*第31章~禁じられた魔法~
――紗羅は逃げていた。得体の知れない黒い塊に追われて。
だが、逃げても逃げても黒い塊との距離は拡がらない。やがてその黒い塊は紗羅に追いつき、紗羅を飲み込んだ。紗羅は必死でもがいたが、黒い塊の中から鎖が出てきて、紗羅をがんじがらめにする。抵抗を続ける紗羅に、声が聞こえてきた。
「お前のせいだ。」
「お前さえいなければ。」
いくつもの声が、紗羅を責める。その声は暁羅のものであったり、ゼダのものであったり、シーラの村の村人であったりした。
「やめろ!私にどうしろっていうんだ!!」
紗羅は目をつぶり、耳をふさごうとするが、鎖のせいでそれもできない。
「お前なんて必要ない。」
「消えろ。」
紗羅は目を見開いて叫ぶ。
「―――――――っ止めろー!!!」
がばっと紗羅は飛び起きた。まだ混乱していた紗羅は辺りを見回す。自分が寝ているベッドの他に2つのベッド、大きな箪笥、広い部屋。見覚えのある部屋を見て、さらはアレが夢だと確信した。
(いや、あながちただの夢って訳でもないな。あれは事実だ。)
紗羅は汗の滴る顔に手を当てた。
「主っ!!」
部屋の扉が勢いよく開き、少年の姿のアレクが紗羅を見た。
「アレク、よかった。無事だな。」
紗羅がふわりと笑うと、アレクが泣きながら飛びついてきた。
「主!何故あのような無茶をされたのですか!?」
紗羅に抱き着き、泣きじゃくるアレクに紗羅は驚いた。
「す、すまなかった。あれはほとんど無意識だったんだ。」
「無意識でもやっていいことと、いけないことがあります!!もっとご自身の身体をいたわって下さい!!!」
いつになく紗羅に強気で言うアレクに紗羅は少しむっとした。
「…では、お前は一体どうなんだ?僕たちに心配をかけて、あんな奴らに捕まってたじゃないか!あれはやってはいけない事ではないのか?」
紗羅がジロっと睨むと、アレクの表情が固まり、みるみる顔色が真っ青になっていった。
「うっ、それは…。」
「まずは、僕とジュダスに迷惑をかけたこと、皆に心配をかけたことを詫びるべきではないのか?そもそも僕が無茶をしたのだって、お前を――」
「わーー!!申し訳ございませんでした!!!!!」
紗羅の言葉をさえぎり、アレクが床にのめり込むほどの土下座をした。いや、実際その勢いで床が少しへこんでいた。
紗羅が目覚めたと聞きつけ、シーラ、ジュダス、ジュリア、カイル、そしてダラスまでもが紗羅たちの部屋に駆けつけた。どうやら紗羅は1週間も眠り続けていたらしい。
「おっにいっちゃあーんっ!もうおきっないかとっおもったあぁ!!」
ほとんど何を言っているか分からない状態でシーラが顔から出るもの全部出しながら、紗羅の前でへたり込んでいた。
「よう、遅いお目覚めだな。」
ダラスが笑いながら紗羅に話しかける。一見あまり気にしていなさそうに見えたが、目の下のクマがひどい。
(もしかして、私のせいで寝ていないのか?!)
紗羅がアレクのほうを見ると、すでに泣き止んでいたアレクは少し困った顔をして頷いた。
『主のせいではありませんが、皆心配していたようです。』
アレクの言葉を聞き、紗羅はベットの上で頭を下げた。
「皆、すまない。心配をかけてしまったようだ。」
皆紗羅の行動に戸惑った。だが、ジュダスだけがいつまでたっても顔を上げない紗羅に拳骨を食らわした。
「いっったいなぁ!!何するんだジュダス!」
「はんっ!いつまでもらしくないことをするな。」
そう言ってそっぽを向くジュダス。だが振り向いた先にいたジュリアがジュダスの顔に光るものを見つけた。
「あらぁ、ジュダスちゃん。そんなに涙を流すほどうれし――」
ジュダスが咄嗟にジュリアの口をふさいだ。それを見て、皆声を上げて笑った。
「さて、アレク。話してくれないか?一体何があったんだ?」
紗羅はシーラに私塾に行くように言って、部屋から出した後、アレクに聞いた。
「それが…私にもあまりよく分からないのです。リューイからあの狐の聖獣の話を聞いた後、シーラの力と何か関係があるかもと思い、あの森まで行ったのですが…突然あの者たちが現れて、気づいた時にはもう私は主たちに助け出された後でした。」
「何故、神獣たるお前がそうやすやすと捕まったんだ?」
紗羅が聞くと、アレクが悲しい顔をした。
「それは、あの狐の聖獣の姿を見て、少なからず動揺してしまったのです。そこへもう1人のあの謎の男に付け込まれて、抵抗することもできないまま、捕えられてしまったのです。あの者の力は純粋な“闇”です。」
「闇…それって、影の王国が関係しているということか?」
紗羅の質問に、アレクだけでなく皆が厳しい顔をした。しばらく誰も口を開かなかったのを見かねて、ジュリアが答えた。
「おそらく、サラちゃんの言う通りよ。そして虎ちゃんを捕えていた、その水晶のようなもののと液体は第4の魔法。それも片方は禁じられた魔法よ。」
「第4の魔法…。ジュリア、それがどんな魔法を知っているのか?」
紗羅が聞くとジュリアが首を横に振る。
「私が知っている第4の魔法はどちらともその2つに当てはまらないわ。ただ、どんなものも通さない結界と、中にいる者を外に出さない牢のような魔法、そしてすばやく目標物を捕える魔法が組み合わされているということは噂に聞いているわ。あと、黒い液体については…【吸生黒水】。1000年ほど前に世界中の魔道書から消えた魔法よ。今、その魔法陣や、詠唱文字を知っている人はいないはずよ。」
(消えたはずの魔法を使う男。消滅したはずの聖獣。一体何が起きようとしているんだ?そしてヤツラの目的は…。)
紗羅は黙って考えていたが、それをさえぎるようにダラスが紗羅の肩を叩いた。
「まあ、謎の男に関してはこれから調査するってぇことにして、今日は体力を回復させることに集中しな。明日から遅れた分を取り戻す講義を再開するから、今のうちにしっか休んでおくんだな。」
ダラスが何故か意図的に紗羅が考えることをやめさせたように見えた紗羅は一瞬ダラスの目をジッと見たが、すぐに目をそらし、「わかった。」と言って、それ以上考えるのをやめた。
はい、出ました。アレクの土下座芸。床がへこみました(笑)
最近どこで区切ればいいか分からなくて、偉く文字数が多かったり、少なかったり…。難しいですねー。




