*第41章~心の闇~
―――思えば、昔はいつも一緒にいた。何をするにしても『2人で一緒に』が、決まりだった。外で遊ぶとき、ご飯を食べるとき、お風呂に入るとき、寝るとき…。私にはあいつが必要だったし、あいつにも私が必要だった。まるで本当の双子のように、すべてのことを2人で分かち合っていた。…だけど、私が身代りになると決まった時から、私たちの間に溝が出来てしまった。いつも一緒にしていたことは、私が身代りであることがばれない様に、別々で行動するようになった。離れれば離れるほど、私はもっとあいつが必要だったけど、あいつはいつのまにか私を必要としなくなった。それでも、私があいつを守らなければという、エゴで私はあいつのそばに居続けた。…あいつが壊れてしまうまで―――
3人が部屋を出て行ってからジュダスと2人っきりになった紗羅は、昔のことを思い出していた。
(こんなことを思い出すなんて…アレを見たからか。)
紗羅が鳴きそうな顔をして笑っていると、ジュダスが紗羅の目の前で手をパチンと鳴らした。
「なーに1人で考え込んでいるんだ?俺はお前に考える時間を与えるためにあいつらを追い出したんじゃぁねえぞ?何があったのか、聞くためだ。」
ジュダスが紗羅の顔を覗き込んだ。紗羅は悟られまいと、唇を固く結んだ。
「…しゃべらねぇつもりか?駄目だぞ。ダラスだったらこのまま聞かないかもしれないが、俺はお前に聞かなきゃぁならない。何故なら、お前が倒れる直前、闇の気配を感じたと、カイルが言っていたからだ。」
「??!」
紗羅は初めて聞く話に動揺した。
「お前たち受験生は魔力を封じてあったから気づかんかったかもしれんが、一瞬だけ、確かに闇の力が働いていたんだそうだ。そして、その直後にお前が倒れたんだから、何か関係しているとしか思えないだろ?」
紗羅は少しだけ、顔を伏せた。そしてすぐに顔を上げ、まっすぐにジュダスを見た。
「…暁羅が、いたんだ。」
「アキラ?誰だそりゃ。」
聞き覚えのない名前にジュダスが訝しげな顔をする。
「僕の、前の世界の人間だ。ここにいるはずはない。」
「ただの知り合いか?」
「…弟だった。」
紗羅がそう言うと、2人の間に沈黙が流れた。紗羅自身があまりそのことに関して触れてほしくない雰囲気を出していたし、それを感じ取ったジュダスが出方を伺っていた。
沈黙に耐えかねたジュダスが椅子から立ち上がり、部屋の窓に向かって歩き出し、窓の前に立つと口を開いた。
「分かった。その弟のことに関しちゃあ、今はあまり深くは聞かねぇ。それに多分お前が見たその弟っていうのは本人じゃぁねぇぞ?」
「どういうことだ?あの姿は確かに暁羅だったぞ?」
(見間違うはずがない。暁羅は私の分身。こんなところにいるはずはないが、アレは確かに暁羅だ。)
紗羅がジッとジュダスを見つめる。ジュダスは居心地悪そうに頭を掻いた。
「あれはだな、ファン―――」
「【幻影】という魔法よ。」
ジュダスの言葉を遮るように、部屋の扉を開く音と共に女の人の声がした。紗羅は声の主を見て、驚く。
「じゅ、ジュリア?!何故ここに?」
声の主、ジュリアはにーっこりと紗羅に笑いかけ、手を振っていた。
「ダラスちゃんに呼ばれたのよ。状況見分してほしいって。ついでだからサラちゃんのお見舞いもしようかなぁーって思って来たのよ。」
ジュリアはスタスタと紗羅の方に近づき、紗羅が座っているベッドに座る。
「魔法のことは専門家に聞くべきよ?サラちゃん。ジュダスちゃんが悪いってわけじゃぁないけど、魔法についてはあたくしが講師なんだから、あたくしに聞いてほしいわぁ。」
ジュリアがぷくーっと頬を膨らました。
「ま、まぁまぁジュリア先生。今は試験中ですのでまさかあなたが来られるとは思わなかったんですよ。確かに俺じゃあまりうまく説明できないので、サラに教えてあげてくれませんか?」
ジュリアに対してだと、いつも低姿勢なジュダスがなだめると、しばらくそっぽを向いていたジュリアがしぶしぶ紗羅の方を振り向いた。
「んもうっ。しかたないわねぇ。サラちゃん達にあたくしが教えたのはすべて闇の魔法以外の魔法なの。闇の魔法ってあまりいいものじゃないから、ダラスちゃんに教えないように言われたたからね。それで、今日、試合中にサラちゃんが見た人間は、闇の魔法【幻影】で映し出されたサラちゃんの心の闇よ。」
「心の、闇…。」
紗羅は心の中で何かが壊れる音がした。窓は開いていないはずなのに、冷たい風が紗羅を通り抜けていった。
紗羅の様子が普通でないことを感じ取ったジュダスとジュリアはどうすればいいのか分からず、困惑していた。
「…くれ。」
「「え?」」
紗羅が突然、俯いたまま何か言っているのを聞き取れず、2人で聞き返す。
「話を、続けてくれ。僕は平気だ。」
言葉とは裏腹に真っ青な顔をして紗羅が言った。ジュリアはどうすべきかジュダスに視線を送り、ジュダスが続けるよう、促した。
「【幻影】は第2魔法でありながらかなり複雑な魔法よ。ただ、影響する人間が限られているわ。【幻影】がかかる人間、それは心に闇をもっている者。それもただ普通の闇とは違って、深く、巨大な闇。それこそその人の人生を大きく左右させてしまうほどのもの。アレが発動すると、発動させた人間を見た人は自分の闇を1番思い起こさせるものが見えてしまうの。もちろんそれだけで相手にかなりの精神的ダメージを与えられるし、発動した人間が相手の弱点を知ってしまうのよ。つまり、あなたに見えたモノがあの魔法を使った者にも見えるの。」
ジュリアの話をジュリアを見つめながら黙って聞いていた紗羅が再び俯いた。
「暁羅が弱点…。くっあはははははっ。」
紗羅がいきなり笑い出したため、ジュダスとジュリアがギョッとした。
「お、おい、お前大丈夫か?」
ジュダスは紗羅の顔を覗き込んだ。再び泣きそうな顔をして笑っている紗羅を見て、ジュダスは言葉を失った。
「悪い、平気だ。なんともないよ。ただ、おかしくってね…。自分の弱さに嫌気が差すよ。」
自虐的な笑みを浮かべ、髪を掻き上げる紗羅。
(勝手に依存して、勝手に必要とされてると思い込んで、そして勝手に心の闇にしてしまうなんて…。)
「サラ―――」
「悪いが、1人にしてもらえないか?」
言葉をかけようとしたジュダスを遮り、紗羅が2人に部屋を出ていくように言った。はっきりと拒絶されたことが分かったジュダスとジュリアはそれ以上何も言わず、黙って部屋を出た。
ガララララ、ピシャッ
紗羅の部屋を出た2人は宿舎の廊下を歩き出した。
「さみしいわねぇ。心を開いてくれたと思っていたら、肝心なところで頼ってくれないなんて…。」
とぼとぼと歩きながらジュリアが言った。ジュダスは何も言わず、黙って歩き続けた。ジュリアは何も言わないジュダスに一言文句を言おうかと思ったが、隣でずっと険しい表情をしているジュダスを見て、口をつぐんだ。
「それにしても、一体誰が何の目的であんなことをしたのかしら。」
しばらく黙っていたジュリアがぽつりと呟いた。その疑問の答えに、ジュダスは思い当たることがあった。
(闇の魔法を使って、なおかつサラに因縁がある奴。もしかしたらあの2人かも知れない。)
あの2人…ジュダスはアレクを捕えていた黒いフードの男とゼダと名乗る元聖獣。もし犯人が彼らだとしたら、紗羅の弱点を知られてしまったことになる。
(神獣に相談しねぇとな。)
ジュダスは少女と一緒に主の帰りを待つ、白い少年を思い浮かべ、足を速めた。
シリアスモードな今回の話。ちょっとおふざけでジュリア姐さん登場させましたが、思ったよりシリアス感が強く、彼女を暴走させることが出来ませんでした。それにしてもジュダス兄さんのいいお兄さん度がどんどん上昇しています。次回はそんなジュダス兄さん目線から話が始まります。




