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ジャスパーとグラスが話しているところに、アベリアが駆け戻ってきた。すぐ後ろをついてきたセインは、息を切らしているもののふらつく様子はない。グラスはニヤリと口角を上げると、片手を上げてセインを手招いた。
「おう、急に呼び立てて悪いな。お前の杖ができたらしい」
「本当ですか! 嬉しいです」
素直に微笑むセインに、グラスは思わずという様子でガシガシと大きな手で頭を撫で回す。セインは驚いたように目を丸くしながらも、嬉しそうに頬を緩ませる。ジャスパーはセインの姿をジッと見つめると、小さく笑った。
「前に会ったときより、良い顔をするようになったな」
「ギルドマスターにお願いして、新人冒険者向けの訓練に参加させてもらうようになったんです。僕は聖人と言われますが、まだまだ知らないことだらけだと、改めて分かりました。知識を付けたり走り込みや回避の訓練を受けたりするのも、今は楽しくて仕方がないんです」
晴れやかに笑ってジャスパーを見上げるセイン。普通ではない者として扱われてきたセインが、自分が特別ではないことを素直に口にできたことは大きな成長だった。分からないことは分からない、できないことはできない。そう言えるようになったことで、教えて欲しいと言うことにも躊躇いがなくなった。
「なんだか、胸を張れるようになったからか、大人びて見えるようになった気もするぞ」
「これでも、シヴァリー第8小隊長と同い年なんですよ?」
「そうなのか」
ジャスパーは流石に驚いて目を見開く。自信がなかったころのセインはどうにも縮こまっていて、ジェマに年が近いと言われる方がしっくりきた。
グラスはどこか嬉しそうに笑うセインに苦笑いを浮かべると、ちょんっとおでこをつついた。
「それでも、まだ16だ。無茶のラインの見極めはまだまだ子どもだ。これからもっと成長できるぞ」
「はい! ギルドマスター!」
セインの溌溂とした様子に、グラスは満足げに頷く。ジャスパーはその様子に口角を上げたけれど、すぐに眉間に皺を寄せた。
「それで? 相棒の嬢ちゃんは?」
「ああ、アドヴェルのことか。あいつなら、今は武者修行中だ。1人で低ランクのダンジョンに潜って、各階層のフロアボスやら最下層のダンジョンボスやらを繰り返し倒し続けていると報告を受けている」
「なんじゃそりゃ」
ダンジョンの魔物は一定時間経過すると復活する。ダンジョンを形作るコアに原因があるとされているが、その全容の解明には至っていない。
「ひたすら戦って剣技のレベルを上げるんだと」
「なるほどな。習熟度が上がれば、その分他の剣技を覚えやすくなる上に、感覚で動きやすくもなる」
「ほう。流石に剣技にも詳しいか。そういうことだ。セインの努力を見て、もっと近付きたいと思ったんだと。互いに切磋琢磨できる仲間がいるなんて、最高じゃねぇか」
腕を組んで深く頷くグラス。その育成者としての姿にジャスパーは軽く笑って温かな眼差しを向けた。
「確かにな。互いに高め合い、導き合えたら最高だ。と、そろそろジェマを呼ぶぞ。セインもうずうずしているからな」
ジャスパーはスコーチアがオハイアリィの肩に座っているのをちらりと見て、そちらには何も言わないままジェマの方へふよふよと飛んでいった。
「ジェマ。セインが来たぞ」
「あ……うん。分かった。ありがとう」
不安に満ちた表情が、別人のようにキリリと引き締まる。商売人としてのジェマは、いつだって自信に満ちた顔をしている。自分の商品を誇りに思い、面白い道具や素材が大好きで仕方がない。無邪気ながらも素直で真面目にお客さんに向き合い続けてきた。
身体に染み付いた表情管理は清々しいほど格好良く決まっていて、ジャスパーにとっては憎らしくも思える。
「ジェマさん、できたんですね!」
「はい、セインさん。あの、グラスさん。壊しても大丈夫な場所ってありますか?」
「そこはせめて、試し打ちができる場所と言ってくれ」
苦笑いを浮かべたグラスは地下へ続くドアを指さした。
「地下の訓練場なら、万が一に備えて破壊不能の錬金魔石を付与してもらってある。そこなら大抵の魔法ならどうにかなる。ジェマの魔法じゃ壊れるかもしれないがな」
豪快に笑ってみせたグラスは、セインの肩に手を置いた。
「存分に新しい力を試して来い。自分の力の限界を知ることは万が一の備えになる」
「はい、この間ストレリチアさんにも同じことを教えてもらいました。今の僕の全力を出してきます」
清々しい笑顔と真っ直ぐさ。お伽噺に出てくる英雄のような佇まいに、ジェマは思わず目を瞬かせる。けれどすぐに微笑みを作り直して、セインについて地下へ続く階段を下りて行った。
石造りの薄暗い訓練場。前を歩いていたセインが足を踏み入れた瞬間、入口側から順に、グリッサンドのように黄金色の火が灯る。火属性の魔石を使ったランタンはよくあるものの、生命体を感知して点灯するものはまだまだ珍しい。ジェマは思わずそちらに目を奪われて、まじまじと観察する。
セインはジェマのそんな様子を微笑ましそうに見守りながらも、自分の新たな力を試したくてうずうずする気持ちが抑えきれずに唇をきゅっと引き結んで笑みを零した。




