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*第44章~シーラの母~

 のどかな陽気に包まれた日。順位発表と表彰も終わり、試験官から魔法封じの紐を解いてもらった後、紗羅は同室のルイとヴィンセントに別れを告げ、宿舎を後にした。

 ジュダスの邸に向かいながら紗羅は式の後、こっそりダラスに呼び出された時のことを思い出した。


――ダラスは紗羅に渡した腕輪を紗羅にはめるように言った。

「サラ、この石はな、お前を守るだけじゃなくて、契約したお前の神獣がお前の心を読むのを阻止できるんだぞ。」

「そうなのか?」

 紗羅が聞くと、ダラスが満面の笑みを浮かべた。

「あぁ。もちろんお前が呼びかければ神獣にも伝わるがそれ以外であれば絶対に神獣はお前の心を読むことが出来なくなる。その石が風の国の神鳴石だったら話は違うが、それは俺の国の石だからな。お前の神獣とは波長が合わないんだ。ちなみに俺は花の国の神鳴石をもっているぜ。」

 ダラスはそう言って、自分の指にはめた蒼い指輪を見せた。

「これのおかげで俺はカイルに知られる前に好き勝手行動できるんだよ。お前もたまには誰にも知られず息抜きしたいだろ?そのためにお前にそれをやったんだからな。国宝級のシロモノなんだから大事にしろよ!!」

 ダラスは紗羅の頭をガシガシと乱暴に撫でた。――


 紗羅はキラキラと虹色に光を併せ持つその腕輪を眺めながら、ジュダスの邸にたどり着いた。門をくぐると、家の扉の前で、そわそわしているシーラとアレクが待っているのに気が付いた。

「あ、お兄ちゃん!!」

「主!」

 紗羅の姿を見つけ、駆け足で紗羅のもとへ来る2人。シーラはそのまま紗羅に飛びつき、アレクは紗羅の前に立ちホッとしたような顔をした。

「心配をかけたみたいだな。留守中、かわりはなかったか?」

 紗羅はシーラを抱きかかえ、アレクに聞いた。

「ご無事で何よりです。シーラ嬢は毎日かかさず私塾へ通い、しっかりと勉学に励んでおられましたよ。」

 紗羅は「そうか。」と言って、笑った。


 紗羅が「歩きながら話をしたい。」と言ったので、3人はジュダスの邸の庭を歩いた。紗羅はシーラに試験の内容、紗羅の出来、試験会場で一緒に過ごした受験生たちのことを語り、シーラはその話を楽しそうに聞いていた。

 そうして、紗羅の話が終わると、疲れたようにシーラが紗羅の腕の中で眠ってしまった。

「主、私が運びます。」

 アレクが紗羅に向かって手を差し出すが、紗羅はその手をやんわりと押し返した。

「それより、アレク。お前僕に言わなければいけないことがあるんじゃないのか?」

「え?何のことで―――」

 アレクが紗羅の表情を見て、一瞬で凍り付いてしまった。傍から見れば紗羅はにっこりとした笑顔でアレクを見ていたが、アレクにはその紗羅の表情の後ろにどす黒い感情が見えたのだ。間をおいて、呪縛から逃れたアレクは光よりも早く紗羅の前に移動し、その移動と同時に勢いよく土下座の体制に入った―――が、あまりにも勢いが良すぎて飛び込むような形で土下座の体制に入ったため、その勢いで前転をしてしまうことになった。自分の考えていた行動と違う動きをした自分の体に動揺しながら上を見上げると、先ほどの笑顔から少しも表情を変えない状態で紗羅がアレクを見下ろしていた。

「どうかしたか?アレク。」

 アレクは冷や汗をダラダラと流しながらギュッと目をつぶり、その体制のまま、叫んだ。

「申し訳ございませんでしたぁ!!!私は自分の勝手な判断であの人間に主の過去を喋ってしまいました。どのような罰も受ける所存であります!」

 アレクが叫んだあと、数秒間沈黙が流れた。アレクは中々返事が返ってこないことに違和感を覚え、恐る恐る目を開いて、紗羅の方を見上げた。すると、何故か紗羅が後ろを向いて、震えていた。

「あ、主?如何なされたので―――」

「ブッッッ…アっハハハハハハッ!」

 紗羅はこらえきれず、とうとう腹を抱えて笑い出した。それを見たアレクは自分がからかわれたことを知った。

「主、あんまりじゃないですか!忠僕たる私をからかうなんて。」

「悪い悪い、ちょっとした実験をしただけなんだ。」

 紗羅は笑いすぎて涙がでる瞳をぬぐい、アレクに誤った。

「実験って…あ、そう言えば!!まさか主、その腕輪は神鳴石ではないですか?!」

 アレクは立ち上がり、紗羅の腕輪を指差した。その問いに紗羅があっけらかんと答える。

「よくわかったな。さすが神獣と言ったところか。ダラスにもらったんだが、効力を確かめたくてな?ま、でも実際本当にお前と僕の通信が途絶えるんだな。便利だよ、これ。」

 紗羅が嬉しそうに言うと、アレクが泣き出しそうな顔をした。

「主、私のことがそんなに疎ましいのですか?これでは主に何かあったとき、私が駆けつけることが出来ないでしょう!!そんなもの、はやく外してください!!神鳴石がほしいのであれば我が国の物を差し上げますからぁ!」

「いや、それじゃあ意味ないから。僕にもプライバシーを守る権利ってあると思うんだ。何でもかんでもお前に筒抜けってのは少し気持ち悪い。」

 きっぱりと紗羅に拒絶され、アレクは膝をついて、落ち込んでしまった。



 紗羅が久しぶりにジュダスの屋敷で一晩過ごし、翌朝目覚めると、まだ朝日が昇り切っていない時刻にアレクがシーラを見つめていた。

「どうかしたのか?アレク。」

 問われてハッとアレクが紗羅が起きていることに気づいた。

「おはようございます、主。よく眠れましたでしょうか?」

「僕の眠りなどどうでもいいだろう。それより、そんなにシーラを見つめて、何かあったのか?もしやシーラの力のことか?」

 紗羅に言われてアレクが図星をつかれたような顔をした。

「さすがは主、聡明でいらっしゃる。えぇ、その通りです。やはりシーラ嬢の力は私の聖獣のうちの1匹の力が混ざっております。そしておそらくその聖獣は―――」

「ゼダか。」

 アレクが話すよりも先に紗羅が答えを見つけ、アレクが頷いた。

「あの者と再会した時、あの者に与えた力の一部が消えていることに気づきました。最初は魔に落ちたせいかと思いましたが、そういうことではなく、そっくりそのままその力だけが抜き取られているような状態でした。そしてその力の面影を、このシーラ嬢の内から感じるのです。」

 すやすやと眠るシーラの寝顔を見つめて、紗羅が暗い表情をした。

「確かシーラの両親は亡くなっているんだったか。何かシーラから聞いたのか?」

 アレクは再びこくりと頷き、紗羅の傍に寄った。

「小さい頃のことなのであまりはっきりとは覚えていないようですが、まだご両親が健在だったころ、1匹の狐と一緒に旅をしていたと言っておりました。そして母上も魔導師だったと。ただ、ご両親がお亡くなりになったときのことは覚えていないようで、気づいたらあの井戸のところに眠っていたそうです。そしてその時から、シーラ嬢は水を浄化する力を使えるようになったと言っておりました。」

 アレクから話を聞き、紗羅は押し黙って考えをめぐらせていた。

(確かに、シーラはほとんど無意識で浄化の力を使えていた。人間の魔力であれば、使うのに魔法陣や詠唱が必要なはず。おそらくシーラが使った浄化の力はその聖獣のものだろう。そしてその力以外に、シーラ自信が本来持っている魔力もある。シーラに聖獣の力が宿ったのは偶然か?いや、誰かがわざとやったんだ。きっとその誰かはシーラの母親だな。シーラに魔力があることを知って、シーラの身体に移しても害にならない力を移したんだ。問題は何故わざわざそんなことまでしたかだ。おそらくシーラの母親がシーラに力を移したのは死ぬ寸前のことだろう。不安定な聖獣の力を抜き取り、違う者へ移す、その行為には二重の意味が込められている。シーラの身を守ることと…。)

 紗羅は顔を上げ、アレクを見た。アレクは紗羅の視線の意図を理解した。

「シーラに移された力は、いずれあの聖獣を元に戻す鍵となるのだな。そして、あの聖獣をあの姿にしたのは、シーラの母親か。」

 アレクは瞼を閉じ、静かにうなずいた。

 どんな形でもゼダを生かしたかった、そしていずれ我が娘が自分の大事な聖獣を救うと信じて、かの女魔導師は一世一代の大勝負に出たのだ。

 紗羅はシーラの髪を撫でながら、寝ているシーラに話しかけるように言った。

「母上の期待に、応えねばな。だが、その重荷は1人で負わせるわけにはいかない。これは僕の問題でもある。僕はお前の母の願い、2つとも叶えてみせる。」

 

 

はい、来ました!アレクの土下座芸!!今回は前転、もといでんぐり返しとの合わせ技です。そして何気に出させてもらいました、シーラの事情。

 さて、中休みをはさみ、次回からは「光の国の学院へ通おう」シリーズが始まります。前回までのキャラたちに加えて、上級生とかも出てきます。そしてそのうち自分で把握できなくなるでしょう。でも出してみたいキャラがいっぱいいるので頑張ります。

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