*第16章~それぞれの秘密~
――紗羅は口を開くことができずにいた。
『主、如何いたしましょう?本当のことを話しますか?』
アレクが紗羅の頭の中で紗羅に問うた。
(いいや、私たちはまだ出会って2日、ジュダスに至っては今日会ったばかりだ。そんな相手にお前のことを話すわけにはいかない。)
ふーっと息を吐き、紗羅は沈黙を破った。
「何故、そのようなことまでお前たちに話す必要がある?私はお前たちの与えた仕事を十分にこなしたはずだ。」
冷静を装いながら紗羅はジュダスを睨む。
「忘れてねえか?まだ取引材料が俺たちのもとにいるってことを。」
「卑怯なッ…約束が違うぞ!」
紗羅がジュダスに掴みかかった。みかねて、ダラスが割って入る。
「おい、よせジュリィ。サラは約束を守ったんだから俺たちも守るべきだ。」
「何甘いこと言ってんだよ。俺はこいつが魔法を習得したいきさつの裏に俺たちの探している情報が隠れている気がするんだ。気になることがあったら俺はそれを解明しないと気が済まないんだ。それにその裏が本当に俺たちの求めている情報と係っているなら、それは俺たちの国の問題でもあるんだ。」
ジュダスはダラスにそういった後、再び紗羅に向き直る。
「俺は汚い手を使ってでも、お前からそれを聞き出す必要がある。さあ、その少女と会いたかったら答えるんだ。」
サラはぐっと唾を飲み込む。そして目を伏せた後、口を開いた。
「それならば僕にも聞く権利があるはずだ。一方的に情報を与える気はない。お前たちこそ、一体何者だ?」
紗羅の問いにジュダスはニヤリと笑う。
「お前、さっきから立場を全然理解していないようだな。質問をしているのはこちらだ。そしてお前はその質問に馬鹿みたいに答えていればいいんだよ。少女を助けたいんならな!」
『おのれ、こやつよくも主を!!!』
(おい、待て!)
アレクの殺気が紗羅の身体の外へ溢れたのを感じた紗羅の静止の命令もむなしく、すさまじい風が紗羅の周りに吹き荒れた。
《聞け、愚かな人間どもよ。我が主をそれ以上愚弄してみろ。ただ八つ裂きにするだけでは済まさぬ!》
アレクの声が部屋に響き、紗羅の周りに吹いていた風がジュダスを吹き飛ばし、部屋の壁に叩きつける。痛みに顔をゆがめながら、紗羅のほうを見る。
皆が驚いていたが、誰よりカイルが信じられないようなものを見る目で紗羅を見た。
「ま、まさか…。」
カイルの言葉を聞き、ダラスとジュダスが顔を見合わせる。そしてダラスが言う。
「探し物がみつかったようだな。」
(いい加減止めろ、アレク。)
紗羅が再び命令すると、紗羅の周りの風が消えていくのと同時に、アレクの気がしぼんでいくのを感じた。
『申し訳ございません、主。あやつの言葉につい耐え切れず…。』
泣きそうなアレクの声に紗羅はため息をついた。
「すまなかったな。俺たちにも切羽詰まった事情があったから、ジュリィはあんなことを言ったのだが、あれは完全にジュリィが悪い。謝罪する。」
ダラスがそう紗羅に言って、ジュダスの頭を手で押し付けて下げさせる。
「俺たちはさっきのお前を見て、俺たちの探してた情報の手掛かりがお前にあることを知った。これはお前との取引以上の価値がある。何より、俺はお前にもう一度頼みごとがある。代わりに先ほどのお前の質問に答えよう。」
ダレスは「長い話になる。」と言い、紗羅を椅子に座らせた。
「実はな、俺たちがこの国に来たのは、俺たちの国の守りの力が弱まってきたからだ。」
「お前はこの国の人間ではないのだろう?それなら守護する神獣や聖獣がいるのではないのか?」
「確かに俺の国はここじゃない。この国から北のほうにある、光の国の人間だ。そこには神獣もいるし、もちろん聖獣と契約した王もいる。だが、ここ数年、その神獣の力が弱まってきたのだ。そしてこれは光の国だけでの話ではない。すべての国で同じようなことが起きているんだ。」
「…それは16年前にこの国から神獣が消えたことと関係するのか?」
紗羅の質問に、ダラスが神妙な面持ちで頷く。
「おそらくな。神獣たちはこの世界の柱たる存在だ。5匹いて、初めて世界の均衡が保たれる。それに神獣たちは何も自分たちの国だけを守っているわけではない。すべての国の神獣がつながっており、その柱同士が線を結ぶことによって、影の国の侵攻を止めていたんだ。その柱の一本を失ったことによって、世界のバランスが崩れ始めた。しばらくは他の神獣たちで力を合わせて頑張っていたんだが、それもガタが来ちまって、世界のあちこちで魔物が出現するようになった。もっとも、この国ほどじゃあないがな。」(そんなことが起こるのか…。おい、アレクまた沈み込んだらいけないぞ。あの時の約束忘れてはいないだろうな。)
『っっ!!申し訳ございません。以後気を付けます。』
放っておいたら沈みこんで、浮き上がってこなさそうなアレクに紗羅がくぎを刺した。
「俺たちは何とかして世界の崩壊を防ごうと模索した。だが、何もできず数年がたった。ほとんどあきらめかけていたところに数日前、この国に神獣が戻ったという情報を得た。それが丁度、お前がこの国に現れた日にちと一致する。そして先ほどの声と風。答えてほしい。サラ、お前のうちにいるのは風の国の神獣か?」
ダラスが核心をつく。紗羅は1度目を閉じ、そしてダラスを見た。
「…ならば、僕も聞こう。ダラス、お前光の国の王ではないのか?」
紗羅の質問にはじかれたように3人が顔を見合わせた。
「どうしてそう思う?」
見極めるようにダラスが紗羅を見る。
「それは…、お前たちの考えが当たっているからだ。」
「「「?」」」
紗羅の返事を聞き、3人とも首をかしげる。
「確かに私の中にはお前たちが言う、この国の神獣がいる。だが、その姿を見たのはシーラだけだ。もちろんシーラに口止めもしているし、たとえ漏れたとしてもそんなに早く情報が広まることはないだろう。仮に、神獣という存在が特別だから、その存在が戻ったという事を人々が感じ取れるのなら、その神獣を内に飼っている僕のそばにこれだけいて、気づかないはずがないだろう?」
紗羅は椅子から立ち上がり、窓のほうに向かって歩きながら話した。そしてくるりとダラスのほうに向き直る。
「そこで推測されるのが、神獣同士はつながっているということから、風の国の神獣が戻ったことを知った他の国の神獣が、自分の聖獣たちにその情報を伝えた。そして、聖獣と契約した人間にも伝わった。聖獣と契約するのは大体、その国の王だからな。ま、中には気まぐれで王ではない人間と契約する聖獣もいるようだが、財力があって、うかつに身分をさらせないお前たちはどう考えても前者のほうだろう?」
紗羅の不敵な笑みにダラスはあきらめたように両手を挙げた。
「参った。お前の言うとおりだ。俺が今の光の国の王、ダラス=ライツだ。」
こんなに早く、物語の核心を出してしまってもよいのだろうか、というくらいに秘密をばらしてしまいました。そして忘れがちな紗羅さんの設定その2!紗羅さんはすごく頭がよろしいんです。それをこの話の最後の推理で少しでも感じていただけたらなと思います。




