*第35章~桜の樹の下で~
光の国・国立学院本試。光の国の州、光の国以外の国での準試を見事合格した、1000名が本試へ進むことが出来る。
紗羅はジュダスが用意した国籍が光の国の王都ライツの国籍だったため、王都がある州、エインヒルで準試を受け、見事主席で本試へ進んだ。
本試は光の城の場内で行われ、5日間にわたる。最初の2日間は筆記試験、残りは武術の試験となる。試験が行われている間は城に併設されている宿舎で受験生が寝泊まりする。
「いいか?くれぐれも女だとばれるなよ。ばれたら即退場だ!」
「分かってるって。僕の男装に何か不備があるとでも?」
紗羅は胸にさらしをしっかり巻き、ジュダスにもらった薄鼠色の服を身に纏って、くるりと回転した。
「いやぁ、見た目はどう見ても男だ。というか実際女と言われても気づかない!むしろ本当に女なのか疑わしいくらいだ。」
ジュダスが自信を持って言うと紗羅は満足そうにうなずき、アレクが怒っていた。
「我が主はどっからどう見てもお美しい女人であらせられるではないか!貴様の目は節穴か?!」
「なんだと?!女に見えたらそれこそ問題じゃないか!!そもそも女っていうのはもっとおしとやかでやわらかい感じなんだ!こいつは断じてそれに当てはまらない!!」
「貴様、自分こそあんな見苦しい女装をしておきながらよく言うわ!よくもあんな恰好で人前を歩けるもんだな!」
「言ったなっ!あれは芸術品っていうんだよ。そんじょそこらの女より俺の女装のほうがずっときれいだよ!サラよりもな!!」
「言わせておけば―――」
(アレク、いい加減にしろ。)
放っておいたらいつまでもジュダスと言い合いをしてそうなアレクをたしなめ、紗羅はシーラに「行ってくる」と言って、ジュダスの屋敷を後にした。
紗羅が城の敷地内に入ると、そこには大勢の受験生たちがいた。将来有望な若者たちや、すでに何回も受験しているであろう、老齢の者など、様々だった。
(まぁ、さすがに女で受験しているものなどいないな。)
この世界では女人が政治に関わると、災いが起こるという迷信が根深く残っており、どの国でも、女人の官吏というものは存在しなかった。だが、“女人が官吏になってはいけない”という法律もまたないため、ダラスの大丈夫との一言で紗羅の受験が決定された。
(とはいうものの、さすがにしょっぱなから女の姿でいっても絶対取り合ってくれないから、しばらく様子見で男装を続けることになったんだが…。)
“女人が官吏になってはいけない”という法律がないのは、裏を返せばそれだけ、“女人は官吏にならない”という常識が定着しているからである。
紗羅は宿舎の中の1番端の部屋へ割り当てられた。筆記試験が終わるまでは1部屋5人で過ごすこととなる。紗羅が部屋へ入ると、既に3名の受験者がいた。
1人は紗羅が部屋に入ったのに一瞥をくれると、すぐ本に視線を戻し、無言で勉強を続ける。
また1人は早くも部屋のベッドに横たわり、紗羅が部屋に入ったのにも気づかないまま爆睡を続けている。
最後の1人だけ、気さくに紗羅に声をかけてきた。
「やぁ、サイル・フォード君でしょ?僕はバルド・ロウ。同室同士仲良くしような。」
そう言って紗羅に握手を求めた少年は、栗色のウェーブのかかった短い髪に、白い肌、黒い瞳に、身長は低めで温和な空気を醸し出していた。
『サイル・フォード』と呼ばれた紗羅は一瞬間を空け、すぐにその握手に応えた。
「あぁ、よろしくな。」
紗羅と挨拶を交わした後、バルドは部屋にいた残りの2人を紹介し始めた。
「このいかにも勉強一筋って感じの眼鏡君がイアン・グレイ。そしてそっちで寝ているのがルイ・アングレイス。そしてまだ来ていないが、もう1人、ヴィンセント・コール。かなりの大男で剣術大会の優勝候補。この4人が君と同室のメンバーだ。」
にこにこと笑顔で話すバルドに紗羅は違和感を覚えた。
(この顔に張り付けたような笑顔には見覚えがある…。あれは、シーラの村の人間や、僕の名前に群がってた連中と同じ笑顔。こいつ、かなり胡散臭い。)
紗羅は警戒しながらも、悟られないように黙ってバルドの話を聞いていた。
初日の筆記試験は正午から始まる。科目は、歴史と魔法学。たったの2科目だが、その内容は濃く、1科目に3時間はかけるほどだった。
もちろん紗羅は言うまでもなく、時間内、それも1時間以上余らせて試験を終わらせ、早々に試験場を後にした。
紗羅が暇を持て余して城の庭を散策していると、青い礼服を来た学生が庭の中央の桜の樹の下で寝ていた。
紗羅がかかわらないように、そこを避けて通り過ぎようとすると、突然むくりとその男が起き上がった。
「ねぇ、君受験生でしょ?」
桜の花びらが舞う中で、男が紗羅に声をかける。
「そうですが、何か?」
紗羅が無表情で答える。
「いや、もう試験終わったのかと思ったが、君の他に誰も出て来ていないようだったから。」
その男は透き通るような長い金髪を書き上げて、紗羅の顔を見た。紗羅も男の顔を見る。
(どこかで見た顔だな…。)
紗羅が無言で見つめていると、男がクスッと笑った。
「そんなに見られたら穴が開いてしまうよ。何か僕の顔についているかい?」
自分が無意識に見つめていたことを気づかされた紗羅は顔を真っ赤にして、男から顔をそむけた。
「そんなに恥ずかしがらないでよ。それにしても君、すごく綺麗な顔をしているよね。どこの国の人?」
「…一応、この国。」
男の質問にぶっきらぼうに答える紗羅。紗羅の答えを聞いた男は一瞬首を傾げたが、特にそのことについて問うことはなかった。
「ねぇ、こっちに来て、話をしないか?こんなに早く試験を切り上げてくるほどだからよっぽど頭に自信があるんだろう?それなら今から勉強する必要もないと思うんだけど。」
紗羅は先に断る理由を言われてしまい、返事に詰まった。
「ほら、図星だ。さぁ、ここにきて。」
男はポンポンと自分の隣を叩く。紗羅は仕方なく、男の隣に腰を下ろした。
男と話した内容は、受験の雰囲気、同室の受験生について、なぜ受験をしているのか等、一方的に男が紗羅に質問をするといった形式であった。
「お前、聞いてばっかりで自分のことは何も話さないんだな。」
さすがに紗羅も文句を言う。
「うーん、僕のことはさ、入学すれば嫌でも思い知ることになると思うから、今は言わない。それよりも君、知ってる?今年の受験生から新たに、特別クラスが設立されるの。」
「特別クラス?」
紗羅は首を傾げる。
「そう。通常この学院を卒業するには3年間通う必要があるんだけど、そのクラスだけは1年間で卒業と同等の優遇を受けれるようになる。そのかわり授業がかなりハードで、ついてこれない生徒はすぐに切り捨てる方針なんだって。」
(もしかしてそれって…。)
紗羅は頭を抱えた。何故ならその1年という数字が紗羅の提示した王になるまでの約束の期間だからだ。
(ダラスめ…。わざわざそんなものまで作る必要などないのに。付き合わされる周りの人間のことも考えろよな。)
紗羅が黙りこくってしまったため、男は話を続けることが出来ない。そんな男の様子に紗羅は気づき、「悪い。」と言って、話を続けさせる。
「どうやら、まだそのクラスへの選考基準などは不明で、御自ら選ぶために、今回の採点は国王陛下もご覧になるらしいし、剣術大会の日には見に来られるそうだよ。」
男の説明を聞き、紗羅はため息をつき、再び頭を抱えてしまった。さすがに男はそれ以上話しても聞いてはいないだろうと悟り、その場で立ち上がった。
「僕はもう行くね。そうだ、名前を聞いていなかったよ。教えてくれるかい?」
男が紗羅を見下ろす。紗羅は男を見上げてジュダスが与えたこの国での紗羅の名前を答える。
「サイル・フォードだ。」
「僕はアベル・ライツ。君が受験する学院の3年生だ。頑張って受かってね。」
アベルはそう言って、手を振りながらその場を去った。
アベルが去った後で、紗羅は気づいた。
(あいつ、誰かに似ていると思っていたら、ダラスにそっくりだ。姓も“ライツ”だったし…。王族、それもダラスにかなり近いな。もしかすると、息子か?)
部屋に帰ってからも紗羅はそのことを考え続け、初日が終了した。
物語が進むにつれ、だんだん登場人物が増えていきます。キャラ設定は前もってできているのに、いつもいつも中々名前が決まりません。最近更新が遅れているのはそのせいですねー。名前決めるのに下手したら数時間かけるときがありますから…。でも結局あまりいい名前が浮かばず、適当につけてしまいました。ダメダメですみません。




