をしているルイ、本を読みながら歩いているため、行く先々で通行人とぶつかっているイアンに出会い、一緒に行くことにした。
ライツ学院は紗羅達が試験中寝泊まりした宿舎のすぐ隣にあり、上級生たちの登校日とも重なって、学院に近づくにつれ多くの人でごった返していた。
紗羅は行き交う学生の姿を見て、あることに気づいた。
(服の色が違う?)
紗羅達4人が来ている服の色は緑。その緑の服を着ているのは紗羅達だけで、他は紫色の服、赤色の服、青色の服、黄色の服を着ていた。
「噂は本当だったようだな。」
歩きながらイアンが呟いた。
「噂って?」
ルイが聞き返す。するとイアンがクイッと眼鏡のふちを上げる。
「学生服は通常学年によって色が違うんだ。赤が3年、青が2年、黄色が1年。そして3学年だけに存在する特別クラスの色が紫だ。」
聞きながら、ルイが不思議そうな顔をした。
「それなら俺たちは黄色を着るべきなんじゃないのか?」
イアンは下を向き再び眼鏡のふちを上げた。
「それが、国王が今年から1年にも特別クラスを作ったという噂が流れているんだ。それだけでもイレギュラーなのに、他にも色々あるようで、今ライツ学院に波紋が広がっているらしい。」
(何を考えているんだアイツは…。)
紗羅はそう思いながらも、なんとなくダラスがしようとしていることが分かった。
(私のためか。)
学院の門をくぐり、一歩足を踏み入れると、散りかけの桜が、それでもまだ季節は終わっていないと言わんばかりに咲き乱れていた。その桜の樹が並ぶ並木通りを抜け、一直線上に、学院での催し物が行われる大きな建物があった。本日の入学式もそこで行われる。
その並木通りを4人で歩いていると、行き交う学生たちの視線を紗羅達は感じた。おそらくはこの学生服のことだろう。
紗羅はその視線を完全に無視し、前を向いていた。
(あれ?)
紗羅達のずっと前に緑の服を着た人間が見えた。小柄で他の学生たちに埋もれてて先ほどまでは気づかなかったが、一瞬開いた隙間から、他の学生たちとは違う色の服が見えたのだ。そして、その小柄の学生の他にもう1人。建物の脇の大きな桜の樹の上から垂れている緑色の布があった。おそらくそこにも緑の学制服の学生がいるのだろう。
別段その2人に声をかけるでもなく、紗羅達はまっすぐ建物の中に入っていった。
建物の中には前方に黄色の制服を着た1年生たちが降り、後方に赤、青、紫の制服を着た上級生が並んでいた。紗羅達が前に進んでいくと、紗羅達や、先ほど見つけた2人以外にも5人程、黄色い集団に紛れて緑の制服の学生たちがいるのに気付いた。紗羅達はその緑の制服の学生たちが固まって集まっているところに合流した。
「やぁ、イアン、ルイ、ヴィンス、サイル。無事合格できたようだね。」
猫なで声のような声が聞こえ、紗羅が振り向くと黄色の服を身に纏ったバルドが立っていた。
「なんだ、お前。受かったのか…。」
心底どうでもよさそうにルイが言った。バルドはそんなルイの言葉や、紗羅達のめんどくさそうな反応も気にせず、威張ったように告げた。
「当たり前じゃないか。僕は筆記では3番だったんだぞ?それに僕のお父さんは現在の工部尚書だぞ?僕の一族は代々名官吏を輩出しているんだ。その一族の中でも期待の星である僕が受からないわけないだろう?あと、お前らいい気になるなよ。所詮特別クラスとは名ばかりで、お前らの組は寄せ集めのクラスなんだからな。」
バルドが鼻で笑うのを見て、皆首を傾げた。ただ、、本当に言っている意味が分からなかっただけなのに、その態度にバルドが切れて「調子に乗れるのも今の内だぞ!」と捨て台詞を吐いて、その場から離れた。
準備ができたのか、この学院の教師らしき黒の官服に身を包んだ老年の男が一番前の台の上に立ち、何か詠唱をしたあと、「コホン。」と会場中に響くような咳ばらいをした。その咳払いの後、会場中が静まり返った。
(あれも魔法か?まるでマイクを使ったように声が響くんだな。)
この世界では科学が発達していないためマイクというものが存在しなかった。前回の試験の際の表彰の時もダラスの声が何故か響いていたが、おそらく同じものだろうと紗羅は確信した。
「えーっと、これより、光の国国立ライツ学院の入学式を始めます。まず始めに、生徒会長挨拶。生徒会長、アベル・ライツ殿下。前へお越しください。」
(アベルって、もしかして…。)
学院の生徒会長に対してあまりにも丁寧な言葉で老年の男が言うと、呼ばれた生徒会長と言われる人物は輝く金色の長い髪をたなびかせながら、颯爽と壇上に上がった。そして、その年の男の子にしては少し高めで、だが聞くと心地よい高さの声を発した。
「新入生諸君、入学おめでとう。ここで君たちは我々と共に、立派に国に尽くす官吏となるため、精進をしていってほしい。なにか分からない事や、不安なことがあれば我々上級生が君たちの助けとなろう。」
宣言のようなアベルの言葉に、学生たちの雄叫びが上がった。収まらない騒ぎに、アベルがスッと右手を挙げると、歓声を上げていた学生たちが再びぴたりと静まった。
アベルが壇上に残ったまま、老年の男が進行を再開した。
「続いて、新入生代表挨拶。首席合格者、サイル・フォード前へ。」
名前が挙がった瞬間、1年生たちにざわめきが走った。試験中、紗羅の名前が広まり、今や紗羅を知らない1年生はいないほどだった。
呼ばれた紗羅は一瞬戸惑った。
(聞いてないぞ…。ダラスのやつ、そんなものがあるなら先に言っててくれればこんな式典出なかったのに。)
まんまとダラスにしてやられた感を感じた紗羅は苦味つぶしたような顔を少し浮かべ、すぐにその端正な顔を誇らしげな笑顔に変えた。
1年生たちには紗羅の顔も名前も知られていたが、上級生や教師陣の中にも、紗羅の名前だけは知っている人間が何人かおり、有名な紗羅の顔を見ようと背伸びをしている者たちがいた。そしてその背伸びをした連中は紗羅を見た途端、見とれて、その体勢で固まってしまった。
紗羅が壇上に登り切り、正面を向くと男しかいない会場から何故か黄色い悲鳴が聞こえた。声のする方に目をやると、『サイル頑張れ』と書かれた横断幕が掲げられていた。紗羅はめまいがして一瞬下を向いた。すると、自分の足元に魔法陣が描かれていることに気づいた。魔法陣の中の文字列から言って、おそらく先ほどのマイク効果のような魔法であろうことが分かった。紗羅はすぐに顔を上げて、笑顔を崩さず口を開いた。
「教師や、上級生の皆様。我ら新入生のためにこのような立派な式を開いていただき、新入生一同、真に感謝の気持ちで一杯です。在校中はしっかり勉学と、鍛練に励み、卒業の日を迎えるころには胸を張ってこの学院を去れるよう、日々精進に努めます。まだしばらくは不慣れなため、皆様にはご迷惑をおかけすると存じますが、あたたかい目で見守っていてください。新入生代表、サイル・フォード。」
紗羅は一歩後方に下がり会場の脇に並ぶ教師陣に向かって一礼をし、次に正面に向かって礼をする。最後に生徒会長と老年の男に向かって礼をし、2人と握手を交わした。
紗羅とアベルが握手をすると、アベルが紗羅に極上の笑みで微笑みかけ、「また会えたね。」と紗羅に言った。
紗羅が壇上から降りると、老年の男が『閉式』そ言葉を言おうとする。が、その時、突然後方の扉が勢いよく開き、ダラスが登場した。
ざわめく会場の中でダラスが真ん中を進もうとすると、学生たちが素早く脇に避けていった。そしてダラスが壇上に飛び乗り、学生たちを視線で一周する。
「コホン、えー、皆は噂で知っているかもしれないが、本年度より1学年に新たなクラスを設ける。本日緑の制服を身に着けている諸君、お前らは飛び級クラスのメンバーだ。」
ビシっと紗羅達を指差して告げるダラス。
(飛び級って、もっと他に名前の候補はなかったのか…。)
紗羅は呆れ顔で壇上のダラスを見た。
「この飛び級くらすの在校期間はずばり1年間のみ。短い分、諸君には必死で勉学と鍛練に励んでもらう。そして卒業するころには3年間通った者と同等の待遇、いや、諸君は選ばれた人間だからそれ以上の待遇が待っている。もちろん我が国の官吏となれば出世コースまっしぐらだ。」
ダラスの説明に会場中がざわつく。上級生も、1年生も殆どの者がその新たな試みに反感を覚えている。納得がいかないというような声があちこちから聞こえる。そんな学生たちの不満を一蹴するようにダラスは厳しい表情で捕捉をした。
「ちなみに、その組の人間のカリキュラムは通常の組のものの5倍はある。もちろんその内容についてこれそうな者を選んでいるが、無理だと判断したらいつでも別の組へ移動可能だ。その場合はもちろん3年間きっちり学んでもらう。」
『5倍』という言葉を聞いて、上級生たちが絶句した。元々、ただでさえライツ学院の授業は難しく、毎回出される課題の量も半端じゃない。その5倍もの量だというと、丸1日起きていても足りないくらいだ。とても自分たちには出来ないと、ライツ学院の現状を知っている上級生たちは反発するのをやめ、なぜ上級生たちが反発を止めたのか理解した黄色の服を着た1年生たちも、口をつぐんだ。
紗羅が受験していた学校の名前を今更付けました。さて、「学生編」をスタートさせましたが、学業と共に、紗羅の国王への道も進めるわけです。どうやって織り込もうかなーとか、今必死で考えています。でも新キャラも出す予定だし…。なかなか収まりがつきませんねー。




