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セインがそっとジェマの肩を叩くと、ジェマはハッとして慌てて商売人らしい笑みを作り直す。
「こほん。失礼しました。ご注文の品はこちらです」
ジェマは【次元袋】から新作の武器たちを取り出した。どれも同じ素材でできているものの、装飾や形の違い、そして纏っている魔力の属性の違いから全く異なる強さを感じられる。
「これが、僕の」
セインは順に身に着けていく。水属性魔法のネックレス、風属性魔法のイヤリング、火属性魔法の指輪、土属性魔法のアンクレット、そして回復魔法の杖。特に杖を握ると、セインの瞳がキラキラと輝いた。
ワンドマスターと呼ばれる、魔石付与魔道具の杖を扱う冒険者たち。そもそも適正が必要な上に、魔力量が多くなければ戦闘の役に立たないためワンドマスターとして冒険者登録している人はほんの一握りしかいない。
そのワンドマスターたちの格を決めるとさえ言われるのが、魔力の触媒となる杖そのもの。いくつの魔法を扱うことができるか、どれほど強い魔法をどれだけの時間扱い続けることができるか。ワンドマスターたちはより強いワンドマスターを目指して自身の研鑽と共に杖を強化していく。
「ローテンドの枝でできていると聞いてはいましたが、これほどまでに力を感じられる杖だなんて!」
「ですよね! この圧倒的な魔力は魔力伝導率を一気に跳ね上げます。セインさんの魔力量なら、これまで使っていた杖では使えなかったレベルの回復も行えるかと思います」
何種類もの魔法を扱う杖ではなくなった。それでも魔法の威力や精度が上がるならば、ワンドマスターとしては申し分ない。セインは杖を握りしめて唾を飲むと、1歩前に踏み出した。訓練場の隅にある壊れた的。
「癒しの力よ、我に力を貸し与えよ」
セインの手のひらから杖に濁流のように流れ込んでいく緑色の魔力。セインはその勢いにふらつきながらも足を踏ん張って杖を両手で支える。
「セインさん、魔力の出力が強すぎますっ」
魔力の流れで強風が吹き荒れるような轟音が響く中、ジェマが叫ぶ。けれどセインは首を横に振ってさらに魔力を流す。
「全力を、出します!」
ジェマの魔力ほどの量があるわけではない。けれど一瞬にかけた魔力の放出はジェマの足元をふらつかせるほどに力強く周囲の空気を震わせ、地面を轟かせる。
「ジェマ! 土壁!」
ジャスパーは咄嗟にジェマに蹄を向けて土壁でその周囲を囲って支える。転びかけていたジェマは、土壁に凭れることでどうにかその圧に堪えながら浮遊しているジャスパーに手を伸ばした。
「ジャスパー、こっち!」
「ふっ、問題ない」
セインの魔力をものともせず、ジャスパーはただそこに浮遊し続ける。ジェマは頷いて自分の身体を支えることに専念する。そうしている間に、セインの魔力が薄れていく。ジェマはひょいっと土壁の囲いから飛び出して、ぐらついたセインの身体に手を伸ばした。
ジェマの手が触れる前に、ジャスパーの浮遊魔法がセインを支える。すんでのところで止まったジェマは、ジャスパーを見上げて小さく笑ってみせる。
「ふぅ。これが、今の僕の限界ですか」
セインが見つめる先。訓練場の隅に置かれていた的はすっかり修復されていた。
「元々植物でできている的とはいえ、無機物になったものを修復してしまうなんて、かなり強い魔法ですよね?」
「そうですね。今までは深手を負った相手を1人癒すだけでふらついていたので、かなり強くなったと思います。この力なら、10人くらいなら余裕だと思います」
嬉しそうに笑いながら、セインは魔力を回復させるために回復用に持ち歩いている魔石を握りしめる。その間にジェマは杖の状態を確認する。
「これで魔石が持っている魔力の100分の1を使ったくらいですかね。魔石の魔力をセインさんの魔力で補いながら扱うことができているので、消費もかなり抑えられていると思いますよ」
「それなら、長期間の遠征前に魔力の補充をお願いするだけでも十分日常的に扱うことができますね。今までの武器は1週間も持たなかったのに」
セインは頼もしそうに杖を撫でる。魔石付与魔道具が持つ魔力は、埋め込まれた魔石の質や埋め込んだ素材との相性、そして職人の腕によって左右される。ジェマはどこか誇らしげに頷くと、杖に魔力を補充する。
「今はお試しなので、無料サービスです。他のものも試しますか?」
「もちろんです」
魔石をポーチにしまったセインは、次々に新しい力を試していく。ひと通り試し終わってその場にへたり込んだとき、セインの顔には清々しいほどの笑顔が浮かんでいた。
「これ、本当に凄いです」
「ありがとうございます」
「あの、ジェマさん」
どこか安心したような表情を浮かべていたジェマに、セインは真剣な面持ちで真っ直ぐに見つめる。ジェマも慌てて居住まいを正すと、セインは杖を握りしめた。
「前に言っていた、魔力の操作で魔法の幅を広げる方法を教えてください!」
眉間に皺を寄せたジャスパーは口を挟もうとした。けれどあまりにも真っ直ぐにジェマを見つめるセインに、何も言えずに引き下がる。
「分かりました! 練習に付き合うわけにはいかないので、アイデアだけでも大丈夫ですか?」
「はい。教えていただけるなら、自分で練習します!」
ヒュプノスとはまた違う方向の探究者に育ちつつあるセイン。ジャスパーはちらりとジェマを見て、楽し気に肩をすくめた。




