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*第43章~闇の中のもくろみ~


 星の光さえ厚い雲に覆われて見ることのできない、深い闇。冷たく強い風が、ざわざわと葉擦れの音を立てている。空気は冷たいはずなのに、紗羅はじっとりと汗をかいていた。

「ジュダス!何故ここに来た?」

 腕を掴まれ、振り払うことができず、ただもがくことしか出来なかった紗羅。数刻前にジュダスに対して、拒絶をしていたから来るはずはないと思っていたのに、彼は笑顔でそこにいた。

「何故って、同じ釜の飯を食った仲間のピンチだぜ?ホントは神獣も連れてきたかったんだが、お前の言いつけを守らなきゃなんねぇってんで、梃子テコでも動かなかったんだ。まぁ、でもお前に何かあったと分かったときのあいつの表情は尋常ではなかったがな。」

 大剣を担ぎ、大股でこちらに向かってくるジュダス。紗羅を捕えている男とそばにいる黒いフードの男はジュダスが手にしている大剣を見るや、急に身構えた。

「お?こいつの力が分かるってのかい。目利きだな、てめぇら。さーて、久々の大暴れだ!!!」

 ジュダスが大剣を構え、勢いよくその場を駆け出す。サラを捕えていた男は自分に向かってくるジュダスに対処しようと、思わず紗羅を掴んでいた腕の力を弱めた。

(しめた!!)

 紗羅はその隙をついて、思いっきり腕を引っ張り、同時に男をジュダスめがけて突き飛ばした。暁羅の顔をした男はバランスを崩し、その場に座り込む。そこへジュダスが剣を振り上げて飛びかかってきた。

「くらえッ!!」

 ジュダスの大剣が虹色に発行し、その剣から光の刃が放たれようとした寸前、黒いフードの男が座り込んだ男の前に立ち、腕を伸ばし、何かを呟いた。すると、ジュダスの大剣から光の刃が黒いフードの男めがけて放たれ、男にぶつかろうとした瞬間、巨大な爆発音と共に、煙が上がった。

 紗羅はどうなっているのか状況を掴む前に、固まって動けないでいるルイとヴィンセントのもとへ向かい、ルイが手にしている剣をとり、ジュダス達の方を振り向く。徐々に煙が薄くなり、中が見えてきた。

 ジュダスの攻撃をもろに喰らったであろうはずの男達の姿は既にその場にはなく、剣を構えたジュダスだけが立っていた。

「くそっ!逃げられたか…。」

 ジュダスは剣を鞘に納め、紗羅のもとへ駆け寄った。

「おい、大丈夫か?サラ。」

 青ざめた顔をした紗羅に声をかけるジュダス。紗羅は、汗をぬぐい、ジュダスの方を見た。

「あぁ、平気だ。それより、どうしてわかったんだ?」

 紗羅はルイの剣を彼の鞘に戻した。

「あの神獣が急にしかめっ面になってな?で、すぐにこの剣をもって、ここへ向かえっていうもんで来たんだよ。グッドタイミングだったな。」

 豪快に笑うジュダスに、紗羅もつられて笑った。

「お?やっとちゃんと笑ったな。」

 ジュダスは紗羅の頭をポンポンと優しくたたいた。紗羅はくすぐったそうに顔を赤くして照れていた。

「笑うってことは大切だぜ?でも、無理して笑おうとしても駄目だ。つらいときは思いっきり泣いたり、怒ったりするべきなんだ。そんで、いっぱい落ち込んでから、思いっきり笑う。でなきゃ、心と一緒にからも不健康になっちまう。お前はこれから王になる。今以上に自分の感情をセーブしなきゃなんない。でも、王だって人間なんだ。ダラスみたいになれとはいわねぇが、たまには誰かに相談したり、感情をぶつけたり、一緒に笑ったりしてもいいんだぞ。」

 紗羅の頬に涙が伝った。自分の黒い感情と一緒に身体から流れ出ていくようだった。まだすべての闇が張れたわけではなかったが、今はそれでも構わない。明日にはきっと何事もなかったかのように過ごせるだろうから。




   ◇         ◇         ◇         ◇         ◇




  魔の気配が蠢く中に、彼は立っていた。自分たちが出て来た鏡に自分の拳を叩きつける。

「ちっきしょう…。あと少しだったのに!」

 違う人間の面をかぶってた彼の顔から、その面がとれ、男の赤い瞳が鈍く光った。その男のそばを通り抜け、コツコツと音を立てて、黒いフードの男が部屋の奥の真ん中にある黒い椅子の上に座った。

「大丈夫だ。機会はまだいくらでもある。準備が整い次第、始めるのだ。」

 黒いフードの男は、フードの中で、邪悪な笑みを浮かべた。

「愚かな人間クズどもに復讐をな。」

 黒いフードの男の言葉に賛同するかのような雄叫びが、2人以外誰もいない部屋に響いた。



 

   ◇         ◇         ◇         ◇         ◇



 明け方、黒いフードの男にかけられた魔法が解けて、ルイとヴィンセントが中庭を見渡すと、既にそこには誰もいなく、急いで自分たちの部屋へ戻った。

「おはよう。どこに行っていたんだ?2人とも。」

 部屋に入ると、自分たちが捜していた人物、紗羅が飄々と身支度をしながら声をかけてきた。

「どこって、お前昨日襲われていただろう?」

 ルイが紗羅に詰め寄ってきたが、紗羅は首を傾げた。

「なんのことだ?僕はずっとこの部屋にいたではないか。2人して、寝ぼけているのか?」

 紗羅はルイを押し返して扉の方へ向かった。だが、扉の前にヴィンセントが立ちはだかる。

「……おまえ、大丈夫なのか?」

 低く、くぐもった声でヴィンセントが聞く。紗羅はその言葉にピーンときたかのように、手をポンとたたいた。 

「あぁ。僕が昨日倒れたからか?それなら大丈夫だ。ルイなんかに負けたのは口惜しいが、ま、まぐれで負けてやったことにしてあげるよ。」

 ニヤリと口の端をあげてルイに言った紗羅にルイが怒りで肩を震わせていた。

「ふっざけんなよ!!人が心配してりゃあ、言いたいことを言いやがって…。あれはまぐれじゃねぇ、完全な実力だ!」

 堂々と言うルイに紗羅がフッと馬鹿にしたような笑みを浮かべ、くるりとヴィンセントの方を向く。

「実力、らしいぞ。君もそう思うか?ヴィンセント。」

 聞かれたヴィンセントは、黙ったままサラとルイを見比べ、ゆっくり首を横に振った。

「………サイルの方が、強い。」

 断言されたルイは地団駄を踏み、ひたすら文句を言い続けた。紗羅とヴィンセントはそんなルイを無視して、最後の集合会場へ向かった。


 集合会場は大きな神殿のような建物で、その中には昨日の剣術試験に受かった受験生が集まっていた。紗羅、ヴィンセント、そして紗羅達の後を追ってきたルイを合わせて150名。受験生たちの最後尾に並ぶと、会場の前方のステージのような台の上の中央の立派な赤い椅子の上に座っていたダラスが立ち上がった。

「これより、我が光の国の学院合格者150名の上位3名に俺から優秀の証を与える。、今から呼ばれるものは前へ出よ。」

 ダラスの声が会場中に響き渡った。次いで、そばに控えていたカイルが、書状を読み上げる。

「ますは第3位、ルイ・アングレイス。前に出よ。」

 ルイは「御意。」と返事をし、ダラス達の待つ台に上がり、ダラスの前に膝をつき顔を伏せた。ダラスは手に箱をもち、ルイに話しかける。

「昨日の剣術大会もさることながら、文武両道で素晴らしい成績を残したな。お前にはこの虹珠の剣飾りを与えよう。いつでもお前の行く未来さきが虹色に輝くように。さぁ、受け取るがいい。」

「ありがたく、拝受いたします。」

 ルイは恭しくダラスからその箱を受け取り、一礼をして、台から降りた。

「次に、第2位、イアン・グレイ。前に出よ。」

 ルイ同様、イアンも台に上がり、誇らしげな笑みを浮かべて膝をつき、顔を伏せた。ダラスはそばに控えていた官から長い箱を受け取り、イアンに差し出した。

「筆記の試験において、素晴らしい成績を収め、先日の弓の試験ではその見事な腕前を見せ、1位を飾ったな。お前の筆記試験での答案、俺も見させてもらったが、素晴らしかった。お前には我が国の神獣であるユニコーンをかたどった佩玉を与える。その頭脳を生かし、お前の打つ矢のようにまっすぐと国に尽くすがいい。受け取れ。」

「ありがたく、拝受いたします。」

 イアンが台から降り、カイルが最後の名前を読み上げる。

「最後に、今年の首席合格者、サイル・フォード。前に出よ。」

 その名が呼ばれた途端、会場中がざわついた。誰もが紗羅の優秀さを理解していたが、その美貌は何度見ても、感嘆のため息が漏れるほどのものであり、今回の試験で出来上がってしまった紗羅の親衛隊が、紗羅が歩き出すとともに歓声を上げていたからだ。

「静まれ!王の御前であるぞ!」

 見かねたカイルが声を上げ、皆を黙らせた。

(王らしくないダラスのせいでもあるんじゃないのか?)

 紗羅が呆れたような顔をして、ダラスの前に立ち、膝を折って顔を伏せた。そこにアレクがいたら、絶叫しそうな光景だが、紗羅の所作の美しさに、再び会場中からため息が漏れた。ダラスはコホンと咳払いをし、官から小さな箱を受け取った。

「筆記試験、弓の試験共に首位、馬術の試験と剣術大会では2位の成績だったが、すべてにおいて、他を圧倒するようなことを成し遂げてくれたな。お前にはこの、神鳴石しんめいせきから創られた腕輪を授けよう。」

 『神鳴石』とダラスが言った瞬間、会場にどよめきが走った。皆が王のその言葉に驚きを隠せないようだった。

(確か、神鳴石って…。)

 紗羅は今回の試験にも出て、カイルから習ったこの世界の鉱石について、頭に浮かべた。

 『神鳴石』、それは遠い昔、神が神獣と共に各地に置いた神の力を秘めた石で、その効力は守りの力である。それぞれの神獣と同じ性質の守りの結界を張ることが出来るが、その数はかなり稀少であり、ほとんどが国の中央である城に保存されている。各国は、神獣や聖獣と共に、この神鳴石の力で、魔物から国を守っている。名前の由来は、その石が効力を発揮するときに、鳴くように石の中で波紋が広がり、鈴のような音を鳴らすことからつけられた。

 その貴重な鉱石から創り出された腕輪を、官吏でもないただの受験生である紗羅に与えること、それはそれだけ王が紗羅に期待をしているということの表れである。

「いつ、いかなるときでも、お前という宝に危害が及ぶことのないように。さあ、受け取れ。」

 ダラスがずいッと紗羅の前に腕輪の入った箱を差し出すと、紗羅は躊躇することなくその箱に手を差し出した。

「謹んで、拝受いたします。」

 そう言って箱を受け取ると、優雅な足取りで台から降りた。


ここで試験の順位発表がされたんですが、なぜヴィンズの名前が挙がらなかったんでしょう…。それは彼の筆記の成績が下から2番という順位だったからです。イアンもルイも、ほとんどの試験で上位に入る成績を残したので、入賞しましたよ。次回から、再び紗羅とアレクのコンビが復活です。

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