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その男は、以前セインが魔力欠乏で倒れたときに魔力の共有を行っていた男。魔剣士のヴォルグ・アーシェント。
「俺、行きます」
「ヴォルグ。確かに、お前なら適任だ。魔法剣士としてはうちの冒険者ギルド1の腕前と言っても過言ではないからな」
グラスの信頼に満ちた言葉に、ヴォルグは背筋をシャンッと伸ばして深く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「ああ、頼む。これで1人だが、他の魔法剣士たちの中で戦うことができるやつはいるか?」
ヴォルグが名乗り出たことを皮切りに、次々に魔法剣士たちが手を挙げる。そして最後の1人は、実力とジェマとの連携を考慮してハナナが名乗りを挙げた。
「ジェマさんとの戦闘経験なら、この中で1番ありますから。突飛なことにもすぐに対応しますから、なんでも言ってくださいね」
「私、そんなに突飛ですか?」
ハナナの言葉に首を傾げるジェマに、冒険者全員の視線が刺さる。ジェマが何故そんな目で見られているのか分からずに戸惑っていると、セインはクスクスと笑った。
「大丈夫です。ジェマさんの戦い方は天才的ってことですよ」
「なるほど。ありがとうございます、セインさん」
なるほどではない。そうではないのだが、そうとも言える。冒険者たちはグッと押し黙ると、各々準備に取り掛かる。前線に立つ者は武器と装備を、後方に立つ者は【回復ポーション】や弓矢、魔法の準備、ポジションの確認を始める。
「私は1度騎士団詰め所へ戻ってシヴァリーに話を通してきます」
「ハナナさん、戦いのポイントが移動すると、その、私の店や、あの」
ジェマが気を遣って言葉を濁すと、ハナナは小さく微笑んでジェマの頭をそっと撫でた。
「そうですね。その可能性が高いです。緊急退避をお願いしましょう。こちらで使いを出します。ジェマさんはここで、戦闘の準備をしていてください」
「あの、家にハリスとジェットとモアレがいて」
「それならば、一緒にこちらへ避難してもらいましょう。ジェットさんとモアレさんには伝えておいてくれますか?」
その本質は、要人を確実に守ること。守られるほど弱くはない面々が揃っていることは重々承知していても、ハナナは騎士としての任務がある。
「分かりました。ありがとうございます。それと、戦いが始まったら、ハリスは騎士団詰め所で守ってもらうことはできますか?」
「第8小隊は全員で出陣するでしょうから、冒険者ギルドの方が安全かもしれませんが」
ハナナがグラスに視線を向けると、グラスはアベリアを手招いた。
「アベリア。今回はギルドでハリスと一緒にいてもらうことはできるか? ジェマも戦いに出ると、ハリスが無防備になるらしくてな」
「分かりました! ハリスはとっても優しい子だから。私も全力で守ります!」
むんっと気合を入れるアベリアに、グラスもジェマも安心したように笑みを零す。ギルドまで危険が迫れば街もモスの鱗粉に飲まれることになる。そんなことはさせないとジェマもグラスもハナナも、心に誓っていた。
街を守る力があるなら。自分の、仲間の、大切な人を守りたい。それはこの力が溢れる命のやり取りが軽く行われる世界で誰もが胸に抱く願いだった。
「それじゃあ、ハナナは騎士の方を頼む。ジェマはセインと魔剣士たちと戦略を考えに行くぞ」
グラスに導かれてジェマはセインたちが集まる方へと向かった。ジャスパーはそっと離れると、スコーチアの方へとふよふよと飛んでいく。ジャスパーに気が付くと、スコーチアはオハイアリィの肩の上でひらひらと手を振った。
「安心して良い。教えてもらった通りに力を使えば、オハイアリィを守れると分かったからな」
「ああ。今のスコーチアの魔力制御なら問題ないだろう。もう1つ、精霊らしいことを教えてやろうと思ってな」
ジャスパーの言葉にスコーチアが首を傾げると、ジャスパーは静かに目を閉じて蹄に魔力を集中させ始める。
「おいおい、ここで魔法を使うのか?」
「ああ。だが、これは1つの使い方というだけだ」
ジャスパーが練り上げた魔力はジャスパーが蹄を天に掲げると同時に細い糸のように伸びて放射状に放たれた。天井も壁もすり抜けた魔力は、森の奥へと飛んでいく。
「これは……」
「精霊魔法の1つだ。精霊だけに使える伝令の魔法。普通精霊は、この魔法で互いに情報を伝え合って危険を回避するものだ。この魔法を知っておけば、他の精霊たちの言葉を理解することができる。同時に、こういう時に森で暮らす精霊や街でお前のように誰かを守っている精霊を守ることになる」
「分かった。俺もやる」
スコーチアは魔力を指先に集めると、ジャスパーの真似をして伝令の魔法を放つ。街を中心にそれが広がると、街の精霊たちが騒がしくなった。
「これで良いのか?」
「ああ、上出来だ。必ず守れよ」
ジャスパーはオハイアリィをちらりと見ると、ふよふよと飛び上って自らが守るべき相手の元へと向かう。
「くぅ。やっぱ、かっけぇ!」
スコーチアはその背中を輝く瞳で見つめていた。




