*第42章~襲撃~
日が沈みかけ、空がオレンジ色に染まっている。暖かな陽気に包まれていた昼間と比べ、風が冷たくなった。
ジュダスはジュリアと別れ、愛馬に乗り、急いで帰路についた。相手が逃げるわけではないが、急がなければ何かが壊れてしまうと肌で感じ取ったのだ。
息を切らせながら邸に入りドスドスと音を立てながら邸の奥の部屋の扉を勢いよく開ける。
「おい、神獣!!話がある!」
突然大きな音を立てて扉が開いたことに、部屋の中にいた少女がビクッと身を縮ませた。少女のそばにいる白い少年が何もかも悟っているかのような顔をして、振り向いた。
「お前が言いたいことは分かっている。何を聞きたいのかもだ。だが、お前に話してもどうにもならないことだ。」
冷たく言い放つ少年、アレクにジュダスが怒りを覚えた。
「ふざけんなよッ!てめぇらそろいもそろって、人を締め出してそれで満足か?!お前あのままサラを放っておいてもいいのかよ!!」
激昂して叫ぶジュダスにシーラが脅えた。そして泣きそうな顔をしてアレクを見る。
「お兄ちゃんどうかしたの?病気なの?」
アレクはゆっくりと首を横に振り、優しい微笑みをシーラに向けた。
「ご心配なさらずに。主は大丈夫です。さぁ、もう眠る時間ですよ。」
アレクはシーラをベッドに促した。シーラは納得のいかない様子だったが、あまり聞くと迷惑になると悟り、自らベッドに入っていった。
ジュダスとアレクはシーラが寝た部屋を出て、ジュダスの部屋へ向かった。ジュダスの部屋は紗羅達の部屋を出て、まっすぐ歩き、廊下の真ん中で左に曲がって突き当りの大部屋になる。紗羅達の部屋の3倍の広さの部屋の左奥にさらにドアがあり、ジュダスはアレクをつれてその中の小部屋に入った。小部屋の中は薄暗く、テーブルと椅子が3つだけのシンプルな部屋。
「ここに座れ。」
ジュダスはアレクを促し、アレクもジュダスにしたがって、ジュダスの目の前の椅子に座った。自分はその向かい側の椅子にドカッと座りこみ、机をドンっと拳で叩いてアレクを睨んだ。
「さて。改めて聞くぜ?サラの心の闇ってのは一体なんだ?何があいつをあんなに苦しめてるんだ?!」
ジュダスの問いには答えず、ただじっとジュダスを見つめるアレク。まるでジュダスを値踏みするかのように、その眼は鈍く輝いていた。
「初めはあまり深くは聞かずにおこうって思っていたんだが、あんな状態のあいつを見て、そんな悠長なことは言ってられなくなった。このままだと、あいつ、いずれ壊れるぜ?お前はそれでもいいっていうのか?!!」
憤るジュダスを見て、アレクがゆっくりと口を開く。
「聞いてどうするんだ。お前が主の闇を取り払えるっていうのか?お前が全て解決できるというのか?あれは主が己自身で打ち勝つべきものだ。他人が手出しすべきではない!」
アレクの厳しい言葉に一瞬言葉に詰まったジュダスだが、「それでも」と反論をした。
「確かに心の闇ってのは自分自身でどうにかしなければならねえ。だけど、解決へ導く道を指示したり、立ち上がるために手を差し伸べてやることくらいはするべきだろう?それにもしかしたら、お前らの敵があいつの闇を知ってしまったかもしれない。のんびりしていたら付け込まれるぞ!!」
全く引き下がらないジュダスにアレクは何かを感じ取り、息を吐いた。
「わかった。そこまでいうのであれば、話してやろう。だが私は何も手助けすることは出来ない。そして、このことは誰にも言ってはならない。一国の王となるお方がむやみやたらに他人に弱みをさらすべきではない。」
『お前が全ての責任を負うんだ』と言われたような気がしたジュダスは「おうッ。」と即答し、ニカッと笑った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(何かに呼ばれている気がする…。)
部屋で一人ふさぎ込んでいた紗羅はフラッと立ち上がり、部屋を出た。部屋の前には何故かルイとヴィンセントが座り込んで寝ていたが、紗羅は声をかけることなく、中庭の方へ歩いて行った。
紗羅が中庭に着くと、桜の樹の下に誰か1人の男が立っていた。辺りは既に日が沈み、薄暗く、遠目では誰なのか分からなかった。
(この前の男か?)
紗羅はフラフラとその男のもとへ向かう。そして、ピタリと足を止めた。
「っっっ…暁羅?」
髪と瞳の色以外、全く自分と同じ顔が目線の先に立っていた。その男は優しい微笑みを浮かべて、サラを手招きしている。誘われるかの様に再び歩き出した紗羅だが、また足を止めた。
「暁羅ではないな。何者だ?!」
その言葉を聞いた途端、優しい笑みが一気に崩れ、邪悪な笑みへと変貌した。
「くっくっく。やはり一筋縄じゃいかねぇな。まぁいいか。ある程度精神的にダメージは与えられているようだから。」
「その声、この前の聖獣だな?それと、そこにいるだろう!降りてこい!!」
紗羅が桜の樹の上を指差すと黒いフードの男が樹の上から飛び降りた。
「お前ら、何の目的で僕にそのような幻影を見せるんだ?一体何がしたい?」
紗羅は質問をしながらじりじりと後ずさりをした。そしてゆっくりと手のひらから魔道書を取り出そうとする。が、途中で自分の腕に括り付けられた紐に気づいた。紗羅にはまだ魔法封じがかかったままだったのだ。
(くっっ…。これでは魔法が使えない!)
魔道書を取り出そうとしていた紗羅の手を、暁羅の顔をした男が掴みあげる。
紗羅はキッと男を睨みつけた。
「その顔、止めてくれないかな。お前にその顔はふさわしくないよ。」
「強がっているのも今のうちだぜ?お前には俺たちの国に来てもらう。」
暁羅の顔をした男の言葉に合わせるように、黒いフードの男が何かを呟き、中庭中が地響きのような音を立てていた。
「そのような誘い方だと、行きたくはないな。もっとうまくエスコートできないのか?」
「ほんと、減らず口ばっかり叩くな。」
紗羅が必死で抵抗するが、思った以上に男の力が強い。自分を掴んでいる男に必死になっていると、いきなり紗羅の真後ろに黒いフードの男が立っていた。
「な、何をする?!」
黒いフードの男はゆっくり紗羅の顔に向けて手を伸ばした。紗羅は何故かその男に触れられるのが恐ろしく、ギュッと目をつぶった。
「そこで何をしている?!」
突然響くような声が聞こえ、地響きがやんだ。紗羅がゆっくりと目を空け、声のする方を振り返ると、ルイとヴィンセントが立っていた。
「だめだ、来るな2人とも!!」
紗羅の静止の言葉も聞かず、紗羅に向かって一直線に駆けだす2人。紗羅に触れようとしていた男が一瞬にして紗羅の目の前から消え、2人の背後に立っていた。男が2人に向かって何かつぶやくと、勢いよく走っていた2人が突然、ピタリと動かなくなった。
「何をしたんだ?答えろ!!」
紗羅が叫ぶも、黒いフードの男は何も答えなかった。代わりに暁羅の姿をした男がニヤリと笑いながら紗羅に話しかける。
「これで人質が出来てしまったなぁ。さぁ、どうする?おとなしくついてくるか、ヤツラが死ぬのをじっくり見物してから無理やり連れてこさせられるか。」
紗羅は何も持たずフラフラと敵に誘い出されるまま部屋を出た事に激しく後悔した。
(せめて竜剣だけでも持って来ればこのようなことにはならなかったのに…!)
黒いフードの男が後悔して俯いている紗羅に再び手を伸ばし始めた。
紗羅にその手が触れようとした寸前、短剣が男に向かって飛んできた。
「ちっっ。」
紗羅が状況が変わったことに気づき、顔を上げると、ジュダスが立っているのが見えた。
「待たせたな、サラ。」
まだこちらに来て数か月しか経っていないのに、紗羅はその声にすごく安堵した。
思ったよりも役に立たないルイさんとヴィンス。そしてかっこよく登場するジュダス兄さん。次回、ジュダス兄さんのリベンジです!!




