*第34章~魔法の構築
雨が上がり、雫でキラキラ光る草原を紗羅とジュダスは馬を走らせていた。
「さて、そろそろ戻るか。」
呪縛が解けたように、晴れやかな顔をしたジュダスが紗羅に声をかける。
「あぁ。そろそろシーラの私塾も終わる時間だしな。」
紗羅はエンジェルの手綱を引っ張り、止まらせる。
「よおし。それじゃあサラ、大門まで競争だ!」
ジュダスはくるりと反転し、勢いよく馬を走らせた。慌てて紗羅もエンジェルを走らせる。
「卑怯だぞ、ジュダス!!」
紗羅が怒るのを無視して、ジュダスはあっという間に駆けていった。
ジュダスの屋敷に戻った紗羅が部屋に戻ると、すでにアレクとシーラが待っていた。
「おかえりなさい。」
シーラが笑顔で迎え、アレクが頭を下げる。
「ただいま。」
紗羅も2人に笑顔で答えた。
夜が更け、シーラがすっかり眠りにつくと、アレクが紗羅の竜剣に興味を示した。
「主、それはもしや、花の国の神獣の剣でございますか?」
「そうだ。やはり、分かるか?」
紗羅がアレクに剣を見せる。
「えぇ。以前までは封印がかかっていて、何か特殊な剣としか分かりませんでしたが、封印を解かれたのですか?」
アレクが少し拗ねたように言った。
「あぁ。ジュダスがどうしてもって言ってな。どうしたんだ?そんなにむくれて…。」
「だって、私、あいつ嫌いなんです。牙といえど、あいつが主に触れるなんて…。」
アレクが竜剣を紗羅からとろうとしたため、紗羅は上へ持ち上げた。
「だめだ。これは僕の剣だ。僕がこの剣を使うのが嫌なら、この剣を使わなくても良いようにすればいいだろ?」
「そんなぁー。主は魔法を使うよりも絶対咄嗟にその剣を使いますでしょ?それをさせないようにするなんて、無理な話じゃないですか。」
紗羅が茶化すように言うと、アレクが少し涙目になった。そんなアレクを見て、紗羅はこらえきれなくなり、吹き出してしまった。
「ぷっっ。悪い悪い。確かにお前の言うとおり、呪文なんて考えるよりも、こいつを使った方が早いからな。まぁ、そんなにむくれるなって。なんだかんだで僕が1番頼りにしているのはアレク、お前なんだからな。」
紗羅が極上の笑みで笑いかけると、アレクが赤くなり、そっぽを向いて、咳ばらいをした。
「コホンっ。あ、主。できればそのような顔はあまり人前で見せないで頂きませんか?」
「ん?何故だ?何か問題でもあるのか?」
紗羅が心底分からないといった顔をすると、アレクがため息をついて、ボソッと呟いた。
「無自覚なのが1番恐ろしい…。」
夜が明け、今日も紗羅の勉強の時間が始まる。
本日はジュリアの講義。シーラも一緒にと紗羅は言ったが、今日の講義は高度魔法になるので、シーラには危ないと言われ、サラだけがジュリアと共にジュリアの屋敷に行った。
(相変わらずファンシーだな…。)
紗羅は以前通された部屋へ進み、部屋の奥の机があるところへ行こうとすると、ジュリアが部屋の手前の広場になっているところで止まるよう、紗羅に言った。
「今日はね、サラちゃん。この前サラちゃんが構築した魔法を見せてほしいの。」
ジュリアに言われ、紗羅は魔道書を取り出し、ページを捲り、詠唱を始める前にジュリアに尋ねた。
「ここで魔法を使っても大丈夫なのか?」
「大丈夫。ここは特殊な魔法がかかっている部屋だから、ある程度の魔法は床に描いた魔法陣が吸収するわ。でもできれば、威力は最小限でお願いね。」
紗羅はチラっと、床下を見て、再び魔道書に視線を戻した。
「我、唱える者。穢れた大地に降り注ぎ、すべての魔を取り除け。【聖光祓魔矢】!!」
瞬間、魔道書から無数の光の矢が飛び出し、床に描かれた魔法陣に吸い込まれていった。が、すべてを吸い込む前に、魔法陣が煙を上げ、光の矢を吸い込み切れずに、四方八方に飛び散ってしまった。もっとも、その飛び散った光の矢が何かを破壊するわけでも、ジュリアに攻撃するわけでもなく、飛び散った場所で、自然と消えていった。
ジュリアはその光景をみて、瞳を輝かせていた。
「す、すごいわぁ!サラちゃん。こんな高度で複雑かつ、威力の大きい魔法を構築するなんて。しかもこれは第4の魔法よ。でも既存の魔法じゃなくて、サラちゃんオリジナルの魔法。初心者でここまでできるなんて、あたくし鼻が高いわっ!」
ジュリアが紗羅に抱きつく。
「ジュリア!は、放してくれないか?!聞きたいことがあるんだっ。」
紗羅は自分を離さないジュリアを無理やり引っぺがした。
「んもうっ。サラちゃんたらイケズっ!」
ジュリアがほっぺを膨らました。
「すまない。だが、この魔法が既存の魔法ではないとは言いたいどういうことなんだ?ジュリアは第4の魔法を2つしか知らないと言っていたよな?ではこの魔法が残りの8つのうちの1つである可能性はあるのではないだろうか。」
紗羅の意見を聞き、ジュリアがやっとふくれっ面をもとに戻した。
「そうねぇ、サラちゃんが言いたいことはよおく分かるわ。でもね、それはありえないの。」
「どうしてだ?」
紗羅が聞くと、ジュリアは紗羅に部屋の奥の机へ向かうように行った。そしてジュリアは黒板の前に立ち、【操作】でチョークを操って、文字を書く。
「これを見てちょおだい。第4の魔法はね、確かにあたくしは全部を知らないわ。でも、魔法にはそれぞれ属性があるのよ。それは神が分けた6つの属性。光、風、大地、火、水、そして闇。たとえばサラちゃんの魔道書の中の【竜巻】。これは言うまでもなく風の属性の魔法よ。そして第4の魔法にももちろん属性がある。光属性の魔法と、闇属性の魔法が1つずつ、残りはそれぞれの属性の魔法が2つずつ。計10個の魔法が今のところ存在する第4の魔法。サラちゃんの魔法は見たところ、光属性の魔法ね。」
紗羅はジュリアの言わんとしていることが分かった。
「つまり――」
「つまり、ジュリアが知っている第4の魔法が光属性の魔法で、僕の使った魔法とは全く別物だった、ということか。」
ジュリアは肯定の言葉の代わりに笑顔でうなずいた。
ジュリアは紗羅の魔道書の【聖光破魔矢】のページをじっくり観察し、紗羅に説明をした。
「この魔法は、闇の力を持っているものや、魔に侵されたものだけを目標物として攻撃する魔法のようね。それ以外には一切危害を加えないようになっているわ。目標物を特定しつつ、その威力は強く、広域に渡る。多分サラちゃんが本気を出せば、1回の使用で国丸ごと1つ浄化出来ちゃうんじゃないかしら。この前は魔法を発動する前に大量の魔力を消費していたようだから、威力がかなり小さくなって森だけで収まってたみたいだけどね。」
(そんなすごい魔法だったのか…。どおりで1週間も眠ってしまうわけだ。残りの魔力をほぼ使ってしまったのに、通常よりもかなり威力が小さくなるとはな。便利そうだが、魔力の消費量が問題だな。)
紗羅は次回はもっと考えて使おうと心に決めた。
「それじゃあ、今日は第3の魔法を教えるわよ。」
ジュリアはよく使うという第3の魔法10個と、第3の魔法の構築方法を紗羅に教授した。
「これさえ覚えれば、いざというとき役に立つわよ。」
ジュリアは特に念入りに構築方法について、語った。紗羅は講義を聞きながら、ふと疑問が生じた。
「というか、さっきから思っていたんだが、魔法って新たに作ることも出来たんだな。自分で作っといていうセリフではないと思うが。」
「何を言っているのかしら。そんなの当り前ですわよ。誰かが構築しないとそもそも魔法なんてものは生まれなかったわ。大昔に魔法を構築した人がいて、年を重ねるごとに、どんどん魔法が増えていって、今は既存の魔法が定着しているけど、優秀な魔導師は今でも自分で魔法を構築するわ。まぁ、そうは言っても皆第3魔法までしか構築出来ませんけれどもね。だからサラちゃん、あなた本当にすごいわ。」
ジュリアが再び紗羅に抱き着こうとしたので、紗羅は脱兎の如くその場から逃げ去った。
ジュリアの講義も終わり、紗羅はジュリアに送られてジュダスの屋敷に戻った。部屋に入ると、アレクとシーラの姿はまだなく、代わりにジュダスがいた。
「どうしたんだ?」
紗羅がジュダスに近づき伺う。
「いやぁ、何だか定期的にこいつの力を発散させなきゃ不安でな。かと言って相手できそうなやつがいなくって、つい、お前の所に来ちまった。」
ジュダスが照れくさそうに言った。
「まぁ、シーラ達が帰るまでまだ時間がありそうだから、付き合ってやるよ。」
紗羅とジュダスは中庭に向かって歩き出した。
ジュダスと手合せをしながら紗羅は、ジュダスがだんだん剣の魔力を使いこなしていっているのを感じ取れた。最初は紗羅に言われるがまま、剣を振っていたジュダスが、紗羅に言われる前に行動に移し、時には見たこともない魔力の形を剣から放出させていた。
「やるじゃないか。もう、完全にコントロールすることが出来るんじゃないのか?」
紗羅がジュダスに問いかけると、ジュダスは首を横に振った。
「いや、まだまだだ。お前と比べるとまだぎこちない。お前はまるで手足を動かすのと同じくらい自然にその竜剣を使いこなしている。」
ジュダスが嫉妬の目線で紗羅を見る。
「いや、僕魔力持ってんだよ?そう簡単に追いつかれるわけには、いかないよ!」
紗羅はそう言って、竜剣から氷のつぶてをジュダスに向かって放った。ジュダスはいきなりのことで大剣の魔力を使って防ぐことが出来ず、すべて、実際の刃で叩き落とした。
「今はそれで十分だよ。そのうち、考える前に大剣の魔力を出せるようになるさ。」
紗羅はそう言って、悔しそうに膝をついたジュダスの肩を叩き、その場を後にした。
部屋に戻ると、さすがにアレクもシーラも帰ってきており、アレクは紗羅が竜剣を使っていたのを知って、昨日と同じく膨れていた。
――― 時が経ち、とうとうダラスとの約束の1ヶ月が過ぎた。紗羅は遅れた分を取り戻すどころか、その先を行き、講師陣を困らせていた。準備は完ぺきと言っていいほど整った。
(さぁ、いよいよ腕の見せ所だな。)
この世界での暦で、獣歴4735年、花の月。光の国・国立学院の準試が始まった。
紗羅は聞くまでもなく、主席合格し、本試へ進んだ。
そして、本試の日。アレク達に見送られながら紗羅は竜剣と、黒い長弓を背負い、城へ向かった。
さて、いよいよ試験です。でも紗羅さんに今のところ敵なし状態です。いつまでこの状態が続くのでしょうか。というか、紗羅さん、もう学校に行かなくてもいいくらいの知恵を身に着けているのでは…。とまぁ、そんな揚げ足をとるようなことには触れずに、次回へサクサク進みましょう!




