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*第29章~狐の聖獣~


――聖獣たちが人間に使えるときには2つのルールがある。

 1つは契約した主人の命令に背いてはいけない。そしてもう1つが決して主人を殺してはならない。

 前者は破ろうとしても、破ることが出来ない。契約した人間に名前を付けられた時から、その名前が彼らを縛る。だが、後者については決してできないわけではない。それをしようとする聖獣はほとんどいないだけだ。何故なら、主人殺しは聖獣の最大の罪、その代償が自分の命なのだ。大罪を犯した瞬間、聖獣の身体と魂はもろとも、塵となって消える。――



「その大罪を、狐の聖獣が犯したのか?一体なぜだ?!」

 紗羅はリューイの話を信じられないという面持ちで聞いた。

「それはあの聖獣が彼女と契約して、3年ほどたったころ、彼女たちのもとに風の国の軍が押し寄せてきたのです。」

 紗羅がジュダスのほうを見ると、ジュダスは厳しい顔はしていたが、驚いてはいないようだった。

「知っていたのか?」

「そういう事実があったということは知っている。ただ詳細については知らねぇ。」

 ジュダスが表情を固くしたまま、答えた。リューイは一呼吸おいて、再び話し始めた。

「事の始まりは、またしてもこの国の国王なのです。国王は自分のせいで馬の聖獣を失ったのに、その現実を受け入れず、あの馬の聖獣が悪かったのだと、責任転嫁をしました。そして、聖獣がほとんどいなくなったこの国で唯一、聖獣と契約している魔導師がいることを耳に入れたのです。」

「ちょ、ちょっと待て。そもそも風の国に他に聖獣と契約している人間がいないのなら、その女性が国王となるべきだったのではないのか?」

 紗羅は以前、国王となることを決めかねていた紗羅に、最も高位の聖獣もしくは神獣と契約したものが国王として国を治めないと国が崩壊すると言っていたアレクの話を思い出して言った。

「その通りです。本来ならその女性が国王につくべきだったのです。ですがこの国の王族や、国王は決して彼女を受け入れようとはしませんでした。それどころか、彼女と契約している狐の聖獣を奪おうとしたのです。そして、彼女たちは3年間、逃げ続けました。彼女はその聖獣と契約した当時、結婚をしていてお腹に子供もいたようですが、その夫と、生まれてきた子供と一緒に風の国の外れにある小さな村に身を隠しながら、過ごしたそうです。そこへ、国王たちの魔の手が襲い掛かったのです。」

 リューイは怒りのあまり、涙を流しながら、話を続けた。

「契約した人間と聖獣の契約を解除する方法は1つ。契約した人間が死ぬことです。ヤツラはその女性をこの国に災いを運んだ権限として、処刑台へ連れて行こうとしました。そして、止めようとした彼女の夫が切り殺され、彼女まで兵隊が斬りつけた光景を目の当たりにした、狐の聖獣は、我を忘れ、暴走してしまいました。自分が何を壊しているかも分からないまま、ありとあらゆるもの、人間を破壊しつくし、そして気づいたのです。自分が踏みつけている彼女の姿に。」

 紗羅は言葉が出なかった。衝撃の内容に目を見開いたまま、リューイの話を聞き続けた。

「自分が何をしてしまったか、気づいた時にはもう遅く、彼女は絶命しかけていました。かすれゆく意識の中で彼女は、狐の聖獣に一言、『ごめんね』と言って息を引き取りました。そして、その瞬間、狐の聖獣は塵となって消えた…はずなのです。」

「本当は、どうなったか分からないのか?」

 紗羅がやっとの思いで振り絞った言葉でリューイに聞く。

「はい、以前にも話しましたが、私も魔物に憑りつかれて、事が起きた時にはすでに意識がなかったのです。この話も、あなた方と別れて、風の情報を集めてやっと知ることが出来たものなのです。風たちはただ、聖獣の気が消えたとだけ、言っていました。あのお方はその話を聞くと、彼女たちが過ごした村に心当たりがあるとだけ言って、ここを去りました。私は聖域を守る役目があるので、この場を離れることが出来ず、ただ見送ることしかできませんでした。」

「風の王国の外れの村…あっ!!」

 リューイの言葉に紗羅がはっと気づいた。

「まさかシーラ…うん、そう考えるといろいろ辻褄が合う。ジュダス、アレクの行き先が分かったぞ!」

 ジュダスも分かったような顔をしていた。

「シーラの村、僕がこの世界で最初にいた森のそばだ。」

「あぁ、そうとわかれば、すぐ行こう!」

 リューイが分からないといった顔をしていたが、紗羅達は説明をせずに、ただ「行ってくる。」とだけ言って、【移動テレポート】を使い、聖域から姿を消した。


 紗羅たちは、シーラの村ではなく、紗羅が最初に現れた森の中についた。

「悪いが、僕はあまりあの村人たちに会いたくない。ジュダス村に行って情報を…いや、その必要はなさそうだな。」

 紗羅が何かに気づくと、ジュダスも頷いた。

「あぁ。ここでビンゴだ。」

 紗羅が浄化したはずの森が、かつての、いやそれ以上に禍々しい空気を漂わせていた。その気は森の中央、紗羅がシーラと出会った井戸のほうから漂っているようだった。

 チャキっと、ジュダスが大剣を構え、紗羅は魔道書を握り締めた。

 そのままゆっくりと2人はその井戸のほうへ向かう。そして、見つけた。

「アレクっっ!!!」

 大きな黒い水晶のようなものの中で眠っているアレク。そしてその前に立つ2つの人影。

「お前ら、アレクに何をしたっ!?」

 紗羅たちのほうをそのフードをかぶった2つの影が振り向く。そしてそのうち1人がそのフードを外す。黒い髪に少しつり上がった赤い目。禍々しい気を放っている紗羅と変わらないくらいの年齢の男が紗羅たちを見た。

「何者だ?!」

 ジュダスが叫ぶ。

 すると、紗羅達を見てた男がニヤリと笑って、言った。

「俺の名はゼダ。この神獣に裏切られて消滅しかけた、元聖獣だ。」

風の国の現国王…最低ですね。フォローができません。そして、前回の宣言通り、シリアスするよう頑張りました。もともと、この話シリアスにする気でいたので、これが正しい姿なのですが。つい、強烈キャラを出したくなりまして…。

次回も引き続き、シリアス内容でお送りします。

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