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ジェマたちとツマナは第8小隊と共に騎士団詰め所に到着した。念のため、とヒュプノスも同行して。第1小隊に喧嘩を売られないとも限らなかったから。
「お、おい、あれって」
「馬鹿、伏せろ!」
騎士たちはヒュプノスの姿を見て、大慌てでひれ伏す。特に第1王子、第1王女の紋を背負った騎士たちは最敬礼で出迎えた。
「第1小隊よりはまともか」
ヒュプノスはため息を漏らすと、ジェマの肩をそっと自分の方に引き寄せた。その姿に、騎士たちはハッとしてジェマにも首を垂れる。
「ん?」
ジェマが首を傾げても、ヒュプノスは微笑むだけでシヴァリーについていく。シヴァリーは先頭に立ち、小さくため息を漏らして隣を歩くカポックに囁いた。カポックはハナナの命令を遵守するその忠誠心を買われて第8小隊の中で唯一ジェマの秘密を共有されていた。
「あれ、婚約者だと言っているようなものだよな?」
「ああ。まあ、庇護下にあると示すことでジェマさんを守ろうとしているんだろうがな」
ヒュプノスは堂々とジェマの肩を抱いて歩く。私の物に手を出すな、という静かなアピール。そしてヒュプノスから溢れる王族らしい威圧感。誰1人として、逆らうことはできない。
「結局婚約はできないからどちらでも良いのか。ジェマの紋が知られれば、王族だということはすぐに露見する」
「むしろよく今の今までバレていなかったと思うが」
「あの所有者固定魔道具師スレートの娘として知られているからな。誰もこの有名な話を疑わないってことだ」
シヴァリーは苦笑いを浮かべて、そのまま第8小隊が所有する棟の扉を開ける。
「おかえりなさい!」
出陣していた面々を迎えたのは、ハリスの護衛に残っていたユウ。ユウはジェマの姿を見て目を輝かせたけれど、隣に立つヒュプノスに慌てて首を垂れた。
「ここでは敬礼をしなくて良いことにしようか。ここでは、そうだな、ジェマの兄として扱ってもらおうかな」
ヒュプノスのおどけたような言葉に、第8小隊の事情を知らない面々は思わず微笑ましそうに笑う。事情を知っているシヴァリーとハナナ、カポックは笑えなかったけれど。
「おかえりなさい。ハリスさん、ジェマさんが戻りましたよ」
勝利の知らせを届けるために先に帰っていたナンがハリスを奥から連れてくる。ハリスはジェマの無事な姿を見ると、我慢できずにその小さな身体に抱き着いた。
「ジェマ!」
「ハリス!」
2人が抱き合う姿に、大人たちはホッとしたような顔をする。けれど、包みを両手に抱えたツマナは、厳しい表情でハリスに近付いた。
「君が、ハリスさんだね」
「は、はい。ハリス、です」
ハリスは知らない大人を前に、不安げにジェマの手を握る。その様子に、ツマナは膝を曲げて視線を合わせる。
「私はツマナ・バイオレット。ハナナの兄で、バイオレット家の次期当主、というのはどうでも良いな。討伐されたコマスの実験で生まれた人造魔物の解剖を担当している。君から預かった血液と照合した結果、親子関係にあると判断された腕が、2本あった」
ツマナは包みを開いた。2つの真っ白な骨壺と、リングケース。ハリスの震える手を、ジェマはギュッと握りしめ続けた。ツマナがリングケースを開けると、ハリスの瞳から涙が零れた。シンプルな、飾り気のない指輪。そこに刻まれた、2人の名前。
「お父さん……お母さん……」
貧民街で暮らしていたとしても、家族で暮らす時間は平和なものだった。寒い家でも、家族でいれば温かかった。それを、呆れるような実験のせいで、奪われた。
その場に崩れ落ちて泣きじゃくるハリス。その姿に、第8小隊の面々は拳をキツく握り締めていた。出会ったばかりの少女でも、その身の上は誰もが聞いていた。許せないと、怒りに震えた者も、涙を流した者もいた。
奪われたものが、望まない形で返ってきた。けれど、望まない形であっても、返ってきてくれた。ハリスは2人の遺骨を抱き締めた。腕だけでも、返ってきた。
「ジェマ……ジェマのお父さんの、隣に……」
「うん。お墓、作ろう。もう、みんな寂しくないね」
ジェマは過去の出来事と重ね合わせるように泣きながらハリスの背中を抱き締めた。ハリスは抱き締められたまま、涙を零し続けた。ヒュプノスはグッと拳を握りしめながらその姿を見つめていた。まるで、自分の罪を見つめるように。
「ツマナ」
「はい」
ヒュプノスが差し出した冊子を、ツマナは受け取った。誰かの、日記。
「バイオレット家に託す。僕の契約精霊が第1王女の私室から持って来てくれたものだ。大切に扱うように」
ツマナの手は、震えた。今渡された、その意味が分からないほど腑抜けてはいない。国内随一とも謳われるバイオレット家の頭脳。脈々と受け継がれたその頭脳を次期当主として受け継いだツマナ。覚悟を決めた眼差しでヒュプノスを見つめた。
「承知いたしました」
ヒュプノスは引き締めた表情のまま頷いて、泣きじゃくるジェマに視線を向けた。
「僕が、国を変えてみせる」
小さすぎる声を唯一聞くことができたカポックはその決意が滲む表情をジッと見つめていた。




