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目の前に現れたナンブモスたちにジェマすら歯噛みした。
「巨大化、してる」
「こんなサイズのモス、見たことねぇぞ!」
魔剣士たちも戸惑い恐怖する。ハナナは逃げ腰になった7人を先導するようにナンブモスに斬りかかった。ジェマは咄嗟にナイフを掲げて回復魔法をハナナに付与した。
「的が大きくて丁度良いではないですか! 弓兵、もっと矢を!」
「戦う彼らに当たりそうな矢は、僕が防ぎます。お気になさらず、狙ってください」
ハナナとヒュプノスの声に、冒険者たちは武者震いをして目の前の敵に目を向け直した。逃げたところで、逃げ切ることはできない。大切な人たちを守るためには、戦うしかない。
セインも回復魔法を3人にかけると、選抜された魔術師たちはハナナに続いて駆けていく。ジェマもハナナ以外の4人に回復魔法をかける。セインとジェマは、回復魔法をコントロールして8人の身体を完全に覆う。8人は鱗粉の中を駆け抜け、1羽、1羽と羽が落ち、魔石を貫かれる。
「そうだ! 的がデカいなら俺たちも役に立てる!」
「ああ、やってやろうぜ!」
弓兵部隊の指揮が上がると、弓を構えたカポックの頭の上で矢が飛んでいく様子を見ていたジェットは、お尻から糸を吐き出した。その糸が眼前を通るとき、ジェマは頼もしそうに笑った。
「ジェット! ヒュプノスさんの援護をお願い。ハナナさんたちに怪我はさせないで!」
「ピピィ!」
ヒュプノスの魔法が矢を闇に飲み込み、ジェットの糸が矢を絡め取って前衛が後衛の矢を被ることを防ぐ。
舞うようにナンブモスたちを切り落とす魔剣士たち。震える手で、矢を放ち続ける弓使いたち。そして、闇を操り前線に振りかかる矢を払うヒュプノスとジェット、ナンブモスの麻痺毒を振り払う回復魔法を魔剣士たちに纏わせ続けるジェマとセイン。
「異常だ、こんな戦い……」
最後尾で指揮を執っていたグラスは、その圧倒的な戦闘に唾を飲んだ。弓使いたちを先導していたシヴァリーは、グラスの手の震えに、攻撃の手を止めてそばに寄った。
「大丈夫か?」
「シヴァリー……なんというか、なんなんだろうな」
目の前の戦闘を見つめているはずのグラスの瞳は、どこか遠くを見つめているようだった。シヴァリーはその肩に手を置くと、深く息を吐いた。
「分かるぞ。今まで信じていたものを思いっきり覆される震え。若さって凄いよな」
「お前もまだ16だろうが」
グラスは大人ぶるシヴァリーに呆れたように笑うと、肩の力が抜けた。
「これが時代が変わるということなんだろうな」
その目は、今度はヒュプノスに向けられた。口元が穏やかに緩む。
「まさか、民のために身を挺して戦ってくれる王族がいるなんてな」
「本当は守られていて欲しいし、私たちが殿下より強くなければいけないんだがな」
王族を危険に晒し、守るべき相手に守られているという現実。騎士としては納得できるものではなかった。それぞれに正しい役割があって、正しい立ち位置があって。それが崩れている世界は、平和とは言えない。
「変革期、か」
「嫌な期間だが、この変革期は、良い方向に変わるためのものだと、私は思う」
シヴァリーは深く頷きながら回復魔法をかけ続けるジェマとセインを見つめた。守るべき相手と、かつての級友。その背中が酷く大きく頼もしい。
「ま、今より悪くなることはないさ」
グラスは目を細める。そのとき。背後から響いた馬車の車輪の音に2人は咄嗟に振り向いた。大量の騎馬と、白く輝く馬車。
「なんだ?」
「あれは……王妃の紋章、か」
シヴァリーは拳を握りしめる。王家への礼節は絶対。それに反すれば首を切られる可能性もある。けれど今、目の前にはナンブモスの群れ。礼節を重視すれば、冒険者たちは全滅、街も被害を受ける可能性がある。
「なんで今こっちに来やがる」
「念のためファスフォリア支部の騎士団長にも連絡をしておいたんだが、不味かったか」
「いや、これだけの非常事態で報告をしない方が後で文句を言われる。悪いのは、事態を把握しながらこちらを潰そうとしてくる王妃だ」
「ははっ、騎士とは思えねぇ発言だな」
グラスは前線に視線を戻す。ナンブモスは半数まで数を減らしてもなお、攻撃を止めない。明確に街を襲う意思がある相手を前に、戦闘の手を緩めるわけにはいかない。
「どうする? 第8小隊長」
「……あの方の力を借りるしか、ないでしょうね」
シヴァリーはすぐにヒュプノスの元へと駆けて行った。グラスはその背を見守りながら、冒険者たちを見据える。
「あいつらは、俺が守る」
すぐに正門からまっすぐ伸びる大通りに陣を張っていた弓使いとワンドマスターたちの元へ駆けよると、声を張り上げた。
「陣を移動する! 急ぎギルド側の広場へ移動しろ!」
「でも、援護が!」
「王妃が来る! 陣が壊れる前に、早く!」
王妃の名に、驚いていた冒険者たちも急いで矢筒と回復薬だけ引き掴んで広場へ駆け出した。グラスは全員の移動を確認して、最前線へと駆け出した。逃げることができない、命の危険と隣り合わせの場所で戦う彼らに、背後から近づく恐怖を伝えるために。




