↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。6  作者: こーの新


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/33

5


 ジェマの険しい表情に、ハリスは寂し気に瞳を伏せた。



「お父さんたちがまだ苦しんでいるなら、助けてあげたい。お父さんたちみたいに苦しんでいる人も、解放してあげたい」


「うん。私も、そう思う。ナンブモスもファイヤーアーサスもファスフォリアを目指していた。他の改造された魔物や人も、来るかもしれない。丁寧に、葬ってあげないと」



 拳をキツく握り締めたジェマの手に、涙を拭った痕が残るハリスの手が重なった。ハリスの力強い手。魔石を埋め込まれたことで向上した身体能力は、憎らしくも、今のハリスが我が身を守る手段でもあった。



「でも、少しだけ複雑かも」



 ハリスは小さく零すと苦笑いを浮かべて胸の魔石を撫でた。



「この魔石は、どこかの魔物の心臓だったもの。私と結びついて生き続けている。私が死んであげないと、この子は解放されない」


「でも、この魔石がハリスを生かそうとしていると私は思う」



 ジェマの言葉は、ほとんど反射的に溢れたものだった。ハリスは驚いたように目を見開いて、悲し気に首を傾げた。



「慰め?」


「違う。本能かもしれないけど、この魔石は、確実にハリスを命の危機から救っている。ハリスが今まで思い付きもしなかったような動きも戦い方も、この魔石がハリスに教えているものだから。無意識化でリンクした意思が、ハリスを生かそうとしているんだと、私は思う」



 何かに操られるように一点を目指すファイヤーアーサスやナンブモスの行動とは異なる、守る力。どんな魔物の魔石かは分からないものの、ハリスが無意識のうちに生存へ向かうのは魔石の意思だとジェマには思えた。



「だって、ハリスは生き永らえる理由、言えた? 森で危険な魔物に囲まれて」



 ハリスはジッと考え込む。逃げろ、生きろ、走れ。脳内にずっと響いていた言葉。



「分からない。お父さんたちと引き離されて、苦しい実験があって、あんなに消えてしまいたかったのに。逃げだすとき、凄く、生きたかった。自由になりたくて、助けて欲しくて、それしか考えられなかった」



 思い返せば自分の行動が不可解で、ハリスは不安げに自分の身体を腕で抱き締めた。ジェマはその身体を小さな身体で、それでも包み込むように上からギュッと抱き締める。



「ハリス、その魔石について調べたかったら、いつでも協力する。外したいでも、知りたいだけでも、なんでも。ハリスを生きさせてくれたその魔石に、私は凄く感謝してる。ハリスが、大好きだから」



 ハリスの瞳から、再び涙が溢れた。懐かしい、胸の温もり。



「逃げたときのことは、よく、分からない。でも、今は、凄く生きたい。お父さんたちがいなくなっても、私に生きていて欲しいって言ってくれる友達がいるんだから」



 ジェマはハリスの背中を擦り続けた。2人の姿をジッと見つめていたカポックは、自らの手の平を見下ろした。何人も、命を見送ってきた。自分が生きることに精一杯になって、いつの間にか周りの死を何とも思わなくなった奴隷時代の感覚が蘇る。


 その感覚が消えたのは、ハナナに救い出されたとき。ハナナがカポックを抱き締めた腕から感じた、生きていて欲しいという願い。生きなければいけないと思った。それから、ハナナのために騎士になった。仲間が増えて、ありがとうと言われることが増えて。生きる理由が増えて行った。



「たくさんの人と、関わると良い。ハリスも、ジェマも」



 カポックの静かな声に、ジェマとハリスは顔を上げた。苦しみを乗り越えてきた、深い顔つき。まだ幼い2人にも、カポックの言葉は胸の奥に静かに波紋を広げた。



「はい。そうします」


「私も。旅でたくさんの人に出会ったけど、もっともっと出会いたい。ファスフォリアの街の人たちとも、きちんと交流してみたい」



 ハリスとジェマは顔を見合わせて笑い合う。そして、スレイが程良く埋めてくれた穴に、遂にハリスの両親の腕を埋めた。



「指輪はどうする?」


「ジェマに、お願いがあるの。この指輪を、私が毎日身に着けられるようにして欲しい。お代は、お店のお手伝いで返すから」


「ふふ、もちろん。喜んで。どんな形が良い?」


「ネックレスにして欲しくて、2つのリングを、くっつけてしまって欲しいの」



 ハリスはリングケースを開いて2つのリングをそっと撫でた。ジェマは少し考え込んで、頷いた。



「溶接すれば、できる。でも2度と離せなくなるよ」


「その方が良い。その方が、お父さんとお母さんはずっと一緒にいられる気がする」



 ハリスの言葉に、ジェマは頷くとその手を取った。



「それなら、3つのリングをくっつけない? 同じ素材でハリスの指のサイズを測って、リングをもう1つ作って合わせるの」


「私も、一緒ってこと?」


「うん。これからは、家族3人、ずっと一緒」



 ジェマの優しい笑顔に、ハリスは深く頷いた。ジェマの手を握り返して、涙を殺して震えながら微笑んだ。



「ありがとう」



 その声も震えていた。


 ジェマとハリスは黒光りする石を持ち上げて、ハリスの両親の腕を埋めた場所の上に墓石として置く。周囲に広がる心安らぐ空気。ハリスが手を組んで安らかな眠りを祈ると、その背を見ていたジェマとカポックも手を組んで祈りを捧げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。