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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。6  作者: こーの新


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 ドルゲがジャスパーたちにジェマの様子を伝えに行く間、ヒュプノスは少し迷って、けれどやっぱり我慢できなくてジェマを膝枕した。



「可愛い。私の、妹」



 お揃いの白髪を撫でながら、手のひらからジェマの魔力を吸い出していく。



「吸っても吸っても魔力が減らないなんてね。これは、常にどこかから魔力を吸収し続けているということなのかな。闇属性のジェマの魔力に、風属性と火属性、土属性の魔力まで混じっているなんて」



 魔力を研究しているヒュプノスでも初めて出会う現象に首を傾げる。それでも魔力を吸い出す手は止めない。手を止めれば、ただでさえ弱っているジェマが魔力暴走状態になりかねなかった。



「うーん……これを吸い続けたら私も危ない、かな」



 止めどなく溢れる緑色の魔力の光。ヒュプノスはジェマを揺らさないように手を伸ばして、影を操って隣の部屋に置いていた魔石付与魔道具を手にする。



「適当な魔石付与魔道具に魔力を込めて、魔石の回復でもしようかな」



 魔石付与魔道具は付与された魔石が魔力を失えば、使いものにならなくなる。だから定期的に購入先の道具屋に魔石付与魔道具を持ち込んで魔力の回復をお願いすることが常識とされている。ヒュプノスのように膨大な魔力があれば、魔力の補充にも困らない。


 ヒュプノスはこれまで、ドルゲに変装をさせて各地の魔石付与魔道具を入手したり、自作してみたりと集めて来たため、自力で魔力の補充をしてきた。ジェマから吸収した魔力を自分の魔力に変え、魔石付与魔道具に反映する。自分でなんとかすることには慣れていた。



「もしも私が光の魔力を持ち、王妃と似ていたら」



 ヒュプノスは手を止めないまま、思わず呟く。王妃と似た兄である第1王子と下の妹である第1王女。3人が国の中枢で我儘放題をしている報告も、その証拠集めも密かに進めていた。知れば知るほど、自分の暮らしとの差を思い知らされ、憎しみが腹の底に募る。



「もしも、ジェマのためになるなら。すぐにでも……いや、そうはいかないか。念のため、国王には知らせないといけないしね」



 唯一ヒュプノスに関心がある父国王。感謝はしているが、ヒュプノスは寂し気にジェマを見下ろす。



「国王は、ジェマの存在を知らない。王妃が双子の妹ではなく姉を殺したと報告は受けているはずなのに、王妃を咎めなかった。殺されたという話を信じて、ジェマを探すこともしなかった。私は、あの人が、ほんの少しだけ、憎いんだ。ごめんね、ジェマにとっても、父であるのに」



 もしもあのとき、国王が王妃を咎め、周囲の話をもっと聞いていたら。ジェマが本当は殺されていなかった事実に辿り着いていたら。きちんと従者たちに証言を取っていたら。2人は兄妹として暮らすことができたかもしれなかった。



「2人なら、ここでの暮らしも、楽しかったかもしれないのにな」



 ヒュプノスのヒスイとルビーの瞳が細められる。薄暗い別荘の中、ヒュプノスは闇属性魔法の使い手として相応しい、と嘲笑われてここに幽閉されることになった。


 それが、ジェマが来ているときだけは、世界が輝いて見えた。ドルゲと一緒にいるときとは違う、妙な高揚感があった。



「初めてだよ。家族を感じられるのは」



 ジェマと第1王女が産まれたころ。まだ幼いうちにここに幽閉され、1人で生きる術を覚えて生き延びてきた。ヒュプノスにとって、家族とは憎しみであり憧れだった。



「元気に、なってね。私は、ジェマには元気でいて欲しいんだから」



 共に生きることが許されないなら。せめて、大切な妹が元気に、笑顔で生きることを願っていた。だからこそ、少ない権力を使って自分が動かせる唯一の騎士である第8小隊をジェマの旅の護衛に付けたり、ハナナたちヴァイオレット家を秘密裏に動かしたり。兄としてできることは、惜しむことなく協力するつもりでいた。



「まあ、ジェマは私の想像なんて簡単に超えて行ってしまうんだけどね」



 守るために付けたはずの騎士から聞かされるのは、ジェマがどれだけ強いかという報告ばかり。騎士が手出しできない魔物を倒したり、戦場に出て命を救ったり。ヒュプノスがなりたかった王族としての姿は、ジェマの向こうにあるようだった。


 ジェマなら大丈夫。その安心感と共に襲ってくる言いようのない恐怖。過信が導いた先で、ジェマの身に危険が及ばないかとハラハラしていた。ジェマ自身にも、その危険に飛び込んでいかない危機感を持って欲しいと悩んでいた。


 守りたかった。兄として、同じ平和を願う者として。



「ジェマ、君は、今何に怯えているのかな。私は、力になれるかな」



 ジェマの髪を撫でる手は、どこまでも優しく柔らかい。人付き合いなんて慣れていなくても、慈しむ気持ちが自然と手つきを優しくさせていた。



「契約者、独り言が多いぞ」



 突然背後から聞こえた声に、ヒュプノスは小さく笑う。



「ドルゲ、おかえり。連れて来てくれたんだね」



 振り返ることもなく、事もなさげに言うヒュプノス。ジャスパーとジェット、モアレは影から飛び出すとすぐに、眠るジェマに駆け寄った。



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