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*第2章~もう一つの世界【目覚め】~

――あの日の夢を見た。

 私に自分を殺すように命令した義理の父親。

〈紗羅、今日からお前は【暁羅】のために【暁羅】として生きろ。【暁羅】のために存在し、自分を消すんだ。お前は【暁羅】として生きなければ、その存在に意味を為さなくなる。〉

 私は幼かったが、そのようなことを考える父ではなく、幼いころに育んだ家族への愛情は、時がたつにつれ暁羅への歪んだ愛へ変貌した。


 暁羅のためにしていたすべては、10歳を超えたあたりから暁羅を守っているのは自分なんだという過剰な自意識と、暁羅がいればなにもいらないという依存性によるものだった――



 ふと、目が覚めた。

(懐かしい夢をみたもんだ。)

 クスっと声を出して笑い、まだ寝ぼけてぼやけている視界と、頭の中が徐々にクリアになっていくのを感じた。

 そして気づいた。自分を覗き込む二つの顔に。


 一つは10歳ぐらいの幼い少女。赤毛の髪に黄色系の肌、茶色の瞳がうれしそうにこちらを見つめている。もうひとつの存在に気づかなければ思わず笑みをこぼしてしまいそうなくらい、愛らしい顔をしていた。


 気になるのはもう一つの存在。あの少女の8倍はあるであろう大きな体に、真っ白な体毛、ところどころ入る黒のラインは自分の良く知っている生物だったが、果たしてその生物はこんな瞳で人間を見るのだろうか。

 むず痒くなるほど、じっと見つめられ、居た堪れない気持ちになった。だが、その生物、おそらく虎であろうものの深緑の瞳に何かを感じ、そっと手を伸ばしてしまっていた。

 その白い虎は気持ちよさそうに紗羅の手にすりすりと頭を押し付けた。


「―――――――――――――――?」

 突然愛らしい声が聞こえたが、何を言っているのか分からなかった。

どうやらこの少女が何か興奮しながら質問しているようだが、言葉がさっぱり分からない。

 ヨーロッパ圏の言葉に類似していたため試しにフランス語とイタリア語、ドイツ語、ポルトガル語、スペイン語で話しかけてみるも、キョトンとした顔で見てくる。


(どうしよう。ある程度の国の言葉は勉強して分かるはずなのに、彼女の言葉が全く分からない。というか、ここはどこなんだろうか。)

 考えこんでいると、白い虎が突然、紗羅の左手の人差し指を噛んだ。

「いったッッ!何するんだ!!」

 声を上げてどなると、ビクッと白い虎と、なぜか少女まで脅え、二人?してしょぼーんと下を向いた。

(いぢけているのか、これは)

 まだ痛みの残る左手をさすりながら、白い虎に話しかけている少女の言葉に気づいた。

「お兄ちゃんなんで怒っていたのかな?シーラ何か悪いことしたのかな?」

 おそらくシーラという少女はあの白い虎が紗羅に何をしたのか見ていなかったようだ。

「どうしよう、どうしよう。お兄ちゃんに嫌われたのかな?」

 不安そうに白い虎に話しかけるシーラを見てプっと思わず吹き出してしまった紗羅。

「ごめんね、ええと、シーラちゃん?ちょっとその生き物に驚いて声を上げてしまっただけだよ。」

「ほんと?」

「あぁ、本当だよ。」

「よかったぁ!」

 満面の笑みに変わったシーラの顔を見て、ようやく自分がなぜ突然彼女の言葉が分かるようになったか理解した。あの虎が噛んだ人差し指に見たことのない、だけど何故かその意味が分かる文字が巻き付いた。


《言語》

 という意味のそれはおそらくバウリンガルのような役目をはたしているのだろう。

そして同時に紗羅は気づいた。ここはきっと自分がいた世界とは異なる、違う世界なのだろう。

 この不思議な現象もそうだが、彼女の周りには見たことのない植物が広がっていて、空には太陽のような光と、空の奥に島が浮かんでいた。


 スッと息を吐き、紗羅はシーラに言った。

「ごめん、僕自分が誰のか、ここがどこなのか思い出せないんだけど、シーラちゃん、教えてくれないかな?」

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