*第11章~魔法と聖獣~
紗羅は山積みの本の中から一冊だけを手に取った。
「それで、この本に魔法陣を書くのだな?」
紗羅がそう聞くと、アレクは「その通りです。」と言いながら自分の髪の毛を数本抜き取り、抜いた髪にふうっと息を吐きかけた。
すると、髪の毛達がギュッと凝縮し、そこに一本の万年筆が出来上がった。
「さあ、主。これでその本に私がお教えする魔法陣をお書きください。」
そう言って、アレクは紗羅に万年筆を渡した。
紗羅が渡された万年筆を握るとチクッと痛みが走った。
「痛ッ!」
紗羅が万年筆を見ると、インクの代わりに赤い血が滴っていた。
「これは何だ、アレク。」
怒ってアレクのほうを見る。
「主、魔法陣は魔法発動の媒体となるものです。陣を血で描いたほうがより発動させやすいのです。」
(だったら先に言えばいいのに。)
と紗羅が心の中で思うと、再びアレクが紗羅の前で土下座しながら「申し訳ございません。」と何度も頭を下げた。
――アレクから習った魔法は全部で15個。
一つ、【合成】原料から別のものを生み出す魔法。
二つ、【言語】異なる言葉を頭の中で自動翻訳して聞いたり、話したりする魔法。
三つ、【封印】力を出せないよう器の中に閉じ込める魔法。
四つ、【浄化】魔物に取りつかれた者から魔物を取り除いたり、汚染された場所を清浄に戻したりする魔法。
五つ、【火炎】少量の火を目標物につける魔法。
六つ、【炎上】辺りを焼き尽くすほどの火を放つ魔法。
七つ、【放水】水を発生させる魔法。
八つ、【氷刃】氷でできた無数の刃をふらせる魔法。
九つ、【竜巻】文字通り、風で竜巻を起こす魔法。
十、【治癒】傷を癒す魔法。
十一、【接触】この魔法をかけた物を持っている相手といつでも意志の疎通ができる魔法。
十二、【移動】イメージした場所へ移動することのできる魔法。
十三、【浮遊】自分もしくは物体を浮かせる魔法。
十四、【操作】イメージ通りに物体を動かす魔法。
十五、【透視】物体で隔たれている先を除く魔法。
紗羅はそのすべての魔法陣と、詠唱する言葉を分厚い本に万年筆から出る自分の血で描いた。
「それでは主、まずは【氷刃】でここにいる魔物を倒してみてください。」
アレクはそういうと、二人の周りに張っていた結界のようなものを解いた。
その途端、魔物たちは紗羅たちの存在に気づき、一斉に向かってきた。
紗羅は8ページ目を開き、さっき本を創ったときの量と同じくらいの魔力を出すイメージで詠唱した。
「我、唱える者。氷の刃よ、降下せよ。【氷刃】!」
紗羅が詠唱を終えると同時に50センチ程の無数の氷の刃が聖域中に降り注ぎ、聖域中に蔓延っていた魔物がすべて灰と化した。
「おかしいな。私はさっきと変わらない量の魔力を使ったはずなのに、何でこんなに大きな魔法になったんだ?」
紗羅が首をかしげていると、アレクがその疑問に答えた。
「普通、【氷刃】は【合成】よりも魔力の消費量が倍くらい多いので威力としては半減するはずですが、主はご自身の血で魔法発動の媒体となる魔法陣を描かれましたので、その分効率が上がったのです。」
(そういうことは先に言っておいてくれないだろうか)
紗羅が責めるように心で思っていると、またアレクが土下座をしに来ようとしたので、アレクを止めた。
結局最初の魔法ですべての魔物を殲滅してしまったので、他の攻撃魔法を使えなかった紗羅は、【浄化】の魔法で聖域を元の清浄な状態にした。
ところが、聖域の奥の泉にはその魔法が効かず、そこから大きな亀のような魔物が出てきた。
「あれは…。」
アレクがその存在に何か気づき、近づこうとする。
「あ、おい、アレク。危ないぞ!」
紗羅の静止をきかず、魔物に近づくアレク。だが、その足が途中でピタリと止まる。
「やはり、リューイか?」
アレクの問いかけには答えず、魔物は苦しそうに唸っていた。
「知っているのか?」
紗羅はアレクに駆け寄り聞いた。
「えぇ。あれは私の配下の亀の聖獣、リューイです。」
どうやら消えたと思われた聖獣は魔物に憑りつかれて一体化してしまったようだ。
「ここに来た時に気づかなかったのか?」
あの泉から出て来たということはおそらくあの泉を汚した張本人はそのリューイだろう。
「本来であれば神獣の配下にある聖獣は皆、神獣と同じ【気】を持っているのです。ですが、あの者には一切その【気】が感じられず、私の呼びかけに応えません。かろうじて、間近で見ることによって、以前の面影があったのでリューイだと解りました。」
そこまでなるほど、あの聖獣は魔物たちと一体化しすぎているのだ。
「主、お手を煩わせて申し訳ございませんが、どうかリューイをお助け下さい。」
アレクは紗羅に懇願した。
「いいのか?私はまだ上手く自分の魔力を使いこなせていないから、必要以上に攻撃してしまう可能性もあるぞ?」
紗羅がそう聞くと、アレクはにっこりと笑って紗羅に応えた。
「大丈夫です。紗羅様は誰より賢い私の主です。先ほどの3回の魔法でご自身の魔力をどの程度使えばよいか理解したはずです。」
自信たっぷりに言うアレクをげんなりした表情で紗羅は見た。
(こいつは私を挑発しているのか?)
もはや、自分の心の声を読んだアレクの反応などどうでもよいと思いながら、紗羅は魔物と化したリューイに向き合い、魔道書を開いた。
「我、唱える者。燃やせ。【火炎】。」
紗羅が言い終わると同時に、目の前の大亀の魔物が燃え上がった。
リューイが苦しみ悶えているのを見て、ある程度ダメージを喰らわせたことを確信した紗羅は魔道書の違うページを捲った。
「我、唱える者。悪しきモノを取り払え。【浄化】。」
カッと、リューイから光が発生し、何かが蒸発したような音が鳴った。
そして、光が静まると、弱り果てた大亀が倒れていた(というか、仰向けになっていた)。
紗羅は冷静に魔道書のページを更にめくり、詠唱を続けた。
「我、唱える者。移動せよ。【操作】。」
仰向けになっていた大亀を、くるりと反転させ、紗羅たちの目の前まで移動させた。
「平気か?リューイ」
アレクはすっかり甲羅の中に身をひそめた聖獣に向かって、心配そうに聞いた。
アレクの声を聴いた大亀は甲羅の中から紗羅とアレクを覗き、アレクの存在に気づくとにょきっと顔を出した。
「白虎の神獣様。よくぞお戻りになられました。今まで一体どこにおられたのですか?」
涙を流しながらリューイはアレクにすり寄った。
「私の今の名はアレクだ。我が主から賜ったありがたい名だ。今後はアレクと呼べ。」
アレクはリューイの質問には答えず、的外れなことを言った。だが、その言葉でリューイはアレクの隣にいる紗羅が何者なのか悟った。
「もしや、白虎…いや、アレク様。この御方は…。」
そういってリューイがチラッと紗羅のほうを見ると、うれしそうにアレクが答えた。
「ああ、この御方こそ我が主で、今後お前たちがお仕えするべき尊い御方だ。」
アレクから恥ずかしい紹介をされた紗羅は内心アレクを叱りながらリューイに微笑んで名乗った。
「私の名はサラ。これからよろしくな、リューイ。」
亀なのに聖獣なリューイさんが登場しました。獣ではないだろうに…。まあ、いろいろな矛盾をかかえつつも、物語は進行します。細かいことはあまり気にしないでください。いずれ物語の中でこの矛盾とかも解消できればなーって思っています。
…やっぱり、いつかなんて言わず、次の話で紗羅さんにつっこんでもらいます。




