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ドルゲの視線がジェマとヒュプノスがいる部屋とこの部屋を隔てるドアを見つめる。
「大丈夫だ。任せろ」
契約者を信頼した声。ジャスパーはその声にどこか馴染みを感じてふっと息を吐いた。
その頃ジェマとヒュプノスは、互いの身体に緑色の魔力を纏って魔力をやり取りし合っていた。互いの身体に流れる魔力の温もりと揺らぎを感じ取りながら魔力がどこにあるのかを意識する。
「そう、感じて。どこにどれくらい魔力があるか」
「分かるように、なってきた」
ジェマは魔力を感じながらゆっくり頷く。その気配に、ヒュプノスは流し込む魔力の量を増やしていく。
「ジェマ。これからジェマに魔力を流し込む。苦しくなってきたら教えて。それがジェマの、魔力の許容量の限界だからね」
「うん、分かった」
ジェマは真剣に魔力の流れを感じ取る。じわじわと身体に流れ込んでくる魔力。この感覚には覚えがあった。
「魔力譲渡、ハナナさん、凄く上手なの。ヒュプノスさんと同じで、身体に馴染むように、ゆっくり入れてくれる。お父さんは、ちょっぴり下手だった」
ジェマは静かに笑いながら、スレートとの思い出を語る。スレートはなんでもできる人だった。それでも苦手なことは当然あって、それをできるようになろうと努力する背中にジェマは憧れた。
「まあ、そのやり方ができる人は本当に少数だからね。多くの人は焦って魔力を急いで流し込もうとしてしまうから。ジェマの魔力譲渡もゆったりしていて上手だよ」
「ジャスパーもジェットも、魔力欠乏になることがあるから、少しは慣れているのかな。私の魔力を一気に流すと苦しそうにするから、ゆっくり渡すようにしていたの」
「その経験だけでここまで上手なのは驚きかな。まあでも確かに。ジェマのこの膨大な魔力を一気に食らっても平気なのは、世界で私と私の父くらいでしょうね」
ジェマは魔力を感じながら、首を傾げる。
「ヒュプノスさんのお父さんってことは、国王陛下ですか?」
第2王子相手に、当たり前すぎる質問。ヒュプノスは思わず笑いそうになりながら頷いた。
「そう。国王陛下。歴代最強の光属性の魔法使いだよ。闇属性魔法は光属性魔法が弱点だから、私の魔力でも父に勝つのは難しいかもしれないね」
「そうなんだ。そんなに強いんだね」
ジェマは楽し気に笑う。父を尊敬する気持ちは、よく分かるから。
その無邪気な笑みにヒュプノスは肩の力が抜けるような気がした。もしもヒュプノスとジェマが手を組めば、国王陛下も敵ではない。のだが。そんな考えを微塵も持っていないジェマは、この国の頂点に立ちたいなんて野望も持っていない。
「ジェマの将来の夢は、やっぱりスレートさんみたいになること?」
「ううん。お父さんを超えること。だからまずは、お父さんと同じ所有者固定魔道具師になって、それから、お父さんが完成させられないまま残した設計図を完成させたり、もっともっとたくさんのものを作ったりしたい」
緑色に強く輝くジェマの身体。そのサファイア色の瞳が魔力の光を超えるほどの希望でキラキラと輝いた。その姿に、ヒュプノスはどこか安心したような心地がした。
ジェマが夢を持っている。それはジェマが何者にも拒まれず、平和な状況にいるということ。ジェマの周りだけは、少なくとも夢のない暗闇ではない。
「その夢、応援しても良いかな?」
「うん! 私、魔力の制御を学んで、まずはセインさんの魔法の杖を作りたいの。依頼をもらってから、ずっと作れていなくて」
ジェマの瞳の輝きを守る。ヒュプノスは心が躍る気がした。もしもジェマの夢が邪魔されることがあるならば、どんな手を使っても守り抜く。森の奥に幽閉されて孤独になってから初めて見つけたぼんやりとした生きる理由が、形になっていく。
「ジェマ、それじゃあ、私と一緒に作ろうか。魔力が流れそうになったら止めてあげるから」
「良いんですか?」
「うん。ここにいると、研究以外にすることもないからね」
穏やかに微笑んだヒュプノス。ジェマはぱぁっと笑顔になる。ジャスパーもジェットも、新しくやってきたハリスもモアレも。家族だけど、道具師としてのジェマの隣に立ってくれる人はいない。道具師になるんだと意気込んで、スレートの隣で見様見真似に道具を作っていたころのような。懐かしさが胸を温めた。
「じゃあ、早速素材を取ってきます! 作業道具はここにありますから」
ジェマは腰に括りつけたままの【次元袋】をぽんぽんと触る。【次元袋】のおかげで、いつでもどこでも作業ができる。
「それなら、こういうのはどうかな? 真似してごらん?」
ヒュプノスは小さく微笑んで木の机に手を添える。手の平の下にできた影に魔力を流し込むと、影が揺らぐ。
「影の向こうをイメージして。そのまま影にゆっくり手を入れて向こうの物を掴む」
ジェマはヒュプノスの声に耳を傾けながら、素直に真似をする。影の中に入れた手をくいくいと動かすと、何かが手に触れた。そっと影から手を引き抜くと、その手にはローテンドの枝が握られていた。




