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ジェマは考え込むようにジッとしていた。けれど不意にふっと肩の力を抜くとどこか寂し気に微笑んだ。
「そんなわけ、ないですよ。私なんかが、ヒュプノスさんみたいな王子様に精霊契約を交わしたドルゲさんと同等に思われているわけがないんです。私は、ただの、道具師でしかないですし」
ドルゲは天井を見上げて、考え込む。どこまで話して良いのか。どこも話して良いことではなくて、だけどヒュプノスがジェマを心から愛していることは事実。それを誤認されているというのは、ヒュプノスと契約をしている精霊として我慢ならなかった。
「本当だ。そうじゃなかったら、契約者はお前のために自分の護衛を警護につけて旅をさせたりしない。契約者が自分の権力を使ってでも守りたいと思う相手は、俺とお前だけ。契約者は、出会う前からシヴァリーが持っていた道具でお前のことを知っていた。それから、お前のことを知るたびにどんどん協力したくなっていったみたいだった。契約者の気持ちだけは、疑わないでくれ」
ドルゲの真っ直ぐな言葉に、ジェマはまたジッと考える。信じられる言葉と、信じて良いのか分からずに揺らぐ自分の心。ジェマは自分の気持ちも考えも、ぐちゃぐちゃになっているように感じた。
「信じて、みます。今は、自分のことを信じることができないんです」
ドルゲを見上げるジェマの瞳は不安でいっぱいなまま揺れていた。普段様子を見に行くたびに大人びた態度で店主として、プロの道具師として振る舞っているジェマを見慣れていたドルゲはどこかホッとしていた。
「そうか。ジェマの場合、ジャスパーたちがいるといっても、他に弱みを晒せるやつは少ないだろ。シヴァリーたちは友人でも仕事の相手になるし、あの商人の小僧だって仕事相手だ。その点契約者は仕事に関わらないし、だけど魔法と魔力に関する知識は国1番だ。頼れるお兄さんってことで、仲良くなってやってくれ」
ゆっくり、迷いながらも頷いたジェマに、ドルゲはニヤリと笑った。
「それとな。ゆくゆくは俺の契約者がジェマのためならなんでもするって覚悟があることも承知してやってくれ」
「どうして、そこまで……」
ジェマはいきなり詰め込まれる情報に目を回す。いつもの調子を取り戻してきたドルゲはそれすら楽しむように悪戯っぽく笑うと、ぴんと人差し指を立てた。
「そりゃもちろん、ジェマが大事だからだ。理由はたくさんあるが、ジェマは初めてここにきたとき、契約者の魔法を興味津々に聞いていただろ? あんなことをする奴はほとんどいない。王子として、闇属性の忌み子として嫌厭されてきた契約者が、俺以外で唯一素でいられる相手なんだ」
どこまで話して良いのやら。飄々としながらも必死に頭を働かせていたドルゲ。ジェマはその話に確かに、と一つ頷くと小さく笑った。
「自分のことに興味を持ってもらえるって、嬉しいですもんね」
「そうそう。そういうことだ。まあ、俺の契約者はそういうやつなんだ。だから、今抱えているものを全部吐き出しちまえ」
肩の力が抜けたようなジェマに、ドルゲも安堵して長く息を吐き出した。
「それで? 俺に最初にこんな相談をした理由は何なんだ? おかげで契約者にもジャスパーにも睨まれたんだが」
「それは、ごめんなさい」
ジェマはヒュプノスとジャスパーがドルゲを睨みつける様子を想像して思わず笑みを零した。それから一つ頷くと、悪戯っぽく笑ってみせた。
「ドルゲさんなら、ヒュプノスさんのこと誰よりも知っていますから。それに、ドルゲさんなら嘘は吐かないと思ったので」
その無邪気な答えにドルゲは肩を震わせると、声を上げて笑った。
「ははっ、俺はこれでもドッペルゲンガーと呼ばれる精霊だぞ? 悪戯好きで嘘も吐く。そんな種族を信じるのか?」
「だって、ヒュプノスさんが信じている相手ですから」
ケロリとした顔で、屈託なく笑ったジェマ。ドルゲは拍子抜けしながらも、ジェマがすっかり元気を取り戻したことに安堵した。
「ジェマ。今度からは苦しくなる前に助けてって言ってみろ。ジェマの周りには闇属性の精霊たちがいる。そいつらが今回みたいに俺に伝えてくれるからな。お前がどんなに小さい声で言っても聞き逃さないでいてやる。それで、また今回みたいに攫ってやる。ここでなら、ジェマは店主でも道具師でもない、普通の子どもでいられるからな」
ドルゲの言葉をじっくりと聞いていたジェマは、拗ねた様子で頬を膨らませた。
「私だって、大人ですけど」
「そりゃ成人しただけだろ。人間のルールと生物の摂理ってのは別物だ。俺たちみたいな精霊からすれば、ジェマは、まあ契約者もだな。まだまだ子どもだ。あ、そうか。俺ですらこう思うってことは、ジャスパーからしたら全人類子どもだろうな」
頷いて納得しているドルゲにジェマは苦笑いを浮かべた。そして、すくっと立ち上がるとドルゲに振り向いて頭を下げた。
「ありがとうございます」
「良いってことよ。契約者がお前を守りたいと思っている限り俺もお前を守るからな」
ジェマはドルゲの大きな手に安心して頷くと、ヒュプノスとジャスパーたちが待つ隣の部屋のドアを開けた。




