*第19章~馬車の中で~
日がすっかり天に上り、宿屋の外に活気が戻った。「時間がない。」と言って、ダラスは紗羅たちにすぐ部屋を出るように言った。
紗羅はアレクに自分の中に戻るように言ったが、アレクはジュダスを警戒し、紗羅の命令を聞かなかった。
「このようなむさくるしい男どもの中に主1人を置いておく訳にはいきません。その無礼な女男が主に近づかぬよう、私は主の中ではなく、外で見張る必要があるのです。」
歩きながら、アレクは紗羅に言い、ジュダスを睨みつけた。
「はんっ。そんな男女、こっちから願い下げだよ!」
ジュダスが紗羅たちの後ろでそう言い換えすと、アレクがまた怒りだそうとしたので、紗羅は二人を無視した。
「これからどこに向かうんだ?ダラス。」
紗羅の隣を歩いてたダラスは宿を出てから用意していた2台の馬車に乗るよう紗羅たちに指示した。
「お嬢ちゃんを預けている場所だ。早く行ってやらないと、あのお嬢ちゃん泣き出しそうだからな。」
バツが悪そうに言うダラスに、紗羅は静かに怒りの視線を向けた。
「どういうことだ?シーラは危険なところにいるのか?」
「いいや、安全面に関しては保障する。ただなー、預けた相手がまたちぃっと面倒な奴なんだ。」
ポリポリと頭をかきながら、ダラスは紗羅が馬車に乗ったのを確認すると、馬車の扉を閉めた。
「何をする、貴様!私もこの中に入れろ!」
「ご主人様、何故私まで締め出すのですか?!」
「おいおい、俺様をこんな人外の奴らと一緒にするのか、ダラス!」
馬車の外で3人が喚いていた。
「お前らといるとうるさいからなー。後ろの馬車に乗ってついてくればいいだろう?」
そう言ってダラスは馬を走らせるよう、御者に言った。
「で、サラ。お前さんは何でまた男のふりなんかしているんだ?」
馬車に揺れながらダラスが聞く。紗羅は少し間を開けてその問いに答えた。
「元いた世界である事情があって男のふりをしていたんだ。身を守る技はその男のふりをする上で必要だったから身につけた。こちらに来た時は男の格好のままだったし、最初にあったシーラが勘違いして、僕を男だと思って接していたから、皆僕を男だと思い込んでしまった。僕としても、見知らぬ場所で女の身というのはいろいろと厄介だと思ったから、特に訂正もせず、そのまま男のふりを続けていたんだが。」
「へぇー、どおりで男の姿が様になっていると思ったら、以前から男装をしていたってことか。俺たちが気づかなかったわけだな。だが、サラ。その男装、もうしばらく続けたほうがいいかもしれんぞ?」
呑気に話していたダラスが突然真剣な顔をした。
「もちろんやめる気はないが、何故だ?」
「実はな、この世界で女王がいた過去はただの一度だけだ。それも水の国の話だから、この風の国は代々、男子が治めてきた。そんな中で、王家の人間でもない女のお前が王になろうとしても、誰もついてこないだろう。例え、神獣がついていたとしてもだ。それにお前はこの世界のことを学ぶと言っていたが、どうやって学ぶ気だ?」
ダラスが聞くと、不思議そうに紗羅が答える。
「この国には学び舎のようなものはないのか?あるならそこで学ぼうと思っていたんだが…。」
「いいか、サラ。お前の世界ではどうだったかしらんが、この世界に女が学べる場所はない。女には学ぶ必要などないからだ。この世界の仕組みについてだったら、本屋にでも行って自分で調べれば分かるだろうが、お前は政治を学びたいんだろう?」
紗羅は頷く。
「だったら、やはり学院に行く必要がある。まあ、女でも政治を学ぶものはいるが、それは花街の女だけだ。お前、そんなところに行く気はないんだよな。」
紗羅は激しく首を横に振る。
「じゃあ、残る選択肢は男として、学院に入学することだ。そこでだな、この国の学院では、レベルが低いから、行くなら俺の国の学院に入るべきだろう。」
ダラスが自慢げに言う。
「俺の国はな、勉学を精進できるよう、学院の設備がしっかり整っている。それにその学院に入るのに、国籍は問わない。ただ、優秀な人間でないと入学することは出来ない。サラ、お前の魔道書見せてくれるか?」
ダレスの頼み通り、懐から自分の魔道書を取り出す紗羅。それを見てダラスが驚く。
「お、お前【収納】使えないのか?」
紗羅は不思議そうに首を傾げる。それを見たダラスは「貸せ!」と言って、紗羅から魔道書を取り上げ、ページをパラパラと捲る。ページを捲った後、ダラスは頭を抱えた。
「お前、ここに載っている魔法、ほとんど第1魔法ばっかりじゃないか!これじゃあ、魔法科への入学は難しいな。」
「言っている意味が分からんが、僕の世界にはそもそも魔法というものが存在しない。そこに描いた魔法は全部アレクが教えてくれたものだ。というか、第1魔法って、なんだ?」
「そこからかよ…ったく、これだから引きこもりの神獣は使えねぇんだ…。」
ぶつぶつと文句をたれながら、ダラスが「魔法についてはあとで教えてやる。」と言ったところで、馬車が止まった。
紗羅たちが馬車を降りると、目の前に古びた建物があった。ダラスに連れられ、その建物の中に入っていこうとすると、後ろのほうからアレクとジュダスの言い合いをしている声が聞こえてきた。
「貴様、そろそろ態度を改めたらどうだ!私は神獣だぞ?たかが人間、それも魔力も持っていないような貴様が何故そんなに偉そうにする!」
「はっっ!もとはと言えば誰のせいでこの世界が崩壊しようとしているんだ?そんな奴に下げる頭なんぞねぇよ!それに俺様はただの人間ではない。こんなちっぽけな国なんて比べようがないくらい偉大な光の国の王族だ!」
「貴様言わせておけば…!」
(いい加減にしないか、アレク!見苦しいぞ。)
紗羅が心の中で怒鳴ると、ビクッと身を縮こませてアレクが一瞬のうちにジュダスのもとから消え、紗羅の目の前で土下座した。
「申し訳ございません、主。ですがあの者の態度は目に余ります!」
紗羅は土下座するアレクを一瞥した後、何も言わずダラスの後を追って建物の中に入った。自分の背後でアレクが泣いているように思えたが、紗羅は気にも留めず前に進んだ。
「こっちだ、サラ。」
ダラスは紗羅をある扉の前に連れて行った。そしてその扉をノックし、例のごとく中にいる者の返事も聞かず、ガチャリと扉を開けた。
紗羅が「それは戸を叩く意味があるのか?」とダラスに聞いていると、視界の端にお人形のような女の子の姿が映った。
金髪の縦巻きロールの頭のてっぺんに大きなピンクのリボン。フリフリの白いドレスで着飾り、顔はその年の少女には不釣り合いなくらい、きっちり化粧がしてあった。
「…シーラ、なのか?」
その少女にかつてのシーラの面影を感じた紗羅がそう聞くと、目にいっぱいの涙を浮かべて、少女が紗羅に飛びついた。
「おっにいちゃぁあん、こわかったよぉうっ!」
シーラに施された化粧がドロドロに落ちるほど、シーラは泣いた。その光景を横で見ていたダラスが「やっぱりなー。」とつぶやきながら、頭を掻いていた。
やっと、シーラちゃんを出せました。と言っても、最後のほうですが。そして、アレクの土下座芸は日に日に磨きがかかっていきます。この物語を書き終えるころには土下座の名人になっていることでしょう。




