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ジェマは裏庭に向かう前に1度作業場に向かった。そして、黒光りする大きな石を取り出すとそこに穴を開け始める。
「ジェマさん、何を?」
護衛としてついてきたカポックは、ジェマの手元を覗きながら首を傾げる。旅の間にもジェマはいくつも道具を作っていたけれど、その中のどれとも違う。
「この穴に、ローテンドの枝を薄くしたものを、編み込んでいきます」
ジェマはローテンドの枝を薄く、薄く、紐のように削いでいく。それを穴に差し込んで、次のものと結びまた穴に通す。黒光りする石に、木の皮が編み込まれた、不思議なもの。ジェマはそこに魔術の魔法陣を墨入れしていく。
「墨入れしたら、この上から、また削る」
彫り込まれた魔法陣。カポックはじっとそれを読み解こうと見つめ続け、ハッとした。
「安定の精神魔術、ですか?」
「はい。この石を中心にリラックス効果がある魔法が常に展開されます。ローテンドの力もあるので、近付く悪意をへし折るくらいの力は出ると思います」
ジェマは完成した魔道具を胸に抱えて裏庭に向かう。彫り込まれた魔法陣は外においても雨風でもそう簡単には消えない。地面に置けばローテンドは力を地中から得ることができる。周囲を守る、強力な結界の源のようなもの。
「ハリス、場所は決まった?」
「ジェマ。うん、スレイが、ジェマのパパのお墓の隣が良いって」
スレイと話していたハリスは、振り向くとジェマを手招いた。ハリスとスレイを守るように周囲をぴょんぴょんと跳ねていたモアレは、ジェマの手に持たれた黒光りする石に興味津々な様子で動きを止めた。
「分かった。じゃあ、そこを掘ろう。掘るのはスレイに任せようかな」
「俺も手伝おう」
カポックもジェマから魔道具のシャベルを借りて、手彫りのスレイを手伝う。土人形のスレイは一定のテンポで少しずつ土を削る。一方のカポックは、ひと掘りした瞬間、地面が思いの外抉れてバランスを崩した。
「おっと」
持ち前のバランス感覚ですぐに体勢を立て直したものの、一気に掘った穴の深さに表情が引き攣る。スレイはカポックすら埋まってしまいそうなほど深い穴を、今度はせっせと埋めていく。
「あ、強すぎましたね」
「ジェマさん、これは?」
「魔道具です。小さいころに山に生えている細長い芋を掘るときにいつも使っていたやつなんですけど、そういえばすっごく掘れるんですよね、これ」
成人男性1人がすっぽり埋まるほどの穴をひと掘りで生み出すのは、すっごく掘れるどころの話ではない。だが、それがジェマクオリティ。カポックはもう何も言わなかった。
「そうでしたか。スレイ、ありがとう」
スレイがせっせと穴を埋める中、ジェマは黒光りする石に道具の先端を触れさせた。
「ハリス、お父さんとお母さんのお名前は?」
「お父さんがルイス。お母さんがハウス。お父さんとお母さんが、1文字ずつくれてハリスって名付けてもらったの」
「ふふ、素敵だね」
ジェマは丁寧に、丁寧に2人の名前を掘り込んでいく。ハリスは隣に座って、その手元をジッと見つめていた。
「ジェマの名前は? 由来、あるんでしょう?」
「希少な宝石、って意味だって言ってた。お父さんも、鉱石が名前の由来になっているんだって。出身がオレゴスだから」
「そっか。オレゴスって鉱石の街だもんね。希少な宝石かぁ。ジェマっぽいね。唯一無二な感じ」
ハリスは嬉しそうにコロコロと笑う。両親の埋葬なんて、笑顔でいられるはずがない。それでも笑顔でいるのは、両親がそう願ったから。
「ハリスは、お父さんとお母さんと仲良しだったんだね」
「うん。2人とも、私が笑顔なら幸せだって、いつも言ってた」
「そっか。うん。ハリスの笑顔は、世界を幸せにしちゃうもん」
ジェマは屈託なく笑って、名前を彫り終えた石をそっと撫でる。ハリスはその石に掘り込まれた魔法陣をジッと見つめると、胸元に埋め込まれた魔石をそっと撫でた。
「魔石の一部とか、一緒に埋めたらダメだよね」
「魔石の中にある回路を傷付けると、ハリスの命が危なくなる。魔石と身体の結びつきを調べて、魔石の中の回路を解析して、それからじゃないと危ない。私は、やらない」
ジェマは真剣にハリスを見つめた。大切な友人を、自らの手で危険に晒すつもりは毛頭なかった。ハリスはその瞳を真っ直ぐ受け止めると、口角を上げた。
「そっか。うん。ありがとう」
その瞳から涙が溢れ出す。別れの悲しさなんて、とっくの昔に慣れてしまった。それでも、涙は枯れない。
「お父さんたち、きっと、凄く苦しかったよね」
「うん。そう思う。ハリスのお父さんたちの腕は、ファイヤーアーサスに移植されてからも意思を持って動いていた。身体に宿った記憶が生きていてもおかしくない。魂が浄化されきらないまま動くものは、明確に死んだとは判断されない」
神殿の考え方だと、スレートがジェマに教えた。意識と肉体、両方が死ななければ人の死とはしない。もしも、他の部位も実験に使われて、今もなお活動していたとしたら。ジェマはそんな可能性に唇を噛んだ。




