*第13章~ダラスの素顔~
聖域から帰ってきた紗羅は、宿屋についた時ダラスから言われたように、タオルを部屋に常備してあった水で濡らし体を拭くと、その部屋に用意された、この世界の服に初めて袖を通した。
この世界の人は皆西洋人のような顔立ちをしていたが、来ている服は昔の中国のような服でだった。
紗羅が着た服は中が白い長袖で、その上が薄い緑色の衿がついた黄色の袖がない羽織物、白い腰ひもと白いズボンといった、割と動きやすい服装だ。
多少不慣れながらも、用意された服をきると、そのまま倒れこむようにベットに伏した。
(まずいな、こんなに疲れたのは久々だ。)
この世界に来てから、まともに睡眠をとっていなかった紗羅を、溜め込んでいたものが一気に爆発したかのような睡魔が襲った。
『主、どうかこのままお休みください。魔法を使用すると、魔力だけでなく、体力も消耗するのです。主が寝ている間、この部屋に結界を張っておきます。悪意を持って何者かが侵入しようとしても、入れないようになっていますので、安心してお休みください。』
聖域から帰ってきてからすぐ、人目につかないように白虎の姿に戻り、紗羅の中に入ったアレクが頭の中で紗羅に言った。
(そう…か、すまな…いな…。)
アレクの言葉を信用したのか、紗羅は睡魔に抗うことを止め、瞼を閉じた。
翌朝、紗羅は目を覚ますと、部屋にあった水で顔を洗った。
その後、紗羅はベットに戻り、アレクに問いかけた。
(昨日は何も起きなかったのか?)
随分元気を取り戻した紗羅の状態を紗羅の中で感じ取ったアレクのうれしそうな返事が返ってきた。
『はい、特に結界に触れる者もおらず、何事もなく夜を越しました。』
(そうか。…ところで、お前が昨日の夜、この部屋や聖域で使っていた結界とやらは魔法ではないのか?)
『あれは、私が使える能力の一つで、おそらく同じような魔法はあると思うのですが、申し訳ございません。私はその魔法を知らないのです。』
紗羅に聞かれると、困ったような声色でアレクは答えた。
(そうなのか。………アレク。)
少し残念そうに心の中で呟いた紗羅は自分のいる部屋の前に人の気配があることに気づいた。
『おそらく昨日主と一緒にいたあの2人連れの男たちでしょう。』
アレクがそう答えると同時くらいに、部屋の戸が鳴った。
ドンドン、ガチャ。
部屋の中にいる紗羅の返事も聞かず、扉を開き、ズカズカとダラスが部屋に入り、後を追ってカイルも部屋に入った。
「よう、昨夜はちゃんと眠れたか?サラ。」
昨日よりもさらにひげが濃くなったダレスが、笑いながら聞いた。
「まあまあだ。それよりもダラス…。」
紗羅が喋りながらダラスのもとへ歩いていく。
そしてダラスの前に立つと、徐にダラスの黒ひげを掴み、いきよい良く引っ張った。
「いってええぇぇぇ!!何しやがる!」
ブチブチっと音を立ててひげを抜かれたダラスは涙目になりながら紗羅に怒鳴った。
「ただでさえ汚らしい男が、8割増しくらいに汚く見える要因を引っこ抜いただけだが?」
紗羅が無表情で答えるとダラスは「大人の男の魅力ってもんが分かっていない。」とブツブツ言いながら、ひげが数10本抜かれた顎をさすった。
「その者がとった方法に関しては納得いきませんが、ご主人様のひげに対する感想は同感です。」
昨日の様子だと、怒って紗羅に飛びつきそうなカイルが淡々と話すと、自分の懐から突然薄い刃のナイフを取り出し、にっこりとダラスに微笑む。
「いい機会です。いっそ私がその醜いひげを全て剃って差し上げます。」
「うわっ、やめろ!お前自分にひげが生えないから加減を知らないだろう?そんなお前に剃られたら、ひげごと皮膚も剃り落されてしまう。」
ダラスは自分を捕まえようとしたカイルの手を振り払い、ナイフを奪い取る。
その光景を見た紗羅が「それじゃあ、僕がそってあげよう。」といい、枕の下に隠してた小刀(元の世界から持ち込んだ武器その2)を構えると、降参したようにダラスは両手を上げた。
「分かったから、自分で剃ってやるよ。だからサラ、それ以上近寄んな!」
じりじり距離を縮める紗羅にダラスがそう言うと、紗羅は足を止め、ボソッと呟いた。
「残念。1回ひげというものを剃ってみたかったのに…。」
紗羅の好奇心で、危うくとんでもない目に合いそうになったダラスはそそくさと紗羅の部屋を出て行った。
「お前、ついて行かないのか?」
部屋に残ったカイルに紗羅が聞く。
「あぁ、ついて行ってもすることがないからな。それより、あの方が戻る前にお前にくぎを刺しておこうと思って残った。」
カイルは紗羅を睨みつけながら、話を続ける。
「今後1度でもあの方に敵意を向けてみろ。その瞬間、お前を八つ裂きにしてくれる。」
静かな声色には怒気が含まれていた。
静かな沈黙が流れ、10分程たつと、再び部屋の扉が開いた。
「…だれだ?」
部屋の入口に立っていた見た目20歳後半くらいの綺麗な顔立ちをした黒髪の男に覚えのなかった紗羅は、聞いた。
「誰って、俺だよ、ダラス。やっぱ嫌なんだよなー。ひげ剃ると俺、童顔になるから。」
「ダラスって、お前いくつだ?」
驚いた紗羅が聞く。
「いくつって、38歳だけど?何々、見とれちゃった?」
(いやいや、どう見てもあのひげ面は50歳後半はいっていたぞ?こいつ化け物なんじゃないか?)
女は化粧で変わると云うが、男も同じようなものなのだろうかと紗羅は考え込む。
「ま、見た目の話は置いといて、早速作戦会議といこうぜ。」
ダラスが話題を変えると、紗羅が顔を上げた。
「そういえば、そうだった。はやくシーラを助け出さなければ。」
当初の目的を思い出した紗羅は、真剣な顔つきになった。
「その件に関しちゃあ、すでに手は打ってある。明日にでも、サラの目的は果たされるだろうよ。」
「…え?」
紗羅は思いがけない朗報に一瞬、何を言われたか分からなかった。
「サラのお求めの少女は昨晩、店の主に交渉しに行って、買い付けてきた。」
どうだと言わんばかりに話すダラスに一瞬喜びの表情を見せた紗羅が、あることに気づき、再び真剣な表情に戻る。
「昨晩、買い付けたなら何故シーラと会うのが明日なんだ?」
紗羅が聞くと、言葉に詰まったダラスの代わりにカイルが答えた。
「彼女はあなたが我々の願いを叶えるまでの人質のようなものです。これは取引なのだから当然でしょう?」
棘のある物言いのカイルに少し怒りが芽生えたが、紗羅はそれを飲み込み、冷静に再度質問した。
「僕を信用していないからすぐにシーラを引き渡さないのは分かるが、何故明日だといいんだ?」
紗羅の質問の意味を解し、ダラスはにやりと笑ってこう告げた。
「それはお前さんに頼む仕事が今晩あるからだ。」
来ました。童顔なおっさん、ダラス!ひげが全く似合いません。この話で初めてこの世界の衣装について触れてみました。少しだけ。もっとわかりやすく書けたらよかったんだけど、勉強不足ですみません。




