*第40章~彼らの実力~
剣術大会も、終盤、準決勝。ここまで勝ち進んだ受験生はAブロック=ルイ・アングレイス。武器は長剣。軽い身のこなしと、力強い剣さばきで自分よりも体の大きい相手をいとも簡単に倒し続けた。Bブロック=ラグ・ローグ。その体はヴィンセントに次ぐ慎重に、鍛え抜かれた筋肉。武器は巨大な斧で、それを振り払う風圧だけで、何人もの受験生が場外へ出された。Cブロック=ヴィンセント・コール。優勝候補ナンバー1で武器は紗羅の体と同じくらいの大きさの大剣。それを自由自在に操り、なおかつその威圧感だけで失神者続出という試合内容で勝ち進んだ。
そして、Dブロック=サイル・フォード。他の3選手に比べ、事前データが一切なく、完全なダークホースだった。最初は見くびっていた受験生や観客たちも、彼の動きに目を奪われていった。武器は古びた竜剣。素早い攻撃であっという間に勝敗を決して準決勝まで上がってきた。この大会で、落ちた受験生だけで組織されていた彼の『親衛隊』という名のファンクラブが、試合を見に来ていた一般の観客や、何故か各国の偵察にまで広がり、収拾がつかないほど、拡大していた。因みに初戦で彼に負けた大男もその一員となっていた。
準決勝第1戦目。ルイ対ラグ。大衆の予想は身体の大きなラグよりも、ルイの方に傾いており、大方の予想通り、軍配はルイに上がった。
試合内容としては、これまでの試合と同じように、ラグが斧を振り払ったところをルイが飛んでよけ、払い終った斧の上に乗り、ラグの首筋に真正面から刃を向けるという、呆気ないものだった。
「行動パターンが同じすぎんだよ。もうちょっと頭使えよなー。」
ルイが捨て台詞を吐き、その場を後にした。
そして、第2戦目。ヴィンセント対サイルの試合。誰もが息を飲んでその行く末を見守った。試合開始のドラが鳴り、紗羅とヴィンセントが互いを見つめる。―――だが、両者とも1歩も動かない。硬直状態がしばらく続いた。
(まいったな。なかなか隙がない。さて、どうするか…。)
互いに相手の出方を伺っていると、先に紗羅が動いた。真正面からヴィンセントに切り込んでいったのだ。それを巨剣で受け止めるヴィンセント。そのまま剣ごと紗羅を振り払った――かに見えたが、紗羅がその剣圧から体を反転させると、振り払った瞬間に隙を見せたヴィンセントに隠し持っていた短剣を投げた。咄嗟にその短剣を巨剣で防ぐと、すぐ目の前に紗羅が来て、自分と同じ大きさの巨剣を思いっきり切りかかり、その巨剣にひびを入れた。ヴィンセントは巨剣にひびが入ったことに動揺して、更に隙を与えたため、そこに一気に紗羅が付け込み、間合いを詰めて、ヴィンセントの目に剣先をむけた。
「降参、してくれるだろ?」
紗羅がニコッと笑うと、諦めたように、ヴィンセントが「………参った。」と言った。
紗羅は試合終了と共に大歓声を背にして、待機場へ向かった。途中の通路で、ルイが壁に背持たれて待っていた。
「やるな、サイル。まさかヴィンセントを負かしちまうなんて思わなかったぜ。」
「…まぐれだ。実際の戦場で戦ってたらおそらくあいつのほうが強いだろう。あいつ、本気を出していないだろう?」
紗羅の言葉に、ルイが表情を変えた。
「何故、分かった?」
紗羅はルイを見据えて悔しそうな顔をした。
「あんな巨剣を軽々と持ち上げるくらいの力を持っているんだ。本気で振り払ったら僕なんてあっという間に飛ばされるどころか、その剣圧で大けがを負わされてると思うね。あいつ、本気を出したら僕を殺してしまうかもしれないとか思っていたんだろうよ。なめられたもんだな。」
紗羅がそう言って、ルイのもとから立ち去った。
剣術大会決勝戦。ルイ対サイル。両者とも身軽であることは誰もが知っていることだったので、似たような2人がどんな試合を見せるのか、皆興味深々だった。
「言っておくが、俺はヴィンセントのように甘くないからな。手加減なんてできねぇぞ?」
「当たり前だ。手加減なんてする気も起らないぞ。そんな暇、僕が与えてやらないからな。」
二人が同時に笑うと、試合開始のドラの音が鳴った。
お互いがどうしかけてくるか、まるで自分のことのように知っているかのごとく、2人の試合は息がぴったり合っていた。剣を打つタイミング、呼吸に至るまでが同調していた。
激しい打ち合いをして、一向に決着がつかず、もはやどちらが勝つかなど、誰にも分からなかった。だが、時間が過ぎるごとに、ルイの方の集中力が途切れ、ルイは紗羅に攻め込まれて防戦一方になってしまった。誰もが、紗羅の勝利を確信した瞬間、紗羅の手がいきなり止まった。その隙をついて、ルイが紗羅の剣を打ち払い、紗羅の喉元に切っ先を当てる。
紗羅は放心してしまったかのように、呆然と立ち尽くし、ただ一言、「まいった。」とだけ言って、その場に崩れ落ちた。紗羅はかすみゆく意識の中で、必死にルイが自分を読んでいるのを聞いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
紗羅が目を覚まし、自分がどこにいるのか確認しようと、寝ながら辺りを見渡すと、何故か紗羅が寝ているベッドの脇にジュダスがいた。
「よお、目ぇ覚めたか?」
「な…んでここにジュダスが?」
(確か剣術大会の途中だったはず。いや、もう終わったのか…。だが、ここはジュダスの邸ではないはずだが…。というか、私が泊まっている宿舎の部屋だよな?)
紗羅が不思議そうな顔をして、ジュダスを見つめていると、ジュダスの後ろに別の人間がいることに気づいた。
「ルイ、イアン、それにヴィンセントか?」
いつも、ある程度のことには物怖じしないルイとイアンが、何故か隅っこの方で小さくなっていた。ヴィンセントは相変わらず、無表情で突っ立っている。
「や、やぁサイル君。具合はどうですか?」
イアンが引き攣った笑みを見せた理由が、やっと紗羅にもわかった。
(ジュダスのせいか。)
紗羅がコホンと咳払いをし、ジュダスに再び聞いた。
「ジュダス様。何故あなたのような方がこんなところにいらっしゃるんでしょうか。」
もう手遅れと思ったが、紗羅は精一杯、他人行儀に言った。
「お前さ、今更そんな他人のふりしても遅いぜ?お前が倒れたとき、真っ先にダラスの野郎が観客席から飛び降りてきたらしいぞ。さすがにここまでついて来るって言った時は、カイルが必死に止めてたらしいがな。で、代わりに俺が付き添うようにと言ってきたんだ。」
紗羅が恐る恐るイアンとルイの方を見ると、こくりと、頷いた。それを見た紗羅が頭を押さえると、同情したようにジュダスが紗羅の肩をポンポンと叩いた。
「すまんな、あんなのが王様で。俺たちも苦労しているんだ。」
(いやいや、お前もどっこいどっこいだよ。女装時のお前の性格、迷惑そのものだからな。)
紗羅が内心突っ込みを入れ、冷ややかな目でジュダスを見た。ジュダスはその目線からそらすようにルイたちの方を振り返った。
「諸君。見ての通り彼はもうしばらく安静にしておいた方がいいようだ。すまないが気を使わないように俺と2人きりにしてくれるか?」
言い方は丁寧だが、まるで「早く出ていけ。」とでも言わんばかりに、声に圧力があった。ルイとイアンは素早く部屋を退出し、ヴィンセントは紗羅の方を一旦見て、何故か頷いた後部屋を出た。
魔法抜きで戦ったら、誰が一番強いんでしょうか…。正解はジュリィ姐さんです。最近はジュダス兄さんでの登場ばっかりで、彼が女装癖があるという設定を忘れてしまってました。でもあんまりジュリィ姐さん出すと、話がややこしくなるんで、ちょっと彼女には休んでてもらいます(笑)
さて、次回は剣術大会回想シーンです!




