*第38章~馬術の試験で~
紗羅の手当てが終わり、急いで馬術試験の集合場所へ向かう紗羅とルイとヴィンセント。途中、何故か違う方向へ走り出すヴィンセントを引っ張って、ようやく紗羅たちは集合場所へ着いた。
馬術の試験は既に用意された馬を受験生たちが1頭ずつ選び、選んだ馬で試験を受ける。選ぶ順番は早い者勝ちなので、紗羅達はあまりものの馬しか残っていなかった。
「あいつら気の毒だな。あんな馬しか残っていないなんて。」
「特にあの黒馬、ケルベロスはかなりの暴走馬で、城の衛兵たちも近づくことすらできないんだもんな。試験官たちもたち悪すぎだぜ。あんな馬を試験に使うなんて。」
受験生たちのイヤミな笑い声が聞こえてくる中で、紗羅達も馬屋の方へ向かった。3頭の馬はどれも気性が荒そうだったが、受験生たちの言うとおり、漆黒の馬が今にも暴れ出しそうにしていた。
(というか、なんか様子がおかしいな。)
ケルベロス、と呼ばれるその黒馬は興奮気味で口から泡を吹いていた。馬番の男が紗羅達に馬を引き渡そうと恐る恐る柵を開けた途端、ケルベロスが馬屋から飛び出し、脱走した。後に続くように残りの2頭も逃げ出してしまった。
どよめく受験生たちの中で紗羅は素早く逃げた馬たちの後を追い、ルイとヴィンセントも後に続いた。蹄の後からどの方向に向かったか分かった紗羅は城を散策していた時に見つけた薬草園に1人で行き、そのなかから、前の世界にあった薬草とよく似た葉をちぎり、口に含んだ。
(まちがいない、これだ。)
紗羅は確信すると、馬たちが向かった方角へ急いで向かった。
馬たちがいるところへ向かうと、ルイとヴィンセントが既にケルベロス以外の2頭を捕まえ、またがっていた。
「悪い、サイル。あいつは捕まえきれんかった。」
馬の上からルイが声をかける。
「大丈夫だが、すまないけど僕をあの馬のところまで乗せていってくれないか?」
紗羅が頼むと、ヴィンセントがヒョイッと紗羅を担ぎ、自分が捕まえた馬に乗せた。紗羅の前にヴィンセントが座ると、手綱を操り、馬を走らせる。
しばらく走ったところでいまだに暴走しているケルベロスを見つけた。
「できるだけ寄せてくれないか。」
ヴィンセントの後ろから紗羅が指示をする。ヴィンセントは紗羅の指示通り、ケルベロスと並行に馬を走らせた。ある程度、距離を縮めたところで、紗羅がヴィンセントの馬からケルベロスに飛び移った。
突然自分にのしかかった衝撃に驚いて、ケルベロスが身をよじらせる。紗羅は手綱を引き、ケルベロスの口元に先ほど薬草園からとった薬草を当てる。すると、苦しむように悶えていたケルベロスがだんだん落ち着いて、おとなしくなった。
「いいこだ。僕の言うことを聞いてくれるかい?」
紗羅がそう言うと、ケルベロスは紗羅の手綱の指示通りに、動き始めた。
紗羅達の後を追ってきた、ルイがその光景を目の当たりにして、目を丸くして驚いていた。
集合場所に戻りながら、ルイが紗羅に尋ねた。
「一体どうやって、この暴れ馬を手なずけたんだ?」
ルイの質問に、紗羅が厳しい表情をして答える。
「この馬は興奮剤のようなものを服用させられていたようだ。僕は気を沈める薬草を使って、この馬を沈めて、あとは割とスムーズに言うことを聞いてくれたんで、てなづけたってほどもないんだがな。それよりも、誰がこんなことをしたか、だが…。おそらく僕らを閉じ込めた犯人と同一人物だろう。」
「まったく、ひでぇことしやがる!」
「………同感だ。」
紗羅同様、ルイもヴィンセントも怒りの表情を見せた。
紗羅達が集合場所に戻ると、紗羅達の姿を見て、受験生や、試験官たちにどよめきが走った。
「おい、あいつらあの暴れ馬たちを乗りこなしてるぞ。」
「し、しかもあいつなんて、あのケルベロスに乗ってやがる。」
「いまだかつてあの馬を乗りこなせたものはおろか、5秒も乗れた奴なんていないのに…。」
(そんな馬を試験で使うか?普通。…ん?)
紗羅は受験生や試験官たちの驚きの表情の中に、明らかに異質な視線を紗羅達に向けている存在に気づいた。
「チッ。やっぱりあいつか。」
紗羅同様、その存在に気づいたルイがそいつのもとへ一直線に向かう。
「おい、バルド。お前変わってねぇな!こんなことをして許されるとでも思っているのか?!」
凄むルイにバルドの足が後方に下がる。
「な、何のことを言ってるんだ。僕にはさっぱり分から――」
バルドが言い逃れをしようとした時、群衆の奥で常に無表情だったヴィンセントの形相が恐ろしいものへと変化したのを見て、バルドの顔色が一瞬にして蒼白になった。
「いいか、よく覚えとけよ。今度俺たちに何かしてみろ?ただじゃおかねぇからな!!」
ルイはそういうと群がる群衆を押しのけて、紗羅達のもとに戻った。
試験官の掛け声により、受験生たちが集まった。
「これより、光の国屈指の魔導師たちにより、馬術の試験会場へ移動してもらう。そこで既定の距離を馬で走ってもらい、順位を競う。上位300名が今回の試験の合格者とする。」
試験官が話し終えると、後ろに控えた魔導師と思われる人たちが受験生に魔法陣の上に来るように言った。参加人数は450人にも及ぶため、転送は3回に分けられた。
大きな魔法陣を囲んで、魔導師たちが声を揃えて詠唱する。
「我、唱える者。我が示した点と点を、一つの線として結べ。【空間歪曲】。」
すると、紗羅達の前の組の受験生と馬たちが一瞬にしてその場から消え失せた。120名はいたその魔法陣の上は、ただの魔法陣が描かれた地面だけになった。
(あの魔法はあんな大規模なものにも使えるのか。)
ジュリアに習った魔法を思い出しつつ、紗羅は勉強になったと、頷いた。
2番目の転送で紗羅達も、馬術の試験場へ移動した。そこは辺り一面、木1本生えていない地平線まで伸びているかのような草原だった。
「ここからスタートし、ゴール地点には国王陛下と聖獣様がお待ちでいらっしゃる。聖獣様はご自身の本来の姿である白鳥に戻られているから一目でわかるだろう。国王陛下に『只今帰還致しました。』と言って、ゴールだ。」
(げっ。)
『国王陛下』の言葉に紗羅が思わず嫌な顔をした。
(あいつ、まさか声なんてかけてこないよな。うん、大丈夫なはずだ。さすがにあいつでも、時と場所をわきまえるだろう。何と言ってもカイルがついているんだ。)
紗羅は嫌な予感が頭をさえぎったのを、必死で振り払い、平常心を装った。
試験官が集合の合図をかけると、一斉に受験生たちが馬に乗り、スタートラインに立った。そして試験官の1人が白い旗を上に掲げる。
「それでは、馬術の試験、始め!!」
掛け声とともに、白い旗が降り、受験生たちが一斉にスタートした。序盤は皆団子になって走っていたが、中盤辺りになると、トップ集団が一気に抜け出し、徐々に順位がついてきた。
紗羅、ルイ、ヴィンセント、イアン、バルドは全員トップ集団の中にいて、その集団は15人ほどいたが、中でも紗羅とルイ、ヴィンセントがいち早くその中から抜け出していた。
(ケルベロスって、確かに扱いにくい馬ではあるけど、かなりの駿馬だ。気性の荒い他の2頭も同じか…。逆に得したな。)
紗羅はフッと笑みを浮かべ、ラストスパートをかける。
「やるねぇ。俺たちも負けらんねぇな。」
ルイもニヤリと笑みを浮かべて、紗羅に続いた。紗羅とルイとヴィンセントはほぼ同着くらいに、ダラスのいる丘に着いた。そして、コンマ1秒の差で真っ先にダラスに挨拶をしたのは…。
「…………只今帰還致しました。」
1番に丘にたどり着いた紗羅でもなく、そのすぐ後を追ってきたルイでもなく、ヴィンセントであった。何故なら、紗羅が丘にたどり着き、ダラスのにやけ顔を見た瞬間、紗羅に隙が出来、紗羅の次に挨拶をしようとしていたルイにも隙が出来てしまい、棚から牡丹餅の如く、3番手のヴィンセントがまんまと横からトップを攫って行ったのだった。
紗羅とルイがショックで、しばらく落ち込んでいると、次々に受験者たちがゴールをしていった。
すべての受験者がゴールをすると、ダラスが受験者たちに向かって、声高らかに叫んだ。
「受験生の諸君。君たちは将来有望な者が勢ぞろいしているな。今後の活躍に大いに期待している。」
ダラスが、そう言って笑うと、受験生たちが一堂に「はい!」と言って、敬礼をした。
馬術の試験が終わり、城への転送を開始しようとしていた矢先、紗羅がダラスに見つからないように、受験生の群れの中に潜んでいると、和の外の方から大声で叫ぶ人物がいた。――そう、ダラスだ。
「おーい、サラ…じゃなかった、サイル!何でそんなとこにいるんだ?こっちに来いって!」
その声が響くと同時に、密集していた受験生たちの群れが、紗羅に向かって一斉に道を開いた。ダラスが笑顔で見つめる先には、げんなりした顔の紗羅がいた。
(やっぱりか。…あいつ、王としての自覚あるのか?というかさっき何気に私の本名言っていなかったか?)
紗羅が出ていくのを渋っていると、ダラスが自らズカズカと受験生たちの群れの中に進み、紗羅を引っ張り出した。
「つれないなぁ、お前。挨拶もなしかよ。」
さみしそうに言うダラスに紗羅は冷たい視線を向けた。
「何のことでしょうか、陛下。私は先ほどきちんとご挨拶を申し上げたはずですが。試験で『只今帰還致しました』と。」
「あんなの皆行っているだろう?お前と会うの久しぶりだから楽しみにしていたんだぞ。カイルも言ってやれって。」
ダラスがそう言うと、いつの間にか青年の姿に戻っていたカイルが、ダラスを止めた。
「ご主人様、お控えください。このままだと目立ちすぎます。サラさま…サイル殿にご迷惑が掛かってしまいます。」
紗羅の名前を言い直したカイルにダラスは「何故だ?」と首を傾げている。
プチ
「「?」」
近くで何かが切れる音がして、ダラスとカイルは辺りを見回した。そして、気づく。紗羅が笑っていることを。それはそれは極上の笑みを浮かべて。――だが、その笑顔の後ろに、何故か般若の幻覚が見えた。
「国王陛下、聖獣様。僕はもう城へ帰ってもよろしいでしょうか。あなた方のような方が僕のような普通の一般市民にそのように気安くお声をかけてはいけませんよ。」
「で、でも――」
「いいですね。」
紗羅の凄みに気圧されながら、ダラスがまだ何かを言おうとするのを、紗羅が封じた。
紗羅の圧力に窄んでしまってしばらく動けないダラスとカイル、そして、一部始終を見ていた受験生という野次馬を残し、紗羅は試験官に早く転送するよう言って、1人で城へ転送された。
…我慢できなくて、ついダラスさんを出しました。なかなか出てくれないもんで、王様業が忙しいとは思いつつも、ちょっとくらいならという気持ちでした(笑)
今までの話を自分の頭の中で整理できておらず、何話か前に設定していたことを忘れて、矛盾するような内容を描いていたことに気づき、慌てて修正しました…。ホントド素人ですねー。




