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カポックはヒュプノスが影属性魔法で帰宅するのを見送って、頭の上で目を覚ましたジェットを手のひらに載せた。
「おはよう」
「ピッ!」
ジェットは元気いっぱいに1本の脚を挙げて、それから辺りを見回して梁の上からジェットを見下ろすジャスパーを見つけた。
「ピピィ?」
「ジェマなら先に帰ったぞ。帰るときは我と戻れば良い。もう少し、友人と仲良くしておけ」
ジャスパーはそう言うと再び梁の上でごろりと寝転んだ。その周りに集まってくる街の精霊たち。街の情報をせっせとジャスパーに集めては帰っていく。ジェットは不思議そうにその姿を見つめていたけれど、胸に感じるジェマの優しさを感じてぴょんっとカポックに向き直った。
「ピピ!」
「どうした?」
「ピーピ!」
ぴょんっとその手から飛び降りて、ちょこまかと歩き出す。カポックは不思議そうにしながらもその小さな友人の後ろをついていく。すれ違う騎士たちはその不思議な行進にギョッとしたり笑ったり。
周りのことはあまり気にしないまま、ジェットは大きな扉の前でぴょんぴょんと飛び跳ねた。カポックはその扉を前に眉を顰めた。
「ジェット、ここはダメだ。騎士団が抱える押収品を……えっと、悪い奴から取り上げたものを置いている場所だ」
罪人を捉え、不正なものや盗んだものは没収。そして然るべき場所に戻すためや罪人の罪を暴くために調査をしている途中のものを納めた部屋。通常、担当している事件の押収品がない限りには立ち入ることが許されていない。
「特に俺たち第8小隊は平民や、俺のような元奴隷もいる。盗んだと、あらぬ疑いをかけられることもある。なるべく、近付かない方が良い」
「ピピィッ!」
カポックの言葉に耳を貸さず、ジェットはふわふわの毛を逆立てて押収室の中に威嚇する。その異様な姿に、カポックも息を顰めて押収室の中に何かあるのかと耳を欹てる。
「……だから、王妃……いや……ではなく……娘……」
所々に聞こえる言葉。王妃、娘。カポックは扉に耳をくっつけて聞き入る。ジェットはその姿に満足げにお尻を振ると、シュルシュルと糸を吐いて布を作り出すとカポックに頭から被せた。
「お?」
「ピー」
静かに、とでも言いたげなジェットの仕草に、カポックは黙って頷く。ジェットお手製の黒い布。周囲から布の中を闇の中に切り取り、疑似的に姿を見えなくさせる効果がある。カポックはその効果に気が付きつつも、それでも警戒を続けながら耳を扉に押し当てた。
「娘?」
「ああ。第2王子といた娘だ。あの娘と、一緒に魔法を使っていた少年。あの2人を連れてこいだとさ」
「いやいや、少年の方はあれ、神殿の人間だぞ? ロザリオがついていた。無理に連れて行けば神の裁きだなんだと神殿連中が騒ぐだろ」
「ああ。それにあの娘の方は第8小隊が第2王子の命で守ってるんだろ? 下手に近付けねぇって」
2人の男の声に、カポックはキツく手を握り締めた。王妃の狙いは、ジェマとセイン。普通ではない戦い方をしていた2人に、そしてヒュプノスが咄嗟に庇うように立ったジェマに。興味を持ってしまったらしい。
「まあ、良いじゃないか。むしろ娘の方は好都合だ」
3人目の男の声。カポックは思わず息を詰めた。
「騎士団長……」
王妃の近衛騎士を務める第1小隊のトップであり、騎士団長でもあるフラリア・ルーシュ。そんな男の不穏な声に、カポックの手が震える。
「あの娘を捕らえて王妃へ差し出せば、第2王子の命令を守れなかった第8小隊は終わりだ。どうせあの引き篭もり王子が王妃に敵うわけもないんだ。王妃にとっても俺たちにとっても目障りな奴らを同時に消し去る、良い機会だろう?」
カポックは思わず後退る。そのとき、古びた床がぺキリと音を立てた。
「誰だっ」
押収室から聞こえた声。カポックが立ち上がろうとする中、ジェットは闇の中にカポックと共に身を落とす。ぎゅっと目を閉じたカポックが次に目を開くと、第8小隊が所有する棟の中。梁の上で目を閉じていたジャスパーは飛び起きてジェットの元へ飛ぶ。
「どうした、ジェット」
「ピッ! ピピッ!」
「……なるほどな。早く報告に行くぞ。ジェマもセインも、ヒュプノスも危ないかもしれない」
ジャスパーの言葉に頷いたジェットは、カポックごと闇に再び落ちる。
「っ、なんだ」
闇の中でも咄嗟に剣の柄に手を置いたカポック。その目が光に細められると、次に目を開いた場所は【チェリッシュ】の前だった。
「こ、こんなに短時間に大移動をしてしまうなんて……」
ジェマの馬鹿げた風属性魔法を応用した移動にしがみついて吐きそうになったことはあるカポック。この身体に優しい上に時間もかからないジェットの闇の中を移動する魔法には思わず感嘆した。
「お? カポック? なんでここに?」
先に騎士団詰め所を出たシヴァリーたちが、ちょうどジェマたちと共に到着。目を見開いたジェマは、ジャスパーの険しい顔つきとジェットの泣きそうな顔に表情を引き締めた。




