*第20章~これからのこと~
そこは薄暗い部屋には似つかわしくないくらい、たくさんのドレスと、宝石、化粧品と思われるものが並んでいた。ダラスは辺りをキョロキョロ伺い、部屋の主を探した。
「おーい、ジュリア!どこにいるんだ、出てこい!」
ダラスの呼びかけに「なーに?」と返事が聞こえて、部屋の奥の扉が開いた。
現れたのは女装したジュダスとは全く別の種類の、だがこちらも相当な美女だった。若草色のふわっとやわらかい髪、透き通るような白い肌にピンクの頬。パッチリ開いた瞳の色は綺麗な浅葱色。女装をしたジュダスのイメージが炎なら、こちらは静かな水のようだった。――口を開くまでは。
「あらぁ、ダラスちゃん!やっとあの醜いおひげを剃ってくれたのね。ジュリアうれしい!」
美女がダラスの顎を撫でまわす。そして紗羅の胸で泣いているシーラに気づき、顔面が蒼白になった。
「な、なんてこと…。シーラちゃん、あれほどお化粧をしている時は泣いてはだめと言ったでしょう!ああん、もうこんなに汚してっ!せっかく可愛いお人形さんだったのに。」
ぷりぷり起こる美女に、泣き止めかけていたシーラが再びべそをかきだした。
「だ、だって、シーラこんな恰好すきじゃないもの!お兄ちゃんが来てくれたから、シーラもうこんな恰好しない!」
「なんてことを言うの、シーラちゃん。女の子はいつでも、どこでも可愛くなくっちゃ、いけないのよ!」
カツラを外そうとするシーラの手を美女が止めようとするのを見ていた紗羅は、やんわりとその美女の手をどけた。
「その辺にしてもらえないだろうか。シーラが嫌がっている。本人が望んでいないのに無理強いするのはよくないよ。」
紗羅の声に反応し、美女が紗羅の方を振り向く。すると、怒っていた美女の表情がみるみる晴れやかになり、紗羅の顔に飛びついた。
「まあっ、なんて綺麗なお顔!お化粧なんていらないじゃない。ずるいわ、ダラスちゃんたち。こーんな可愛い女の子あたくしに紹介しないなんて!」
美女のセリフに皆目を丸くした。
「ちょ、ジュリア。お前なんでこいつが女だって…。」
ダラスが美女に聞いた。
「そんな質問、美の魔道師たるあたくしにとっては愚問じゃない!あたくしの性別判断は100発100中ですのよ。」
美女は高笑いしながら言った。
泣いて汚れたシーラの顔を紗羅がきれいにすると、すかさず美女がシーラを取り上げようとしたので、紗羅はシーラを自分の後ろへやった。
「ジュリア、いい加減にしておけ。客人に対して失礼じゃないか。」
ダラスが美女を叱りつけると、美女はしぶしぶ紗羅たちから離れた。
「サラ、紹介が遅れてしまったが、こいつはジュリア。ジュリィと違って正真正銘の女だ。そして、ジュリィに女装を教えた女だ。ジュリアは光の国で俺に仕える魔導師の1人で、かなり優秀だ。…性格を除けばだがな。」
ダラスの最後の一言にジュリアが「ダラスちゃん、ひどい!」と言ったところに、遅れてアレク達が入ってきた。どうやらまたアレクとジュダスが喧嘩をしていたらしい。
「あらぁ、ジュリィちゃん、どおしたの?その恰好。ボロボロじゃなあい!駄目でしょ、女の子でいるときはもっときれいにしていなきゃ!」
ジュリアはジュダスのほうへ駆けつけ、いたずらっ子を叱る母親のように、「めっ!」と言って、ジュダスの頭をこつんと叩いた。
「ジュリア先生。相変わらずですね。いつみても、お美しい!とても御歳148歳とは思えませんよ。」
ジュダスが笑いながら言うと、ジュリアの後ろ姿が怒っているように感じた。
「ジュリィちゃん、何を言っているの?あたくしはまだピチピチの18歳よ。そんな悪いことを言うお口はどこかしら?」
「いてててててっ!!」
ジュリアがジュダスの頬をつねた。
(148歳って…あの女、化け物か?)
『主、この国の者は魔力が強いものほど、長寿なのです。あの女子はかなりの魔力の持ち主のようです。』
(へぇー、にしても18歳はサバをよみすぎだろ。)
紗羅とアレクが心の中で会話をしていると、その声が聞こえていないはずなのに、ジュリアが紗羅たちに向かって、にっこり笑いながら振り向いた。
「こんにちは、綺麗な御嬢さんと、かわいい坊や?あたくし、ジュリアと言いますの。あなたたちも、可愛くして差し上げましょうか。」
「遠慮します!」
ゆっくり近づいてくるジュリアに紗羅は即座に返答し、アレクも紗羅に合わせてぶんぶんと首を横に振った。
「あら、残念ですわ。せっかく2人とも素敵なお顔をしてますのに。ねぇ、少しだけでも――」
「いい加減にしろと言っただろう、ジュリア。話が進まない。」
なかなか引きそうにないジュリアにダラスが釘を刺した。そしてコホンと咳払いをし、ジュリアにサラとアレクの紹介と、事情を説明した。
あらかた話し終えると、紗羅の後ろでダラスの話を聞いていたシーラが紗羅の服の裾を引っ張った。
「おにいちゃ…お姉ちゃん。」
話を聞いてて、どうやら勘違いに気づいたシーラが、呼び方を変える。
「お兄ちゃんでいいよ、シーラ。ぼくは今後もずっと男の子のふりをするからね。できればこれからもお兄ちゃんといってくれないか?」
紗羅が「お願いっ。」とシーラに頼むと、シーラは笑顔で「わかったぁ。」と言った。
「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはシーラ達の王様になるの?」
「もうしばらくしたらね。でも王様になるにはいっぱい準備が必要だから、まだしばらくは王様にはならないよ。」
シーラの質問に笑顔で答える紗羅。
「そのじゅんびが終わったら、絶対王様になってくれる?」
シーラが不安げな顔で紗羅を見るので、紗羅はシーラの頭を撫でた。
「あぁ、約束するよ。シーラのためにも、僕はこの風の国の王になる。」
紗羅の返事を聞くと、緊張の糸がほどけたのか、安心した顔でシーラは眠った。
シーラをベッドに寝かせ、紗羅たちは話し合いを始めた。
「とりあえず、魔法についてはこのジュリアから学べ。そんで、この世界のことについてと、学院への入試対策はカイルに。で、武術はジュリィに習うように。」
そうダラスに言われて、紗羅とアレクはいぶかしげな目で3人を見た。
「そんな目をするなって。こいつらはその道に関しちゃあ、超一流なんだ。保障する。で、早速光の国へ行き、入試の準備をしよう。」
紗羅はちらりと、ベッドで寝ているシーラを見た。
「この子も、連れて行って構わないか?」
「そりゃ構わんが、連れて行ってどうするんだ?」
紗羅は、愛おしそうにシーラの頭を撫でる。
「この子は、この世界で唯一、僕に出会った時から心を開いてくれた子だ。この子が住んでいた村に帰しても、きっとこの子は幸せにならないだろう。僕が必ず幸せにするとは言わないが、せめてこの子が立派に独り立ちするまで見守りたいんだ。それにこの子もきっとかなりの魔力を持っている。無意識に魔物に汚された水を浄化できるほど。だから、僕と一緒にこの子にも魔法を教えてほしい。」
紗羅がダラスに頭を下げた。ダラスはしばらく沈黙した後、紗羅の肩を叩いた。
「分かった。それがお前の望みなら、叶えよう。」
紗羅は顔を上げ、うれしそうに「ありがとう。」と微笑んだ。
「だが、こいつらはかなりスパルタだぞ?この嬢ちゃんにはゆっくり勉強してもらっても構わんが、お前は1か月で入試に合格できるまで仕上げてもらう必要がある。ついてこれるか?」
ダラスがそういうと、紗羅は不敵の笑みを浮かべた。
「誰に言っている。必ず、合格してみせるよ。」
ダラスは紗羅の返事に満足そうに頷いた。
またしても、強烈キャラの登場!ジュリア姐さん美しい上に最強です。なんせ、ジュリィさんのお師匠です。物語がますます暴走しそうです。さて、次話は、光の国へレッツゴーです。お楽しみに!




