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ジェマは鍵を開けて、中にジャスパーとジェットを先にいれてやる。それからハリス、シヴァリー、カポックも続く。
「きゅう!」
家に到着するやいなやジェマの影から飛び出したモアレ。ぴょんぴょんと飛び跳ねて、ハリスの背中を押す。
「わわ、どうしたの?」
「スレイのところに行くの? そっか。うん、モアレはハリスを案内してあげて。ハリス、私のお父さんのお墓を守っている土人形のゴーレム、スレイにお墓作りをしても良い場所を聞いてみて。私もすぐに行くから」
「うん、ありがとう。モアレ、一緒に行こう」
ハリスはなんとなく空気を察して、モアレと共に骨壺を大切に抱えて裏庭の方へと出て行った。ジェマは自宅のリビングにシヴァリーたちを案内すると、ジャスパーとジェット、カポックを見つめる。
「何があったか、聞いても良いですか?」
「ああ。急ぎ報告がある」
カポックは真剣な面持ちで頷くと、聞いたばかりの話と、声の主について伝えた。ジェットは不安げにジェマに抱き着き、ジャスパーは眉間に皺を寄せて蹄でコツコツとテーブルを叩く。
「その、騎士団長ってやつは、なんなんだ」
「公爵家の次男です。血統と力を重んじる騎士団の、王都の団長を任されるくらいには権力も力もあります」
シヴァリーが苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべると、カポックはジェマを見つめた。
「騎士団長に勝てるのは、国王陛下が抱えている国中から集めた精鋭部隊が揃っている近衛騎士部隊だけ。それくらい、強い。そんな男が、ジェマさんを狙ってる」
「なる、ほど?」
ジェマはさっぱりピンと来ていない様子で首を傾げると、シヴァリーに視線を向けた。シヴァリーは首を横に振るとため息を漏らす。
「私も勝てるか五分五分といったところだな。腕力で勝てたとしても、権力で負ける」
「騎士団ファスフォリア支部の中でも有数の腕のシヴァリーが第8小隊長に甘んじているのは、単に平民だからだ。腕だけなら、第1小隊でもやっていける。でも、騎士団長に勝てるかは、微妙だ」
カポックは眉間に皺を寄せる。国の光とも言われる騎士団の暗部。実力主義を謳いながら血統を何よりも重んじ、国王以外の王家の人間が近衛騎士に選んだ小隊は王家の人間の命令が絶対。守るべき民を蔑ろにすることも少なくはない。
シヴァリーはキツく拳を握りしめると、膝を折ってジェマと視線を合わせた。
「大丈夫だ。それでも、ジェマのことは必ず守る」
「セインさんは?」
「セインは神殿にいれば大丈夫だ。神殿は国に繁栄をもたらす神と繋がっている。神殿を敵に回せば、神は敵対行為だとみなして報復をするとまで言われているからな。王家だって手を出しにくい」
「それでも手を出すのが王妃だけどな」
ジャスパーは唾を吐くように言い捨てると、ふよふよとリビングを出て行った。ジェマはその背中を寂し気に見送ると、困ったように笑った。
「まだお父さんが生きていたころ、王妃の手の騎士に、ここもよく襲われていましたから」
「そう、だったな。私たちを信用してくれていること自体、不思議なことなんだよな」
シヴァリーは申し訳なさそうに眉を下げると、ジェマの手を優しく握る。ジェマはその温もりに安心して笑うと、悪戯っぽく肩をすくめた。
「お父さんみたいに、私が騎士を撃退しちゃうかも」
「それは……冗談には聞こえないな」
カポックは珍しく頬を緩めると、その大きな手でジェマの頭を撫でた。ジェマはその大きな手に目を見開いて、照れ臭そうに笑った。
「私、もっと強くなりますね。ヒュプノスさんにもっと鍛えてもらって、闇属性魔法も使いこなせるようになります。きっと、私が魔法を使えるなんて誰も思わないでしょうから」
自信満々なジェマに、シヴァリーは頷きかけて慌ててその肩を掴んで首を横に振る。あまりに素早く首を振るものだから、ジェマは思わずポカンとしてしまった。
「えっと?」
「ジェマ、魔法は、ダメだ」
「え、でも……」
「魔法は、私たち以外の騎士の前で、王家の人間の前で使ってはいけない。光属性魔法と闇属性魔法は、王家の象徴として……そうだな、そう。使い方を秘匿しているものだからな」
王家の人間だとバレてしまう、なんて口が裂けても言えない。シヴァリーの必死のフォローに、ジェマはぽんっと手を叩いて朗らかに笑った。
「確かに! そういえば、そうでしたね。じゃあ、ジェットが使ったように見せかけられれば問題ないですか?」
「ま、まあ。契約魔獣の力だと見せかけられるなら、悪くは、ない、か……」
できれば使わないで欲しいと思いつつも、ジェマが身を守る手段があるのに使うことができずに危険に身を落とす可能性を考えると、否定しきれなかった。カポックは、ジッと考えていた。そして、小さく頷いた。
「ジェマさん、ヒュプノス殿下から、睡眠の魔法を学ぶのはどうだ?」
ヒュプノスが得意とする睡眠を促す闇属性魔法。それならば、意識を刈り取り無抵抗の相手を縛って森の外に捨てることもできる。
「悪くないな。それならジェマが魔法を使ったとバレにくくなる。これから今の話を殿下に伝えにいくから、ジェマに睡眠の魔法を教えてもらえるように頼んでおこう」
シヴァリーはそう言うと、カポックの肩に手を置いた。
「ジェマはハリスの両親の埋葬がある。カポックは護衛に残れ。何かあれば、いつも通りに」
「はっ」
第8小隊が危機を知らせるときに使う笛。カポックはそれを手に握り締めて頷く。シヴァリーはニッと笑うと、ジェマの頭を軽く撫でて【チェリッシュ】を出て行った。




