*第39章~剣術大会初戦~
馬術の試験の翌日の朝。
昨晩は一体どういうことなのか聞いてくる多くの受験生や、同室のルイの追求から逃れる為、紗羅は一晩、桜の樹の上で過ごした。だが、1日置いても騒ぎは収まらず、昨日と一昨日の試験に受かった受験生320名は、ほぼ全員が紗羅の姿を探していた。320名という数字は本来であれば弓の試験と馬術の試験の合格者はそれぞれ300名ずついるが、受験方法が事前参加報告制のため、重複して受験するものがほとんどであり、合格者の半数以上が両試験共で合格している者たちだった。
紗羅は剣術大会が始まるギリギリまで桜の樹の上で待機をしていた。
(?あれは…。)
紗羅は花の隙間から先ほどからずーっと桜の樹の周りをうろうろしている人物に気づいた。
「おい、ヴィンセント。何してるんだ?」
樹の上から声をかけると、ヴィンセントはゆっくり反応し、キョロキョロと周りを見渡した。
「こっちだ。」
紗羅が桜の樹から飛び降り、ヴィンセントの前に姿を現す。
「もうすぐ剣術大会が始まるのに、こんなところで何をしているんだ?」
紗羅が聞くと、ヴィンセントが一瞬固まった。そしてゆっくりと口を開く。
「…………会場に向かっている途中だ。」
紗羅は首を傾げた。
「会場はこことは正反対だぞ?…あ。」
何かに思い当たったように紗羅がポンと手を叩いた。
(そういえば方向音痴って噂があったな。昨日もそれっぽい行動をとっていたし。)
紗羅はふーっと息を吐き、ヴィンセントに苦笑いを向けた。
「僕もそろそろ会場に向かおうを思っていたんだ。一緒に行かないか?」
ヴィンセントはこくりと頷いた。
会場に向かいながらも紗羅を見つけ、声をかけて来ようとする受験生たち。だが、ヴィンセントが一睨みきかせるとすごすごと下がっていった。
(これは便利だな。)
紗羅がひそかに満足していると、そんなヴィンセントに怖気づかないルイがやってきた。
「おい、サイル。よくも今まで逃げ回ってくれたな…。おかげで俺は気になって寝不足なんだぞ?!今日の試験に響いたらどうするんだ!!」
ルイが紗羅に詰め寄ったので、紗羅はヴィンセントの方を伺う。すると、ヴィンセントがルイの言葉に首を横に振っていた。
「…寝てたな。ばっちりと。」
「へ?」
紗羅がルイをジッと見つめるとルイの表情が固まった。そしてフイーッと顔をそらし、会場に向かって歩き出した。
「あいつは一体何がしたいんだ…。」
紗羅とヴィンセントも遅れて会場へ歩き出す。
剣術大会は大きな闘技場を貸し切って行われた。8つのフィールドと、それを囲む観客席。2万人程収容した大規模な大会だった。
「この大会はな、将来の就職活動にもつながるんだ。」
紗羅が無表情で辺りを見回していると、イアンが紗羅の横に立った。
「就職活動って、武官のか?」
「あぁ、光の国の学院を受験して官吏を目指している奴はなにも、文官を目指している奴だけではない。たとえばヴィンセントは武官を志願している。そんな奴らはここで実力を発揮するんだ。そして観客の中には各国の大使や将軍格の人間がちらほら見えるだろ?もちろん、この剣術大会は光の国の王の御前で行われ、その両サイドには右将軍と左将軍が並んでいる。だからここでの結果は将来武官を目指すやつにとっては一大勝負なんだよ。」
イアンに言われ、紗羅が観客先を見渡すと、確かに常人とは思えないほどの威圧感を醸し出している人間が何人かいた。そして、入場門の真正面のVIP席のようなところに、ダラスが座っていた。その左には右頬に傷のある、少しつり上がった細い目のすらっとした男が、反対側にはガタイがよく、茶ひげを生やしてはいるが、見た感じかなり若いと思われる男が立っていた。
紗羅がその様子を観察していると、紗羅が群衆の中にいたのにもかかわらず、ダラスが紗羅の姿を見つけ出したようで、紗羅の方に向かって、大手を振っていた。
王の行動に気づいた、受験生、観客たちが一斉に紗羅の方を見ようと振り向いた時には既にそこに紗羅の姿はなかった。――そう、紗羅はダラスがこちらに気づいたと感じた瞬間、素早くその場を去っていたのだ。イアンに気づかれることもなく。
(本当に、あいつのあの行動は嫌がらせか何かなのか?今度会ったら文句を言ってやる。)
紗羅は怒りを面に出さないように、平常心で待機場へ向かった。
待機場には大会のトーナメント表が張り出されており、その掲示板の前に受験生たちが張り付いていた。試合は勝ち抜き戦であり、1対1での闘いであり、武具は刃物であれば何でも使用可。だが、魔法が働くことがないように、先日から受験生たちには魔封じの紐がついているため、純粋に武力だけで闘う。勝敗判定は相手に負けを認めさせるか、気絶させるか、場外へ出すかの3つ。
紗羅は自分の試合準を確認することなく、壁に寄りかかり、自分の名前が挙がるのを待った。
ドラの音と共に剣術大会が始まり、大歓声が紗羅達のいる待機場にも響いた。次々と呼ばれ、出ていく受験生たち。しばらくして、出て行った受験生の半数が戻ってきた。試合に負けた者はその場で去り、勝った者だけが戻るように初戦はなっていたからだ。最初の組の試合がすべて終わると、次の組の受験生たちが呼ばれ、同じように半数だけが戻ってきた。しばらくして2組目の試合がすべて終わると、3組目の受験たちが呼ばれ始めた。
(ヴィンセントはここの組か。)
受験生たちの中に1つだけ飛び出た頭を見つけ、紗羅が視線を向けた。心なしか、周りの受験生たちが肩を落としているように見える。
(ヴィンセントが優勝候補っていうのも、本当の話らしいな。)
同じ組の人間同士で最初は戦っていくため、ヴィンセントの組の受験生は他の組の受験生よりも早くヴィンセントと闘ってしまうようになっている。
ヴィンセントの組の受験生たちが全て、出ていき、しばらくすると大歓声が再び聞こえてきた。残された受験生たちの間で「ヴィンスがやったんだ。」と情報が広まっていく。その大歓声から押し出されるようにヴィンセントが戻ってきた。受験生たちはヴィンセントの姿を見つけるや否や、ヴィンセントを囲んで質問攻めをしていた。だが、ヴィンセントがその質問に答えるわけもなく、何故か紗羅のもとに来て、紗羅と一緒に壁に寄りかかった。
「おつかれさん。」
「…………。」
紗羅の言葉に頷いただけで、ヴィンセントの口から言葉が発せられることはなかった。ヴィンセントだけでなく、紗羅にも色々と聞きたいという顔をした受験生たちは、紗羅達の『近づくな』という気に気圧されて、紗羅達に声をかけることはなかった。
ヴィンセントたちの組の試合が終わり、最期の組が呼ばれ始め、紗羅もその中の1人だった。紗羅は案内されるまま、大会会場へ向かい、何かの嫌がらせとしか思えないが、何故かダラス達の席の真ん前のフィールドに立たされた。顔をしかめた紗羅の視界にニタニタ笑っているダラスの顔が入る。
紗羅が対戦相手を待っていると、紗羅の2倍はあるであろう巨漢の受験生が目の前に立った。ものすごく荒い鼻息をし、紗羅を睨む。紗羅と相手の体格に観客席から野次が飛び交う。
「おい、あれで勝負になるのか?!」
「あの大男ラッキーだな。相手はかなりの優男だぜ。」
「おい、男前の兄ちゃん、早めに降参した方が身のためなんじゃないのか?」
下品な観客の声に、相手の男はニヤリと笑ったが、無表情のまま動じない紗羅を見て、不機嫌な顔をした。
「おい、お前。今まですごい活躍をしてきたようだが、今回はここまでだな。お前の試験は今日、この場で終了だよ。」
大男が紗羅を挑発するも、やはり紗羅は動じない。それどころか、男の言葉を一向に聞いておらず、あくびをしていた。大男はもはやブチ切れ寸前で、顔を真っ赤にしていた。
開始のドラを叩く試験官が桴を高く掲げ、勢いよくドラに当てる。
ボォーン!!
ドラの音と共に試合があちこちで始まる。紗羅の相手の大男が待ってましたとばかりに紗羅に突進してきたが、既にそこには紗羅の姿がなかった。大男は紗羅の姿を探そうと辺りを見渡したが、見当たらない。もしかして既に場外に出てしまったかもと、油断したその瞬間、大男の真後ろに紗羅が立っており、首筋に竜剣の刃を当てていた。
「3秒待つ。降参しろ。」
「ちょ、ちょっと。」
突然現れた紗羅に狼狽える大男。紗羅は無視をする。
「3、2、い―――」
「ま、参りましたぁ!!!俺の負けです!」
大男が紗羅の声をさえぎり、叫ぶ。試合開始後、わずか20秒の出来事だった。初戦の中で1番早く、勝敗を決した試合であった。
最近ヴィンス贔屓をしています。でもやっぱりダラスが好きなのでちょいちょい出してしまいます。…ってか、そろそろキャラの整理をしなければと思っています。時々名前が分からなくなって、途中まで、イアンの名前を誰だか分からない人の名前で書いていました…。
次回、紗羅があの人と闘います!




