*第27章~影の王国~
紗羅とジュダスはシーラを私塾まで送ると、城へ向かって歩き出した。
「お前は城に何しに行くんだ?」
歩きながら紗羅が聞く。
「今日は城兵の武術訓練の日なんだ。俺は武官でもなんでもないんだが、訓練のためにって、兵隊長が頭を下げに来たからな。しかたなく付き合ってやることにしたんだ。」
(やはり、こっちの男姿だと、面倒見の良さがにじみ出てる。)
紗羅はクスッと笑った。
城へ着いたところで、紗羅はジュダスと別れる。紗羅は城の女官に連れられて、城の1階の左のほうへ進み、右に曲がったところにある部屋へ入った。
そこは本という本が並べられている、書庫のようだった。
「来ましたか。」
山積みの本が乗せてある机の向こうで声がする。
「カイルか?」
積まれた本のせいで姿が確認できず、紗羅が聞いた。
「そうです。少し待っててください。」
しばらくすると、本の山からカイルが姿を現した。
「すみません。あちらでよろしいですか?」
カイルは書庫の奥の小部屋を指した。紗羅は指示された部屋へ入る。部屋の中央に机があり、紗羅は窓側の椅子に座る。座った紗羅の前に、カイルが本を数冊置いた。
「さて、本日はまず準試の試験内容から勉強しましょう。最初は影の王国の歴史についてです。」
「影の王国って、暴走した神が棲んでいたところか?」
「そうです。」
カイルは紗羅の前に置いた本のページを捲り、1枚の絵が描かれたところを紗羅に見せた。そして語り始める。
「影の王国は数千年前、人間たちの所業を嘆き苦しんだ神が自分に残った闇の力を暴走させて創った、天空の国です。初代の5つの国の王たちが力を合わせて、神を沈め、我が国の王の子供を器として、神を封印しました。ですが、神の力は巨大すぎて、赤子だった子供が成長するにつれ、その体を蝕み、再び暴走しようとしたのです。」
シーラの語った伝承ではなかった話がカイルの口から語られた。
「当時、神の力を治めた赤子の魔力はこの世界で1番の大きさでした。だが、その赤子の力をもってしても、神の力を封印し続けることは出来なかったのです。ちょうど神を封印してから200年ほどたったころ、ほころび始めた封印を戻すため、当時の王たちは会議をしました。そして導き出された答えが、神の封印がほころぶ頃、その時この世界で1番大きな魔力を持つ赤子を器として、神の力を封印し続けること。これがこの世界の決まりとなったのです。」
「それは、毎回赤子を生贄にしていったということか?何故赤子でなければいけないのだ?!」
紗羅が憤る。
「ジュリアに聞いていると思いますが、魔力の絶対数は赤子の時でも、大人になっても変化しないのです。ならば、赤子のほうが今後長い間、器として神を封印できる時間が長いのです。」
カイルの言葉に紗羅が鼻で笑う。
「違うだろう?魔力が強い奴ならそれだけ長生きする。ならば、ある程度成長していても、変わらないはず。何か、他に理由があるだろう?」
「っっ…。」
紗羅の質問にカイルは言葉を詰まらせる。
「答えられない理由が、あるんだな。」
「申し訳ございません。これ以上は試験にも出ない上、各国の国王と、神獣、聖獣、その他一部の人間にしか知らされていない事です。いずれ王になるとはいえ、今は試験に関係のないことに目を向けるべきではないのです。晴れて、試験に受かれば、お教えしましょう。」
「アレクに聞けば、分かることではないのか?今、お前の口から聞いても聞かなくても、同じことだと思うが。」
紗羅がカイルの顔を覗き込む。
「できれば、あのお方にもまだ聞かないでいてほしいのです。今は当面の目標にだけ、目を向けてください。それだけ、このことは難しい話なのです。」
カイルが目を伏せたため、これ以上聞き出すことは出来ないと悟った紗羅はあきらめた。
「分かった。試験に受かるまではお前の言うとおりにするよ。」
「ありがとうございます。」
カイルは影の国の話のあと、紗羅に各国の歴代王達、聖獣、国々の特徴をすべて覚えるように言った。
「これが準試に出る“歴史”の問題の内容です。」
紗羅はカイルに渡された分厚い5冊の本をものすごい速さで捲り、ぱたりと閉じた。かかった時間は1時間程度。
「もう覚えた。」
「…はい?」
紗羅の言葉にカイルが目を丸くした。
「全部覚えたと言ったんだ。なんだったらページ数も分かるぞ。」
紗羅がニヤリと笑ったため、カイルが慌てて紗羅に渡した本の中から、花の国の本をとり、捲った。
「そ、それではこの花の国の本の349ページ、花の国の第18代国王――」
「第18代国王の正妃、アンリ妃は、花の国の戸部尚書バシュート・イェシンの第2子で、父親譲りの才覚を持ち、花の国の発展へと尽力を注いだ。この時代にクーデターが一切起こらなかったのは、彼女が力なき民へも慈しみの心をもって接したからと言われている。彼女は川の氾濫を防ぐための堤防の建設に携わり、花の国の都ローゼンの治安維持のため、あらゆる法律を作った。王でもない彼女がこれほどまでに力を持っていたのは、彼女が花の国の聖獣である狒狒の聖獣と契約を交わしていたからと言われている。」
「……………………。」
カイルの言葉にかぶせて、紗羅がすらすらとそのページに書かれていることを喋り始めたので、カイルはしばらく言葉が出なかった。それを見た紗羅は照れたように笑う。
「速読と暗記は得意なほうなんだ。さあ、次に進めてくれるか?」
「わ、分かりました。」
カイルがふらーっと書庫へ別の本をとりに行った。
紗羅がカイルから学んだ…というより、本の内容をすべて覚えて分からないところだけ聞くという勉強方法になったが、その内容は準試に出る歴史、官吏・役所の名称、各国の地名。その他、計算問題も出ると言われたので、本の内容をすべて覚えてしまった紗羅は講義の後半はすべて、カイルが用意した計算問題に時間を費やした。もっとも、もともと用意してあった問題をあっという間に解いてしまった紗羅のために、新しい問題を作っていったカイルの方が大変な思いをしていた。
カイルはこの1日で、紗羅の能力を知り、あらためて紗羅を王にふさわしいと感じた。
カイルの講義を終え、紗羅はジュダスの屋敷に戻った。部屋にはすでに私塾の授業を終えたシーラが待っていた。だが、アレクの姿はまだなかった。
(こんなに時間がかかるなら、連絡をよこしそうだが…。)
紗羅はシーラに部屋で待つように言い、【移動】を使って、再び光の国の城に行った。
城兵の1人にジュダスの居場所を聞き、案内された場所へ向かう。そこへ向かう途中に、おそらくジュダスにしごかれた後であろう、城兵たちが屍のように倒れているそばを通り、小さな小屋へ入った。
「ジュダス。」
紗羅が小屋の椅子の上で寝ている男に声をかける。
「ん…ぁあ?サラか?」
ジュダスが目をこすりながら紗羅を見た。
「すまないが僕はこれからアレクを探しに風の国へ戻る。シーラのことを頼まれてくれないか?」
「1人でか?」
ジュダスが聞く。
「あぁ。これは僕の問題だからな。」
紗羅がそういうのを聞くと、ジュダスが黙り込む。そして、口を開いた。
「いいや、俺もついていく。屋敷には今晩、警備兵をやるから、シーラのことは安心していていい。俺たちは今、お前を失う訳にはいかんからな。」
「だが、危険かもしれない場所に他国の王族たるお前を連れて行くわけには…。」
紗羅がバンッと机を叩く。そんな紗羅にジュダスは笑顔を向ける。
「俺は大丈夫だ。王族と言っても、魔力があるわけではないからそんなに重要視されているわけではないし、それに全体に死なない自信がある。」
威張って言うジュダスに紗羅が怒った。
「そんなないのと同じ自信なんてあてにするな!魔力がないからこそ、いざというとき困るんだろう?!それに重要視されていないなんて嘘だな。お前はおそらくこの国の宰相のような地位についているはずだ。」
「どうしてそう思う?」
真顔になったジュダスが聞く。
「お前ほどの腕なら、武官になっているはずなのに、お前は違うと言っていた。武官でないなら違う地位についているはず、それも武官でもかなり高い地位につけるはずなのにそれをけるほどの地位。あとはお前のその頭の回転の速さだ。先ほどのカイルの講義で今のこの国には表の宰相と裏の宰相がいると聞いた。裏の宰相がその特徴から、どういった人物なのか知られていない事と、お前は自分の足で調査して回っている身軽さから、裏の宰相と呼ばれる存在ではないのか?」
紗羅の答えにあきらめたようにジュダスが息を吐く。
「頭の回転の速さではお前に負ける気がするよ。確かに俺は裏の宰相と呼ばれている。表の宰相が表立って、王の政をサポートするのと反対に、俺は自分の足で調べ上げ、国が今どういう状況か、どういう風にするべきか王に知恵を与える立場にいる。だが、これは俺の裏の宰相としての仕事の1部でもある。お前たちのことは俺たちの国やそのほかの国々にもかかわる問題だ。俺にはそれを調べる義務がある。」
ジュダスの顔からジュダスの本気が感じ取れた紗羅はまだ何か言いたそうに口を開いたが、その口出たのは了承の返事だった。
「分かった。一緒に来てくれ。」
紗羅の返事を聞き、ジュダスがニカっと歯を見せて笑った。
最近ダラスさんの出番が少ないせいか、それとも世話好きのいい兄貴分である男Ver.のジュダスさんのせいかわかりませんが、かなりジュダスさんが好きになってしまいました。ダラスさんも出したいんですけどねー。王様だからなかなか忙しくてつい、放置気味です。




