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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。6  作者: こーの新


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4


 ジャスパーはジェマの肩に腰かける。ジェマがグラスと戦術について検討していると、アドヴェルは剣の柄に手を置いてグラスのそばに寄った。



「私も、戦う」


「アドヴェル。お前は確かに強くなってきた。だけど、まだ前線に立つ実力はない。その代わり、街の人間の避難誘導を頼む」


「そんな」



 アドヴェルは唇を噛む。そんなアドヴェルの首にかけられたロザリオにグラスは触れた。兎がロザリオに抱き着くようなデザインの、アドヴェルの紋が施されたもの。そしてそれは、教会の人間であることを示すものだった。



「これで、不安がっている人たちを誘導してくれ。冒険者は荒くれ者が多い。街の人間が素直に言うことを聞くと思うか? そんなとき、このロザリオは信心深い人間を動かすことができる。そしてその動きは、周りを動かす起点になるかもしれない」


「結局、教会の力ですか」


「それだけじゃない。万が一街に一体でもナンブモスが紛れ込んでみろ。街はパニックになる。アドヴェルと他の冒険者たちを街の各所に配置する。街の人間を守る、最後の砦はお前たちだ」



 グラスは全員に届くように声を張り上げた。前線での戦闘に参加しないと聞いてそわそわしていた冒険者たちも、急いで準備を始めた。全員で、街を守るために。



「俺がこの防衛線の指揮を執る。騎士団はどこまで出動するか分からない。まあ、来ても第8小隊だけだろうな。アイツら、こういう騒動は王家を守るためとか言って、何もしやしねぇ」


「それは、なんだか申し訳ありませんね」



 穏やかな声。冒険者ギルドにいた面々がその声とオーラに咄嗟に振り向いた。そこに立つ2人に、ジェマは嬉しそうに笑った。



「ヒュプノスさん! ドルゲさん!」


「ジェマ、さっきぶりだね。ドルゲから大体のことは聞いているから、大丈夫。僕も前線に立つ」


「だ、第2王子殿下。どうしてこちらへ? というか、どうやって……」



 突然降って湧いたように現れたヒュプノスに、グラスは目を白黒させる。第2王子。幽閉されたその身でも、王子は王子。冒険者たちは慌てて膝をついて首を垂れた。王家がどんなに憎くても、命のために、首を垂れ、従う。


 ヒュプノスは深く一礼した。王族としては、あり得ないこと。その姿に伺うようにチラチラと視線を向けていた冒険者たちは、1人2人と顔を上げた。



「皆には、暮らしにくい国だろう。第2王子として、母である王妃派の暴挙を留めることができないことを申し訳なく思う。その贖罪にはならないが、この防衛線の責任者として立ち上がろう。本作戦の指揮官には冒険者ギルドファスフォリア支部ギルドマスターグラス・リード、そして第8小隊小隊長シヴァリー・ケリーを任命する。采配は全て2人に一任する」



 ヒュプノスの凛々しい姿に、ジェマの瞳が輝いた。いつもの温厚なお兄さんとは違う姿を見せるヒュプノスの逞しい背中は、孤独に寂しく笑う姿とは別人のようだった。



「ヒュプノスさん、凄い!」



 無邪気に笑ってはしゃぐジェマに、ヒュプノスはどこか照れ臭そうに鼻を擦る。そして、ジェマに歩み寄って優しく微笑んだ。近付いてくるヒュプノスに威嚇しようとしたジャスパーは、ドルゲに首根っこを掴まれてジェマから引き離された。



「おい! 何をする!」


「はいはい、今は俺の契約者を優先させろ」


「ふざけるな、我の契約者に何をするか分からん」



 ジャスパーとドルゲのやり取りが見えているグラス、アドヴェル、セインはいつも冷静なジャスパーが4本の脚をばたつかせている姿に手を口に当てて必死に笑いを堪える。


 ヒュプノスはドルゲたちには目もくれずにジェマの前にしゃがみ込むと、その黒い髪をそっと撫でた。



「ありがとう。ジェマに褒めてもらうことが、1番嬉しいよ。ジェマ、必ず怪我1つせずに帰って来ると約束してくれるかい?」


「うん。約束する。絶対に怪我しない」


「そうか。良かった」



 そっとジェマを抱き締めて、心配そうに背中を擦る。その姿に冒険者たちは顔を見合わせた。そして、言葉のないまま見守った。


 第2王子の恋人。誰の目にも、そうは見えなかった。家族を愛する者の姿。だからこそ、戸惑って何も言えなかった。幽閉された無力な闇の王子の、家族。異質な道具屋の子ども店主とヒュプノスの関係に冒険者たちは唾を飲んだ。


 そんな彼らを意に介さず、ヒュプノスはジェマを離すと小さく笑う。慈しむような瞳。ジェマは頷き返すと、ヒュプノスの手を握った。



「行ってきます。ヒュプノスさんも、気を付けてね」


「ああ、もちろん。僕にはドルゲもいるからね。僕自身も、ね?」



 軽やかにウインクをしてみせたヒュプノスに、ジェマは嬉しそうに笑う。そして、【マジックリング】を身に着けた手を胸の前で握りしめた。そしてヒュプノスに背を向けるとグラスに歩み寄る。



「行きましょう。そろそろ来ます」


「分かるのか?」


「森の精霊たちが騒ぎ出した。ジェマには我の意識を共有して精霊魔法を感じることができるようにしているからな」



 ジャスパーはジェマの肩に座り直すと、ドルゲに向かって仏頂面でフンッと鼻を鳴らした。



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