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空白の肖像  作者: 音鳴 凪


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7. Others

 ——そこに写っていたのは私の顔だった。


 動揺した私の手から写真立てが滑り落ち、カツンという音を立てる。

 慌てて拾い上げた写真に、廊下からの明かりが当たると、微かな違和感を覚えた。


「……私じゃない?」


 目鼻立ちがよく似ていて、薄暗い部屋の中では自分自身に見えたが、廊下に出てあらためて見てみると、髪型も骨格も自分のものではない。


「髪の色も違う……」


 写真の人物は、私のものとは違う、淡い色の髪をしている。

 ひと目では男とも女ともつかない顔立ちだが、薄く開いた襟元から見える喉仏や、まっすぐな肩の輪郭から、この人物は男性に思えた。


 私によく似た、見知らぬ男——。

 このことが何を意味するのか、思考を巡らせそうになるが、先ほど立ててしまった音が気になる。


 急いで部屋に戻り写真立てを元の位置に伏せると、最初はなかったはずの鍵が目にとまった。


「……もしかしたら」


 もう一度写真の男性を見たあと、私は鍵を握り直して部屋を出た。


 廊下はすぐに右へ折れていて、一度角の手前で立ち止まると、息を整えてから先の様子を窺う。


 やはり人の気配はない。先ほどの物音は聞かれなかっただろうか。


 折れた先にも、窓のない白い廊下が続いていたが、突き当たりに、これまで見たどの扉よりも大きな扉が見えた。


 その重たげな佇まいを見て、手の中の鍵の冷たさが、ふいに意識に上ってくる。


 まだ完全に回復していない足を、それでも精一杯動かして扉に向かう。


「……っ」


 思うようにつま先が上がりきらず、何度も転びそうになる。


 身体を支えるために手をついたところで、突き当たりの手前にもう一つ扉があることに気づいた。


 これまでと違う、幅広のスライド式の扉。


 先を急ぐべきだと警告する自分がいる一方で、しかし、それ以上に何が起きているか知りたい気持ちが抑えきれない。


 鍵がかかっていないことを確認すると、そっと部屋の中に足を踏み入れた。


 入ってすぐに壁にスイッチを見つけて操作すると、薄暗い明かりが灯る。


 中はこれまでの部屋とは少し違っていた。


 書斎、とでも呼べばいいのだろうか。壁際に背の高い棚が並び、机がひとつ据えられている。

 その机の上に、書類やファイルが、崩れる手前まで高く積み上げられていた。


 机の中央に大判のファイルが置かれているのを見て手に取る。


 細かな文字で隙間なく埋められた書類の隅に、L判の写真がクリップで留められている。

 めくってみると、同じような書類と写真の組み合わせがいくつも挟まっていた。


 写真の顔はどれも見覚えがあるような錯覚に陥る。


「似ている……」


 先ほど見た男性の写真ほどではないが、どこかに自分の面影がある。

 目鼻立ちがそっくりなものもあれば、なんとなく雰囲気が似ているものまで様々だ。


 若い女性もいれば、やや年かさの男性もいる。

 

「私に似ているのでなく、()()似ているのね……」


 ようやく気づいた。

 私もこのファイルにある人たちも、あの写真の男性に似ているのだ、と。


 書類の文字を追おうとするが、手が震えてうまく読めない。

 部屋の明かりは薄暗く、私は一度廊下に出ようと振り返った。


「——それは、今まで私たちに協力してもらった人間たちだよ」


 開いたままの扉の前に、白衣の男が立っていた。


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