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手に握ったローテンドの枝を見て、ジェマは目を瞬く。
「取れちゃった」
「よくできました」
ジェマの素直な反応に楽し気に笑ったヒュプノスは、ジェマの黒髪をそっと撫でた。
「闇属性魔法は空間を超えることができるから。こういうこともできると覚えておくと、そうだなぁ、ハンカチを忘れたときとか、遠くにあるお菓子を取りたいけど立つのは面倒なときに役に立つかな」
「それは確かに便利だね」
ヒュプノスの例えに、ジェマは目を輝かせて何度も頷く。ヒュプノスもどこか自慢げ。ジェマとヒュプノスしかいないと、どうにもツッコミが不在がちになる。
「さあ、早速作ろうか」
「うん! じゃあ、始めるね!」
ジェマはローテンドを取り出したときと同じ要領でいつものサファイア色のエプロンを影から取り出す。
「やっぱり、これがないとね」
キュッと背中側の紐を締めると、右手に工具、左手にローテンドの枝を持った。
「まずは魔石を埋め込める場所と、魔力の回路を作っていく」
「なるほど。意外と手作業なんだね」
「魔法が使えるのは、王族だけ……あれ、私も使えるから、みんな使い方を知らないだけ?」
うんうんと考え込みながらもジェマの手は止まらない。そんな様子に、ヒュプノスはジェマの手に自らの手をそっと添えて止める。
「待って。集中しないと、魔力が溢れちゃうよ」
「あっ、そうだった」
ジェマは嬉しそうに笑う。自分の作業を見守ってもらえること、危ないときに止めてもらえること。スレートが亡くなってから、もう手に入らないと思っていた幸せだった。
「ジェマ、ゆっくりね」
「うん」
ジェマは口角が緩んだまま丁寧に木彫りを進める。魔石を埋め込む穴と穴を繋ぐ。一種類の魔法だけを使う杖に、小さな魔石をいくつか分散させて繋ぎ合わせる。
「どうしてわざわざ分散を?」
「これは、セインさんの魔力で魔石が壊れないようにするため。ローテンドの枝は魔力への耐性も強いけど、セインさんは魔力量を超えた意思の強さがあるから。魔力暴走を起こした状態で使っても壊れないようにしておきたくて」
使う魔石は、回復の錬金魔石。セインの正義感なら、最も使う可能性が高い。そして何より、聖人と呼ばれるセインが最も頼られる魔法の属性でもある。
「他の魔石はどうするの?」
「火属性のファイヤランスの魔石は指輪に、土属性のグランドウォールの魔石はアンクレット、水属性のウォーターバレットの魔石はネックレス、風属性のウインドカッターの魔石は……そうだなぁ。イヤリングにしようと思うの」
身体の至る所に分散させることによって、魔力の流れに反応するものを減らす。そうすることで魔法の発動に必要な魔力も、必要な集中力も少なくて済むようになる。
「ワンドマスターは魔法が使えなくなったら戦場で命を落とす確率が高くなる、か」
「うん。セインさんは魔法以外の戦いには向いていないと自分でも言っていたから。相棒のアドヴェルさんは剣士だけど、体力が底を尽きれば頼れるのはセインさんの魔法だけ。ペアで冒険をしている2人にとって、お互いが少しでも長く戦い続けられることが生き残る唯一の道だから」
「そもそも2人で冒険をしているというのが、なんともね」
ヒュプノスは苦笑いを浮かべながら、ジェマの手元を見守る。あっという間に完成した杖に、思わず拍手をする。
「流石。ジェマの作成の早さは聞いていたけど、ここまでとはね」
「慣れていればこんなものだよ。私なんて、まだまだ」
そう言いながらも嬉しそうに、ジェマは次の作業に移る。ローテンドの枝から作り出される指輪、ネックレス、アンクレット、イヤリング。全てが並ぶと、ヒュプノスは頭を掻いた。
「なんというか、森の住人のような姿になりそうだね」
「うん。だけどその分、森の精霊たちの力を借りることもできるかもしれないよ」
精霊の力は、契約をしていなくても借りることができることが稀にある。例えば、ジェマと仲の良い悪戯好きの森の精霊、レーパズや以前ジェマが助けたハーフドリュアスのリアン、その母親分でありドリュアスのドーラ。彼らは友人としてジェマに力を貸してくれる。
レーパズは森にやってきたジェマに悪意がある者を森の外へ導いてくれる。リアンとドーラは、素材として使うことができる精霊しか手に入れることができない植物をプレゼントしてくれる。精霊だけが生み出すことができる錬金魔石を物々交換してくれることも、ジェマにとっては有難いことだった。
「確かに。僕もこの近くで暮らしている闇属性の精霊たちから情報をもらったりすることはあるよ。精霊が味方になってくれれば、戦闘の力になってくれるわけではなくてもとっても助かることがあるからね」
「うんうん。みんなと助け合いながらやっていけたら、きっと1番心強いよね」
ニパッと笑うジェマ。魔物にも精霊にも愛されるジェマが言うと、説得力が違う。力を守るために、助けるために使い続け、真っ直ぐに進み続けた先。そこに、ジェマだからこそ辿り着く世界がある。ヒュプノスはそんな未来を想像して微笑んだ。




