*第32章~剣の封印~
夜明け前の薄暗い空の下で、紗羅はジュダスの屋敷の庭を歩いていた。昨日、皆に休めと言われたが1週間も眠っていたのだから、早々に目が覚めてしまった。アレクも一緒に出ると言っていたが、紗羅は1人で外の空気を吸いたいと言って、アレクにはシーラのそばにいるように命令した。まだ少し肌寒かったが、その空気の冷たさが逆に、紗羅は都合がよかった。
「あの男、おそらく影の国の人間…そもそも影の国に人間などいるのだろうか。」
ブツブツと独り言を言いながら、紗羅は庭をくるくる回る。
「1番考えられるのが、神の器となった人間だな。器となった人間は影の国へ行った後、どうしているのだろうか。赤子の時に器にされるのだから、大人になったとき疑問に思ったりはしないのだろうか…。」
紗羅が考えても考えても答えがまとまらなかった。何故なら、情報が不足しているからだ。
(昨日もダラスに止められたしな。今はまだ知るべきではないという意図だろうが、いずれ知るのであれば最初から教えてほしいものなんだが…。なあ、アレク?)
紗羅はその場にはいない、だがこの距離であれば聞こえているであろうアレクに尋ねた。
『主は私から答えを知るのを望んでいないはずです。人間を神の器にすることは人間たちが決めたことですから、我々はいわば第3者。そのようなものから聞いてもあまり意味はないとお思いでしょう?』
(まあ、そうなんだが。でも、謎を謎のままにしておくっていうのもあまり好きではない。一番はダラス達が早めに言ってくれることなんだが…。試験の後って約束したからな。催促することはできないし。)
『では、今は試験に集中なさいませ。』
紗羅は「そうだな。」と言って、苦笑いした。
今日の講義は再び、ジュダスの武術の時間。紗羅は動きやすい服装に着替え、剣を背負って中庭へ向かい、またしても先に来ていたジュダスに声をかけた。
「またせたか?」
ジュダスが振り返る。
「いいや、今来たとこだ。さて、サラ。今から少し出かけるぞ。」
「どこに?」
紗羅が首を傾げる。
「まぁ、ついてきな。」
ジュダスはそう言って、中庭から屋敷の門のほうへ向かった。
紗羅達が門を出ると、門の外には2頭の馬がいた。1頭は純白の手入れの行き届いた馬。もう1頭は黒く、何故か目つきが悪いように見える。
「今日は馬術の授業か?」
紗羅がジュダスに聞く。
「そういうことだ。俺はこの白い馬、リリーに乗るから、お前はそっちのエンジェルに乗れ。」
明らかに名前負けしている馬に乗るように言われた紗羅は鼻息の荒いエンジェルの方へ向かう。紗羅が近づくと、エンジェルは警戒し、紗羅を威嚇してきた。紗羅は無表情のまま、エンジェルに近づく。そして紗羅がエンジェルに触れようとしたとき、エンジェルが鳴いて紗羅を前脚で蹴ろうとする。
「止まれ、エンジェル。」
紗羅が響くような声で言って、エンジェルを睨みつけると、エンジェルはその場で一瞬停止し、そのまま上げた前脚をストンと下に落とした。
再び紗羅がエンジェルに触れようとすると、エンジェルは抵抗せず、むしろ懐いたように紗羅に頭をすり寄せてきた。それを見ていたジュダスがヒューと口笛を吹く。
「やるなぁ、サラ。その馬に乗りこなせたのは俺と、ダラスだけだぜ?」
「お前たちができるの出れば、僕にできて当たり前だ。」
紗羅がニヤっと笑うと、ジュダスが膨れた。
「お前、ほんっと可愛くねえな!」
「可愛くなりたいとは思わないからな。僕には不要なものだ。」
紗羅はジュダスの方をチラとも見ずに言いながら、エンジェルに乗った。
「…。まあ、いいや。じゃあ、俺についてこい。」
ジュダスが馬を走らせたので、紗羅も後に続いた。
ジュダスは王都を抜け、しばらく馬を走らせると、小高い丘で止まった。
「よし、ここでいい。」
ジュダスが馬から降り、紗羅に近づく。
「それじゃあ、馬術の試験について、説明する。馬術はある一定の距離を馬に走らせて、その時間を競う。一定の距離とはここから王都の大門への往復くらいの距離だ。俺はさっき門番にあるものを渡しておいたから、お前は今からそれを取りに行って、帰ってこい。制限時間は20分。これくらいが試験合格者の平均だ。」
紗羅はエンジェルをくるりと方向転換させ、大門のほうを向く。
「15分で戻れる。」
紗羅はジュダスにそう言い、エンジェルを走らせた。
紗羅はジュダスに言った通り、片道6分で大門についた。そして、そのまま門番のところへ行き、ジュダスの預かり物を受け取る。
「なんだこれは?」
ジュダスの預け物とは澄んだ水色をした直径5センチほどの珠。紗羅が門番からそれを受け取った瞬間、紗羅の背中にしょった剣が鳴いた気がした。
(これはもしかして…。)
紗羅は急いでジュダスのもとへ帰った。
「すげぇな、お前。11分とか、どんな技を使ったんだ一体?」
エンジェルの荒い息の中、ジュダスが素直に感心していた。
「それより、この珠。この剣にかけられている封印と関係するのか?」
紗羅はジュダスに受け取った水色の珠を出す。
「あぁ、そうだ。それ持った瞬間、その剣ないただろ?最初にお前がその剣を受け取ったときに言ったが、その剣は今力を封じていて、魔導師にも触れなければ、その剣が竜の歯でできた剣、即ち竜剣だとは気づかれないようになっている。と、いうのもその剣の力をこちらの珠に封じたからだ。」
ジュダスに言われ、紗羅が珠を覗き込むと、珠の中で、水が渦を巻いているように見えた。
「本来ならその剣は、魔力がなくとも水に関する魔法を容易に使えるんだ。もちろん魔法陣や詠唱も不要だ。剣をもって考えるだけで使える。だが、その剣自体が張っている結界で滅多に持ち主が現れず、たまに現れたとしても、ロクな使い方をするものがなかなかいなかったんだ。それで先代の王が魔力だけ抜いて、正当な、それも正しい使い方をするものが現れるまで、封印した珠と別々にするようにしたんだ。」
「で、それが僕ということか?」
紗羅がジュダスに尋ねた。
「そういうことだ。剣はお前を選んだし、お前自身はその剣にあんまり頼らなくても、自分で魔法が使えるしな。お前だったらこの剣の力を解放してもいいと、ダラスから許可をもらった。」
紗羅は剣をじっと見た。剣に表情があるわけではないが、自分の力の源がそこにあると感じているのか、すごく興奮しているように見えた。
「別に、僕は解放してもしなくてもどうでもいいんだが。」
紗羅が少々気のない返事をすると、ジュダスが紗羅に詰め寄ってきた。
「駄目だ。この剣の力は解放する。この剣を使えば魔力を消費することもない。この前のようなことになるのは、ごめんだ。あの時この剣に力が戻っていたら、わざわざお前の魔力を使わんでも、神獣を捕えていた魔法は敗れたはずなんだ。」
ジュダスの表情が曇っているのを見て、紗羅は少し困った顔をした。
「お前がそんなにつらそうな顔をすることはないと思うんだが…。」
紗羅がそう言うと、ジュダスは少し泣きそうな顔になり、そっぽを向いた。
「どうしたんだ、ジュダス?」
「……だ。」
「え?なんて言ったんだ?」
風の音より小さい声でジュダスが話すので、紗羅は聞き取れず、ジュダスの顔を覗き込もうとする。だが、ジュダスは紗羅に顔を見られまいと、さらに反転して、叫んだ。
「俺は自分が不甲斐無かったんだ!!」
紗羅の身体がビクッと反応する。
「俺はあの場にいて、実際何の役にも立たなかった。王族たるこの俺がだ。確かに俺は魔力を持っていない。だが、自分がこんなにも役立たずだとは思わなかった。」
ジュダスが下を向いているのが、背中から見ても分かった。
「俺は、こんなに自分が弱いことを思い知ったのは初めてだ。だから、俺は今力がほしい。それにはお前のその剣の力を解放する必要がある。」
ジュダスが紗羅のを振り返って見た。
「お前がこの剣を使うのか?」
紗羅がジュダスに尋ねると、ジュダスは首を横に振った。
「その剣はお前が主だと言っている。俺には扱えない。」
「じゃあ一体お前の言っている意味は何なんだ?」
紗羅には全くその理由が思い浮かばなかった。紗羅がジュダスを見つめると、ジュダスは自分の背中にかけている大剣を取り出した。
「実はこの剣も、お前の竜剣と同じで、力を封じられた特殊な剣なんだ。」
「その剣も竜の牙で作られたのか?」
紗羅はまじまじとジュダスの大剣を見た。
「いや、違う。これはユニコーンの角が混じっている、光の魔力を持った剣だ。」
「何故、その剣も魔力を封じてあるんだ?これと同じで正当な使い手が見つかるまで力を使わせないためなのか?」
紗羅が聞くと、ジュダスは再び暗い顔をした。
「それも違う。この剣は代々、王にならなかったライツ王族の1人が受け継ぐもの。使い手は元々決まっている。それにこの剣の力を封じるようにしたのは、俺だ。」
「何故だ?」
紗羅の質問に、ジュダスは真剣なまなざしを紗羅に向け、言った。
「俺がこの力を暴走させて、友を殺したからだ。」
ここにきて、ジュダスの男Ver.の性格が更に判明!それは…結構な泣き虫さん☆ジュリィちゃんの時には絶対泣かないと思うんですよねー。さて、次回はそのジュダスさんの過去です。またしてもちょいシリアスでお届けします!




