*第26章~風の国の動き~
ジュリアの講義が終わるころ、辺りはすっかり暗くなっていた。紗羅は20個、シーラは35個もの魔法陣を描き続け、シーラはすっかり疲れ果てたようで、書き終え、詠唱の言葉を覚え終わると同時にペンを落とし眠ってしまった。
「今日はこの辺にしましょう。次はもう1人講師を呼ぶから、紗羅ちゃんとシーラちゃんは分かれて講義を受けてね。」
ジュリアはそう言うと、帰る準備をするように紗羅に言った。紗羅は魔道書を【収納】でなおし、シーラを抱きかかえて、シーラの魔道書を持った。
紗羅達が家を出て、屋敷の門から帰ろうとするとジュリアが「この屋敷は秘密の場所だから。」と言って、紗羅達に来た時と同じ馬車に乗るように指示した。紗羅達が馬車の中に入ったのを確認すると、ジュリアは扉をしめて、馬車の外で【空間歪曲】を詠唱した。
紗羅はジュダスの屋敷に戻り、自分たちの部屋に戻ると、シーラをベッドに寝かして、アレクと一緒に風呂へ入りに行った。
お湯につかり、息を吐く。
「アレク、その後の風の国の様子はどうだ?」
紗羅が風呂で泳いでるアレクに聞く。
「風の国を包む風からは、相変わらず魔物が出没していると聞きました。ですが、我々が戻ったことで徐々に、侵攻してくる魔物が減ってきてはいるようです。」
「そうか。」
紗羅はお湯で顔を洗うと、風呂から上がり、脱衣所へ入ろうとする。そこへアレクが呼び止める。
「主、御耳にはさんで頂きたいことがあります。」
脱衣所への扉にかけた手を止め、紗羅がアレクのほうを振り向く。
「ここ最近、風の国の王都ウエンディで我々の噂が流れているようです。」
「噂?」
紗羅が訝しげな顔をする。
「はい。魔物が減ったことと、我々が現れたあの森から魔物が消え、代わりに動物たちが棲み始めたことで、神獣が戻ったとの噂が流れているのです。」
「何か問題でもあるのか?」
神獣が戻ったということで国の民に希望が芽生えることはいいことではと、紗羅が考えていると、アレクが紗羅に近づき、言った。
「問題なのは、私が1匹で戻ってきたのではないということです。民の中には私と一緒に、魔導師が行動していると話す者がいるようです。その噂は王都中に広まり、とうとう今の王の耳にも入ってしまったようです。」
「…王の反応は?」
アレクの言わんとしていることがだんだんわかり、紗羅が真剣な顔をする。
「私と共に行動している魔導師、つまり主のことを、神獣を連れ去った大罪人として、兵を動員させ、指名手配しようとしているとのことです。」
「なるほどな。まぁ、顔は割れていないだろうから、捕まることはないと思うが…。私が今王として名乗りを上げても、そのまま死刑台へ直行という訳か。」
「おそらく、罪をでっち上げ、何としてでも玉座に据えようとはしないでしょう。」
紗羅は少しだけ考え込み、そして再び脱衣所の扉に手をかけた。
「アレク、とりあえず今はそのままでよい。引き続き動向を探ってくれ。」
「御意。」
アレクの返事を聞くと、紗羅は風呂を後にした。
紗羅が風呂から上がり、アレクと共に部屋へ戻るとアレクが「今から聖域に行ってきます。」と紗羅に告げた。
「リューイに会いに行って、聖獣たちについてなにか聞いてくるのか?」
アレクは紗羅がそう聞くと驚いて紗羅を見た。
「何故、お分かりになったのですか?」
「シーラの気の正体を知りたいのかと思って。後、先ほどの風が運んでくれた情報にはおそらく聖獣のことは含まれていなかったんじゃあないのか?風の国を安定させるには聖獣たちの力も必要なんだろう?そして、一刻でも早く、聖獣たちを見つけ出さなければいけないはずだ。本来ならば、私もすべきことだとは思うが、生憎今はそれどころじゃないからな。」
紗羅が「すまない。」というと、アレクが慌てた。
「お止め下さい!本当なら、私がちゃんと管理しなければいけないことなのです。主の御手を煩わせるわけにはいきません。どうぞ、このことは私に任せて、勉学にいそしんでください。では、行ってまいります。」
アレクはそういうと、紗羅の前から姿を消した。
アレクのいなくなった部屋で、紗羅は剣の手入れをした後、シーラの眠るベッドの横のベッドで眠りについた。
紗羅が朝目覚めると、アレクの姿がなかった。
(まだ戻ってないのか。とすると、聖域に行った後、また別の場所にいったのだな。)
何故なら、聖域に時間という概念はなく、あそこで何日もの時間を過ごしたとしても、外の世界にでれば、たったの1秒しか経っていないことになる。
(何か情報を掴んだのか…。)
考えていても仕方がないと、紗羅はシーラを起こした。
「シーラ、僕は今日はカイルから勉強を教わることになっている。シーラはこの近くにシーラくらいの年齢の子供が通う私塾があるから、そこで勉強してきてくれるか?」
シーラがこくりと頷くと、紗羅はシーラに魔法陣が描かれた珠の首飾りを渡した。
「これなあに?」
「これはお守りだよ。何かあったときはこれを握って、僕を呼んでね。そしたらすぐに駆けつけるから。」
紗羅は昨晩、アレクがいなくなった後、部屋にあった碧色の珠の首飾りに【呼応】の魔法をかけた。これは魔法をかけた者へ魔法をかけられた物を通して、通信ができる第1魔法だ。
「わかった。そうする。」
昨日、紗羅と一緒にこの魔法を学んだシーラはそのままその首飾りを首にかけ、衣服の中に隠した。
2人が部屋を出て、食堂へ向かった。今までは食事を部屋に運んで来てくれてたため、食堂を使うことはなかったが、今朝は使用人からジュダスが食堂で待っているといわれて、食堂で朝食をとることになったのだ。
食堂へ入ると、ジュダスがテーブルの奥の椅子に座って待っていた。
「よく眠れたか?」
ジュダスがシーラに聞くと「うん!」と元気よく返事をした。
テーブルの上には既に朝食が並んでいて、メニューはお粥にスープ、たくさんの種類の点心と果物だった。
(前から思っていたが、こちらの世界の食べ物や、生き物はほとんど前の世界のモノと変わらないんだな。)
紗羅が1人、考えていると、ジュダスが話し始めた。
「サラとシーラ。お前たちは今日から俺の使用人の子供として、過ごすんだ。これを受け取れ。」
そう言って、ジュダスが紗羅とシーラに木の札を投げる。それには赤色でユニコーンが描かれていた。
「それがお前らの通行証兼身分証だ。それがないといろいろと不便だからな。」
ジュダスはそう話すと、紗羅達に朝食を食べるように言った。
「さて、俺はこれから城へ向かう。サラも今日はカイルの講義だから城へ行くだろう?」
ジュダスが満腹になった腹を叩きながら紗羅に聞く。
「そうだが、シーラを私塾に送ってから行くよ。」
「俺もついていく。」
ジュダスがすかさず言う。
「…お前も風の国の動きを知っているのか?」
やけに親切なジュダスに紗羅が言った。
「それもあるが、サラ。あの神獣はどうした?お前の中にもいないだろう?」
紗羅が驚いた顔をした。
「何故わかった?」
「そりゃぁ、お前、俺様の勘に決まっているだろう?」
あっけらかんと言うジュダスに紗羅は信じられないモノを見る目で見た。
「魔力を持ってたダラスや、聖獣のカイルでさえ、力を出すまでは気づかなかったのに。」
「いやー、1度あの神獣はお前の中にいる時を見ているからな。纏っている空気がなんか違う気がするんだ。それはそうと、サラ。お前城に行ったら、俺やあいつらのことちゃんと様付で呼べよ?使用人の子供で通しているのに、呼び捨てにしたら不敬罪だからな。」
ジュダスが偉そうに言うので、紗羅は嫌そうな顔をした。
ジュダスさんはジュリィ姐さんと時は天上天下唯我独尊な性格だけど、ジュダスさんに戻ると、世話焼きのちょっとぶっきらぼうなお兄さんになるようですね。さて、次回はカイル先生のスパルタ授業です!




