*第12章~神獣のいなくなった国で~
紗羅とアレクはすっかり浄化された聖域で正気を取り戻したリューイに事のいきさつを聞いた。
「アレク様が16年前突如この世界から消えてしまい、我ら聖獣は動揺しました。アレク様の守りが消えたこの国には一気に魔物達が侵入してきました。いつか、アレク様が戻ってくると信じ、我らは必死にこの国を守ろうとしましたが、ある日、この国の王と契約していた馬の聖獣が暴走したのです。」
「暴走?お前のように魔物に憑りつかれたのか?」
紗羅が話の途中で質問する。
「いいえ、そうではありません。国を守ることに尽力していた馬の聖獣をこの国の王は酷使し続けていました。結果、力の使い過ぎで馬の聖獣が弱ってしまい、自分の力をコントロール出来ずに力を暴走させてしまったのです。それを見たこの国の王は、馬の聖獣を制御することもできず、ついに馬の聖獣を殺してしまったのです。」
リューイの話を聞き、わなわなと怒り震えるアレク。
紗羅はそんなアレクに「落ち着け。」と一言声をかけ、リューイに質問した。
「神獣は死なないと聞いたが、聖獣は命を落とすこともあるのか?」
リューイは黙り込んでいたアレクを心配しながらも、紗羅の質問に答え、話を続けた。
「はい。我々は不老で、死ににくい体ではありますが、決して死なない存在ではありません。
馬の精霊がこの国の王に殺されたと知った我々、アレク様の配下の聖獣は怒り、憎しみを持ってしまいました。そして、そこに魔物達がつけこみ、我々聖獣は魔物と一体化してしまったのです。」
アレクはリューイの話を怒りを抑えながら聞き、その後の聖獣たちの行方をリューイに問うた。
「申し訳ございません。私は魔物と一体化してからの記憶がないのです。怒りで目の前が真っ暗になった後、気づいたらアレク様とサラ様が目の前にいたのです。」
「そうか…。」
アレクが落ち込んだようにそういうと、ふと何かを思い出したようにリューイが話した。
「そういえば、人間の女と契約していた狐の聖獣は確か、正気を保っていたはずですが。あれの主人は立派な人間だったので、狐の聖獣をしっかり制御していました。」
(あれ?聖獣って王様以外とも契約することなんてあるのか?)
紗羅がリューイの言葉に疑問を感じていると、その考えを読み取ったアレクが答えた。
「主、聖獣たちは普通、その国の王となった人間が【祝福の泉】でそれぞれの波長と合う聖獣を召喚し、契約を交わすのですが、中にはたまたま聖獣と出くわした人間の中に聖獣が気に入ったものがいると、気まぐれに王ではない人間と契約を交わすものもいるのです。狐の精霊は20年ほど前に一人の人間の女と出会い、私の許しを得て、契約を交わしたのです。」
「そうか。」と相槌紗羅がを打ち、一旦話を終えた。
アレクはリューイの話を聞き、自分のせいで大事な仲間を失ってしまったことを知り、落ち込んでいた。
紗羅は落ち込むリューイの頭に手を添えて、優しく声をかけた。
「悪いのはお前ではないよ。仕方のないことだったんだ。お前だってまさか自分がこの世界から消えるなんて夢にも思っていなかっただろう?それに悪いのはこの国の王だ。きっと能無しの王に違いないだろうよ。」
「お気遣いありがとうございます。ですが、私はやはり、自分が不甲斐無いです。私がこの世界を離れなければ、このような事態には…。」
グズグズ落ち込むアレクを見て、紗羅の顔から優しい表情が消えた。
「それは、私を責めているのか?アレク。」
「え?」
思いがけない言葉が返ってきて、アレクは紗羅のほうを振り向く。
「い、いいえ、主。違います。決してそのような――。」
「違わないだろう。お前を16年もこの国から引き離した原因を創ったのは間違いなく私だ。このような事態を引き起こしたのは私以外におらぬだろう。」
アレクの言葉をさえぎるように、紗羅が言い放った。
「私など、生まれてこなければよかったのだ。」
紗羅がそう言ってアレクのそばを立ち去ろうとすると、アレクが紗羅の足を掴んで引き留めた。
「そのようなことを仰らないでください!主は何も悪くないです。あの時主は生まれたばかりで、自分の意志で自分の力を使うことなどできなかったのです。あの空間は確かに主が作られたものですが、だからと言って、主がその責任を負う必要はないのです。生まれてこなければよかったなどと…、私はあなたに会うために、長い時を待っていたのです。どうか、行かないでください。」
泣きながら紗羅を引き留めるアレクを見て、紗羅の顔に再び優しい表情が戻った。
「ほら、お前もあの現象を起こした張本人である私に責任はないと言ったな。それでは、その現象にただ、巻き込まれただけのお前にも責任は一切ないはずだ。これに懲りたら、今後一切自分を責めるような発言は控えるんだな。」
笑いながら言う紗羅に、アレクは笑顔で「御意。」と答えた。
紗羅とアレクは目的を果たしたので、リューイに聖域を任せて、王都に戻ることにした。
別れ際、紗羅はリューイに最後の質問をした。
「聖獣って、獣だけではないんだな。亀もなれるのか?あと、リューイには何故名があるんだ?普通、お前たちは契約するときに名前を与えられるのではなかったのか?」
紗羅の素朴な疑問にリューイは笑顔で答えた。
「聖獣というものは、神獣から力を与えられた動物を総称してそう呼ぶだけです。神獣の中にも、獣でない生き物がいますが、神獣も同じで、神から力を与えられた生き物をそう呼ぶのです。
あと、私の名ですが、これはアレク様に頂いた名です。」
「どういう意味だ?」
紗羅はリューイの言葉に首を傾げる。
「私は何代か前の王に使えていたのですが、その王も、私を酷使し、その王が死んだ頃にはすっかり弱ってしまったのです。見かねたアレク様がこの聖域の泉に私を連れて行き、私にリューイという名を与えて、この聖域を守るよう言いました。人間でなくても、自分より高位の者に名前を与えられた聖獣はその名を取り消されるまで、他の者に使えることは出来なくなるのです。」
「なるほどな。アレクはリューイを守るために名を与えたのか。」
紗羅がアレクの頭を撫でてやると、うれしそうにアレクがゴロロと鳴いた。
(こんなかわいらしい少年の姿をしていても、中身はやはり虎なんだな。)
紗羅の考えを読んだアレクは無意識に出していた自分の鳴き声を手を口に当てて、出さないようにした。
「それでは主、今度はご自身で【移動】の魔法をお使いください。」
アレクにそういわれると、紗羅は顔をしかめた。
(あの魔法、気持ち悪くなるんだよな。)
紗羅の心の声を聴き、アレクはあわてて紗羅に謝罪した。
「申し訳ございません。私は誰かと一緒にあの魔法を使ったことがなかったので、そこまで気が回らなかったのです。あの魔法は使うもの次第で素早く、かつ快適に移動ができますので、主が発動すれば、以前のようなことは起こらないはずです。」
何度もペコペコ頭を下げるアレクに、「もう分かったから。」と紗羅は言って、魔道書を開いた。
「あ、そういえばここにきて随分時間が経ったようだが、帰ったらダラス達が私を探しているんじゃないのか?」
魔法を詠唱する前に紗羅は心配して聞いた。
「大丈夫です。この聖域は普通の場所とは違って、時間というものが存在しません。なので、我々はあの部屋で【移動】を発動した直後に戻れます。」
アレクの言葉を聞いて、紗羅は安心して、リューイに別れの言葉を言った。
「それじゃあ、リューイ。また会おう。」
「お気をつけて行かれませ。」
紗羅はリューイに手を振った後、魔法を詠唱するため、息を吸った。
「我、唱える者。かの場所へ扉よ、開け。【移動】。」
そう唱えると、今度は一瞬の間に紗羅は元いた部屋に戻った。
宣言通り、紗羅に聖獣の定義を聞かせました。かなりいい加減な定義です。
さて、次回は3話ぶりのダラスさん登場です。




