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*第37章~妬みと罠~

 試験3日目。本日より、筆記試験で合格した500名がだんだんその数を減らすことになる武術の試験が始まる。本日は弓の試験だ。

 昨日の試験結果によって、一躍有名人になった紗羅は、その一挙一動を受験生皆が注目している。筆記試験の結果によって、部屋割りが変更され、紗羅はルイとヴィンセントとの3人部屋になった。

 紗羅が部屋で身支度を整えていると、ルイがひげを剃りながら紗羅に話しかけてきた。

「サイル。あんまり調子に乗っちゃあいけねぇぞ。今日からは武術の試験だ。おつむだけよくっても、試験にゃあ、うからねぇぜ。まぁ、どうしてもって言うんなら、試験の前に俺様が武術の手ほどきをしてやってもいいが――」

 紗羅はルイを無視して、竜剣と場が弓をもって部屋を出ようとしていた。

「おい、まてって。人の話を聞けよ!」

 あわててルイが後を追った。


 弓の試験の会場でも紗羅は噂の的だった。

(いい加減、この視線うざすぎるな。)

 もともと、その見た目から密かに紗羅のファンが出来ていたのだが、ここにきてその数が倍増し、今にもファンクラブが出来てしまいそうなくらいだった。いや、実際、筆記試験に落ちた連中が組織を作って、紗羅の応援に来るほどだった。

 だが、そんな好意の視線の一方で妬みの視線も向けられていた。

「ほら、あいつだよ。主席通過。」

「あぁ、噂のね。所詮頭だけだろ?次の弓の試験で真っ先に落ちるよきっと。」

「もし通ったとしても最後の剣術大会でロクな成績残せるはずないよな、あんな貧弱な体で。」

 紗羅が通るたびに紗羅に聞こえるように言う受験生たち。紗羅は無表情でその場を通りすぎ、黙々と弓の手入れをし始めた。

「お前、むかつかねぇの?あんなこと言われて。」

 弓の手入れをする紗羅の後ろから、ルイが声をかける。

「別に。あんな口だけ連中の言葉なんて、1ミリも響かないよ。言わせておけばいいさ。」

「ふーん。」

 ルイも紗羅に並んで手入れを始めた。


 

「受験生たちは集まれ。これより、弓の試験を始める。」

 試験官の声と共に、弓の試験会場に大勢が集まった。

「それでは全員、この紐を腕に括り付けなさい。」

 試験監督たちが受験生に赤い紐を配った。皆それを受け取り、各々腕に結ぶ。

(これは…。)

「魔力封じの呪がかかっているな。」

 紗羅の横で、イアンが言った。

「魔力封じって…。」

「弓なんて、魔法を使えばいくらでも思い通りに飛ぶだろう?それを防止するための物だ。つけている本人だけでなく、魔法をかけた武具の力も封じるようになっている。」

(なるほどねぇ。)

 紗羅たちの話の間も、試験監督が説明を続けている。

「この紐はこれから3日間、決して外すことは出来ん。私が解除の言葉を言うまではとけないようになっている。つまり、完全に武術の能力のみで試験をすることになる。」

 その言葉を聞いて、何人かが青ざめていた。おそらく魔力に頼ろうとしていた連中だろう。

「では、弓の試験だがこれより5人ずつ前に出て、的に向かって矢を4回連続で打つ。矢の当たった場所で点数を決める。点数は中心から50、30、20、10、5、1の順だ。制限時間は4射打ち終わるまでで50秒以内。1秒でも遅れたら即失格となる。最後の物が撃ち終わり、上位300名が合格者だ。」

 試験官の説明が終わると、受験番号の若い者から順に5名ずつ矢を放つ位置に立たされた。次々と受験生たちが矢を放っていく中で、中盤位にどよめきが上がった。紗羅は、声の上がった方へ目をやる。

(あいつは…。なるほど、なかなかやるな。)

 イアンが矢をすべて中心の1番得点の高いところに当て、総合計点が200点だった。それ以上高い得点はないので、もちろんそれまでの受験生の中で最高得点だった。

 紗羅が関心をしていると、しばらくしてまたどよめきが上がっていた。

「あ、あいつら…すごいぞ。」

 受験生から畏怖の視線を向けられている先に、ルイとヴィンセントがいた。――折れた弓をもって。

「いやー、力加減が分かんなくてつい折っちまった。ま、矢を全部放った後だからよかったなー、ヴィンス。」

「……。」

 ガハハとと豪快に笑うルイと無言のヴィンセント。得点はルイが130点で、ヴィンセントが120点だった。得点はまあまあだったが、2人とも、矢の勢いが強すぎて、的が破損してしまい、一時競技が中断してしまった。


 新しい的を用意して、協議が再開される。着々と受験生たちが協議を終わらせて、最後の組になり、紗羅が登場した。観客からは声援とヤジが飛んでいる。

 紗羅は心を無にして、矢を構える。

「放てっ!」

 試験官の合図と共に、紗羅は矢を放った。ジュダスの庭で行った時と同じように、打った矢を確認せず、次々と矢を放っていく。誰もがその姿に息を飲んだ。

「し、終了!」

 間をおいて、試験官が掛け声をした。的の近くにいた試験官が点数を数えに行く。紗羅は結果を確認することなく、その場から離れていった。去っていく紗羅の後ろで、盛大な歓声が上がっていた。


 弓の試験、トップ通過者、イアン・グレイ。そして、サイル・フォード。この試験で紗羅のカリスマ性は瞬く間に高くなり、もはや受験生だけでなく、試験官にも広まっていった。

 部屋に帰ってからも興奮気味で話してくるルイや、紗羅の姿を一目見ようと集まった受験生たちのおかげで、紗羅はその日なかなか眠りにつくことが出来なかった。


 受験生たちが盛り上がっている宿舎より離れた城の塀のところで黒い影が2つあった。こそこそと話をし、そして1つの影がもう1つの影に何かを渡し、渡された影は馬屋の方へ去っていった。残されたもう1つの影がクスっと笑い、夜が更けていった。


 騒がしかった宿舎もすっかり寝静まり、紗羅達もようやくベッドに入る。小1時間たったころ、紗羅は部屋の外になにか気配があることに気づいた。すると、窓が少しだけ開き、香が漂ってきた。

(うっ…これは、眠り薬か。)

 覚えのある香りに紗羅は布団を口に当て、様子を伺った。外の気配は香が部屋に充満したのを確認すると、窓を閉め、木の棒で窓をふさいだ。部屋の扉の方でもガコンと引き戸に木の棒を当てる音がした。

(妨害工作か。それにしても、この香、かなり濃度が濃い。さすがの私でも、結構きついな。)

 紗羅は少し朦朧とする意識の中で、眠るまいと竜剣の刃を握り締めて過ごした。ルイとヴィンセントは元々眠っていたのか、それとも香のせいで眠ったのかは分からなかったが、一向に起きる気配がしなかった。


 翌朝、やっと香の効力が消えかかり、紗羅の意識も鮮明になったころ、ルイとヴィンセントも起き始めた。

「んー。なんだかちょっと身体がだるいような…。てか部屋がなんか臭くねぇか?」

「……。」

 ルイの問いかけにヴィンセントが無言で頷く。そして、扉を開こうとしている紗羅に気が付いた。

「サイル、何やってんだ?」

 そんなに力を入れなくても簡単に開けれるだろう扉を汗を流しながら一生懸命開けようとしている紗羅にルイがいぶかしげに聞いた。

「はめられたんだ。扉につっかえがかかってて、なかなか開かないんだ。」

 紗羅がもう一度力を込めて扉を引く。

「つっっ。」

 思わず痛みで顔をゆがめる紗羅。紗羅の様子がおかしいことに気づいたヴィンセントがのそりと動き、紗羅の右手を持ち上げる。

「何をするっ?!」

 紗羅がヴィンセントを振り払おうとするが、思った以上に力が強く、なかなか振りほどけなかった。

「おいおい、どうしたんだその手?!血だらけじゃねぇか!」

 包帯からにじみ出た血に反応してルイが布団から飛び起きた。

「なんでもないよ。」

 紗羅が視線を合わせないように顔をそむける。ヴィンセントが紗羅をじーっと見つめて、ぼそりと呟いた。

「…………眠りの香か。」

「!!?」

 紗羅が驚いて振り仰ぐ。2人の反応を見て、ルイがハッと何かに気づいた。

「そうか、この身体のだるさ…。眠りの香のせいだったのか。サイル、お前眠らないように自分でその手を傷つけたんだな。」

 図星を突かれて、紗羅はあきらめたようにため息をついた。

「そうだよ。昨晩何者かが僕たちの部屋に眠りの香を入れたんだ。何が目的か分からなかったから僕は眠らないように刃を握っていたんだけどね。まぁ、犯人の目的は僕らを試験会場に行けないように妨害するといった、とてもくだらないものだったわけだが。」

 ルイが顔をゆがめて舌打ちをした。

「こんなことをしそうな連中ばっかだもんな。まぁ、あいつが1番怪しいんだが。そんなこと言っている場合じゃねぇな。馬術の試験はもうあと10分くらいで始まっちまう。おい、ヴィンス頼む!」

 ルイがヴィンセントにそう言うと、ヴィンセントは静かにうなずき、扉に手を当てる。


 バキッッ


 木の折れる音と共に、扉が開いた。紗羅が部屋を出ると、扉を抑えていた木の棒が見事に真っ二つに折れていた。手を怪我していて、全く力が入らなかったとはいえ、紗羅が開けようとしても全くびくともしなかった扉をいとも簡単に開けたヴィンセントに紗羅は素直に感心した。

 扉を開けたヴィンセントは徐に紗羅を引っ張って、再び部屋の中に入り、ベッドに座らせた。

「?」

 紗羅が不思議そうな顔をしていると、ヴィンセントは自分の荷物から包帯と綺麗な布を取り出して、紗羅に手当をし始めた。

「あ、ありがとう。」

 紗羅が礼を言うと、ヴィンセントは照れたのか、俯いてしまった。


 

何をやっても完ぺき。まさに私の理想の主人公な紗羅さん。同室のルイとヴィンスはチンピラとぬりかべのような男ですねー。さて、次回は試験中のちょっとした陰謀その2をお送りします。

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