*第30章~囚われのアレク~
ゼダと名乗った男は憎しみを紗羅へ向けていた。
「元聖獣だと?それは消えたはずの狐の聖獣ということか?!」
ジュダスが紗羅をかばうように前に出る。
「よそ者が口を出すな。俺はそこの男に用がある。」
ゼダが紗羅を指差す。
「それはアレクがお前たちに捕まった理由と関係があることか?」
紗羅は自分が真っ青になっていることも気づかず、全神経をあの2人の男に集中させていた。それ程までにあの男たち――特にまだ顔を見せていないフードをかぶった男から得体の知れない何か強大な力を感じた。
「しらばっくれる気か?分かっているんだぞ。お前がこの神獣をこの世界から連れ去った張本人だということはな!!」
ゼダは拳を握りしめ、怒りで震えていた。
「お前さえ、お前さえいなければあんなことにはならなかったんだ!!お前が俺たちの世界を、幸せをむちゃくちゃにしたんだっ!」
「っっ…。」
紗羅は突然向けられた怒りに返す言葉が見つからなかった。ゼダの言っていることは間違いではなかったからだ。
(だが――。)
スッと、紗羅はゼダを睨みつけた。
「だから、お前はお前の幸せを壊したアレクを捕え、僕に危害を加えようというのか。僕らが望んでこの世界から消えたとでも思っているのか。」
紗羅の冷めた声に、ゼダがビクッと身体を反応させた。
「そして、お前はどうするんだ?僕を殺すのか?はっ!とんだガキだな。」
紗羅が鼻で笑うと、ゼダに再び怒りの感情戻った。
「お前に何が分かる!あの人を殺してしまって、消えるしかなかった俺の気持ちが!!」
ゼダが怒りを爆発させようとすると、もう1人の男がゼダの肩に手をかけた。
「やめろ、ゼダ。今はまだその時ではない。」
低く、響くような声が聞こえた。
「うるさいっ!!俺に指図するな!」
ゼダが男の手を振り払おうとした瞬間、その男から黒い気があふれた。ビリビリとその気を肌で感じた紗羅とジュダスはその場から動けなかった。傍にいたゼダも、青い顔をしていた。
(なんなんだ?!この男は…。)
紗羅がその男の呪縛から逃れようと、魔道書を開こうとする。するとフッと急にその気が緩み、男がくるりと踵を返した。
「今日は白虎の力を確認しに来ただけだ。いずれまた…。」
そう言うと男の姿が消えた。慌てて、ゼダが後を追う。
「次こそは、殺す!!」
そう言い残して、ゼダもその場から消えた。
男2人が消えたのを確認すると、紗羅はへたりとその場に座り込んだ。ドキドキする動悸を抑え、目を閉じる。
(あれは、あの気は何なのだ?あいつは一体…。)
ジュダスに引っ張られ、紗羅は立ち上がった。そして黒い水晶のようなものの中に閉じ込められたアレクのもとへ向かって歩き出す。
黒い水晶のようなものは固く、試しにジュダスが剣を当ててもびくともしなかった。
「何とかなりそうか?」
ジュダスが紗羅に聞くと、「分からないがやってみる。」と言って、紗羅はその水晶のようなものに手と額を当てて目をつぶった。
(アレク、聞こえるか?アレク返事をしろ。アレク!!!)
紗羅の呼びかけに、アレクの意識がかすかに反応したのに紗羅は気づいた。紗羅は自分の全魔力を集中させて、その黒い水晶のようなものを破壊しようとした。
ピキキキっ
黒い水晶のようなものに亀裂が入る。
「ジュダス、今だ!頼む!!」
紗羅の合図とともに、ジュダスが大きく剣を振りかざし、亀裂の入ったところへ一撃を当てた。
バキッッ!ドガシャーン!!
大きな音を立てて、黒い水晶のようなものが崩れた。中から黒い液体と共に、アレクが流れ出た。
「アレクっっ!!」
「そこを動くな!サラ!!」
紗羅がアレクに駆け寄ろうとすると、ダラスが引き留めた。
「下を見ろ。」
紗羅はジュダスが指し示す、黒い液体が流れ出た地面を見ると、液体が触れた植物がみるみる枯れていった。
「これはっ!?」
「たぶん生命力を吸い取る特殊な液体だろう。触れたところから力が奪われるぞ。さもなけりゃ、あの神獣がそうやすやすと捕まっておとなしくしているものか!神獣は死なない。だが、動けなくすることは出来るってことだな。」
紗羅はジュダスが冷静にその場を分析しているのを見て、呼吸を整えて頭を整理した。
(まずあの液体を何とかしなければ。【浄化】で何とかできるか…。いや、もっと強力な魔法が必要だ。)
紗羅の頭はその時、かつてないほどに冴えた。今まで覚えた魔法、そして魔法陣と詠唱のパターン。すべてを頭の中で組み合わせ、やがて1つの考えが浮かんだ。
紗羅は徐に自分の親指を噛みちぎり、その場に座り込んで魔道書を開いて魔法陣を描き始めた。
「おいおい、一体何してんだ?!」
ジュダスの言葉も耳に入らず、一心不乱に魔法陣を描き続けた。そして、手を止めるとすっくと立ち上がりアレクのほうへ魔道書を持った手を向け、深く息を吸い込む。
「我、唱える者。光の矢よ、穢れた大地に降り注ぎ、すべての魔を取り除け。【聖光祓魔矢】!!」
カッ!!と魔道書から光があふれ、輝く光の矢がアレクと、アレクを包む黒い液体に向かって大量に放たれた。光の矢たちは次々に黒い液体に落ち、落ちたところから、黒い液体が蒸発していき、あっという間に黒い液体は地面からも、アレクからも消え去り、黒い液体のせいで枯れてしまった植物が復活し以前よりもずっと元気に育った。
紗羅の手から魔道書が落ち、紗羅がフラフラとアレクのもとへ歩く。そしてアレクのそばへ座りそっとアレクの髪を撫でる。
「アレク…。」
するとアレクのまつ毛がかすかに揺れ、アレクの目がゆっくり開いた。
「あ…るじ?」
紗羅はうつろな目で紗羅を見るアレクに微笑み、そして意識を失って、そのままアレクに倒れ込んだ。
謎の男のフラグ、めっちゃ立ててみました。このあとどうこのフラグを回収しようかすごく悩んでいます。というのも私がその時その時で話の方向性を変えてしまうから。なかなか安定しない素人丸出しの話ですみません。




