*第22章~ジュダスの別邸~
ジュリアが戻ってくると、ダラスは皆に席に着くように言って、さっそくこれからのことを話し始めた。
「当面の問題はまず、サラ達の住む場所だな。さすがに城に住まわせるわけにはいかんしなー、目立つから。残るはジュリアの家か…。」
紗羅とシーラが勢いよく横に首を振る。
「…それじゃあ、ジュリィの別邸でいいか?」
「なっ、勝手に提案するな!」
ジュダスが立ち上がった拍子で椅子を倒した。
「僕は別にかまわんが。」
「それじゃあ、決まりだな。」
「無視して話すすめんじゃねぇ!!家主の意見をきけよ!」
紗羅とダラスがさくさく話を進めていると、ジュダスが二人の間に割って入った。
「何か問題でもあるのか?別邸というくらいだからお前自身は別のところに住んでいるんだろう?」
紗羅が首を傾げる。その質問にジュダスが応えようと声を発する前に、ダラスが答えた。
「それがなー、こいつ本邸や城は自分には合わないからと言って、ほとんど別邸で暮らしているんだ。知っている奴がいたほうが、何かと楽だろう?まぁ、ジュリィの性格上何かと迷惑をかけるかもしれんが、ジュリアの家が駄目ならもうあそこしか選択肢がないんだよ。」
「………そうだな。こいつと一緒に住むってのは気が進まないが、仕方ない。ジュリィの家で構わない。」
ダラスの言葉に紗羅は少し考えるぞぶりを見せた後、真顔で言った。
「お前ら…人を馬鹿にしているのか?」
ジュダスの顔の欠陥がピクピクいっている。
「「馬鹿にはしていないけど、迷惑な性格だとは思っている。」」
紗羅とダラスが声を揃えて言うと、ジュダスが目の前にある大きなテーブルをひっくり返した。
「上等だ!てめぇら、表へ出ろ!!ぶちのめしてやる!!!」
ジュダスが荒い息をしている横で、ジュリアが魔道書を広げている。
「我、唱える者。かの者を捕えよ。【捕縛】。」
ジュリアが詠唱を終えると、突然床から太い鎖が生え、ジュダスの身体に巻き付いていく。
「何するんだっ!?ジュリア先生っ!これ、はずモガモガ…。」
ジュダスが巻き付いた鎖を外そうともがいているが、それもむなしく、鎖はとうとうジュダスの口まで巻き付いてしまった。
「ごめんねぇ、ジュリィちゃん。あたくし早くお家に帰ってお風呂に入りたいから、ちょーと黙っててくれるかしら?あ、因みにその鎖、ジュリィちゃんの馬鹿力でも絶対に外れませんのよ。」
ジュリアがにっこり笑い、魔道書のページをめくる。
「我、唱える者。移動せよ。【操作】。」
ジュダスが放り投げた大きなテーブルが巻き戻しをしたかのように、元の位置に戻る。
ダラスはそれを見て苦笑いをした後、何事もなかったかのように話を続けた。
「さて、住む家はジュリィの別邸で決まりとして、とりあえずサラ。明日から交互にこいつらをよこすから、これからは毎日、試験に向けての準備をしろ。入試はちょうど1ヶ月後だからな。今日帰ってからも、ジュリィに武術の実技について、学んどけよ。」
「分かった。そうする。」
「シーラはジュリィの別邸にいる使用人たちに面倒を見てもらうようにするからな。シーラ、いいか?ちゃんとみんなの言うことを聞くんだぞ?」
ジュダスはシーラの頭を優しく叩きながら言った。
「うん!シーラお利口さんにする!」
シーラが元気よく答えると、紗羅はアレクに心の中で命令した。
(アレク、できるだけあの子のそばにいてくれ。ダラスのことはある程度信用しているが、ジュダスの家のものまでは信用できない。私は大丈夫だから、あの子に危害が加えられることのないように頼むぞ。)
『御意。』
話し合いが終わった後、まだ文句を言い続けているジュダスと共に、サラとアレク、シーラはジュダスの別邸へ向かった。ジュダスが魔法を使えないことと、紗羅が別邸の場所を知らなかったため、行くときは馬車を使った。
馬車が止まり、紗羅たちが降りるとそこには紗羅の住んでいた前の世界の家と同じくらいの広さの豪邸があった。白い塀に囲まれて、中に入ると日本庭園のような庭造りで、赤い壁、黒い瓦の大きな平屋が建っていた。
「僕の家と同じくらいの広さなんだな。さすがは王族と言ったところか。」
「何っ?!お前の家、豪族かなんかか?うちはこの国でも城を除けば1、2を争うくらいの建物だぞ?!」
「まぁ、そんなところだ。割と金持ちのほうだったな。」
紗羅があまり思い出したくないような返事をすると、ジュダスがいぶかしげな顔をした。
「サラ、お前元いた世界に帰りたいとは思わんのか?どうもお前は元の世界に戻ろうとするより、この世界に順応しようとしているようだが。」
ジュダスの問いに、紗羅は顔を伏せた。
「…戻れないんだ。あの世界に僕の居場所はない。それにアレクの話だとどうやら僕はこの世界の人間のようだからな。」
「どういうことだ?」
初めて聞く話にジュダスが興味を示す。
「僕は赤子のころに殺されそうになっていたそうだが、その時アレクと共にあちらの世界に行ったようだ。」
「それは神獣が消えたときの話か?」
「あぁ、そうだが。」
ジュダスは考え込むように俯く。
「16年前…これは偶然か、それとも…。」
「何のことだ?何か問題でもあるのか?」
「…。いや、なんでもない。」
紗羅がジュダスの顔を覗き込むとジュダスが顔を上げてジッと紗羅の顔を見た後言った。
紗羅とアレクとシーラは別邸の中の一番奥の部屋に案内された。およそ30畳程の部屋にベッドが3つ。ドアのそばの大きな箪笥には男用、女用、子供用の服がたくさん並んでいた。
「ここにあるのは何でも使っていい。風呂はここを出て右に行って突き当りにあるから、そこを使え。それと、ここにあるベルをならせば使用人が来るから用があるときは鳴らせ。」
ジュダスがベッドの横の机の上にあるベルを指し、紗羅達はうなずく。
「それじゃあ、サラ。1時間後に中庭へ来い。武術の訓練をする。」
バタンと部屋の扉が閉まり、ジュダスが部屋を出た。
紗羅はジュリアに着せられたシーラの服を着替えさせようと、箪笥の中から子供服をいくつか取り出した。
「シーラ、どれか好きなのを選んだら、一緒にお風呂に入りに行こうか。」
「ホント?!えぇっと、どれにしようかなぁ。」
シーラは少しだけ迷った後、薄い黄色の服を選んで他の服は箪笥に戻した。
「アレクも入るか?」
紗羅が聞くとアレクは喜んで頷いた。アレクといい、カイルといい、この世界の動物は割と綺麗好きのようだ。
紗羅は箪笥の中から適当に男物の服を選び、アレクとシーラと一緒に風呂へ向かった。
ガラリと浴場へ入ると、石造りの大きな風呂があった。
「この匂いは、温泉か?」
「さようです。この世界もあの世界と同様温泉がでます。」
紗羅たちはさっと体を洗い、湯船につかった。じんわりと身体が暖まり、紗羅の疲れを溶かしていった。
紗羅は湯船の中でアレクとシーラが遊んでいるのを眺めて笑った。
風呂から上がり、服を着替えた紗羅はドライヤーなどないこの世界でどうやって髪を乾かそうか考えていると、アレクが熱風をおこし、紗羅の髪を乾かしてくれた。乾いた髪をひもで結び、紗羅は1人、ジュダスに指示された中庭へと向かった。
中庭は広く、奥に弓道の的のようなものがあり、中央には大きな樹が立っていた。その下で、1人の男がその樹に寄りかかっていた。
紗羅がその男に近づくと、男が振り向く。
「よお、時間ぴったりだな。」
男の顔を間近でみて、紗羅はその男が何者なのか気づいた。
「ジュリィか?!」
男はニッと口の端を上げて「そうだ。」と言った。
(すごいな。ここまで変わるものなのか。)
紗羅がそんなことを考えると、ジュダスが歩き出し、紗羅のほうを見て、言った。
「この姿の時はジュダスでいい。さぁ、サラ。これから訓練を始めるぞ。」
紗羅は笑って頷いた。
紗羅さんの忘れがちな設定その3。もとは大金持ち!な発言が出た今回の話。修業の話をかこうと思ったら入りませんでした。
次回に回します!




