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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。6  作者: こーの新


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9


 ジェマとジャスパー、スコーチアが冒険者ギルドに到着したとき、冒険者ギルドはやけに騒々しかった。



「どうしたんだろうね?」


「さあ。行ってみるか」


「俺も俺も!」



 騒ぎの中心となっている休憩用の机が並ぶ区画に近付くと、ジェマは小さな身体でぴょんぴょんと跳ねる。ジャスパーとスコーチアはそんなジェマを横目に、難なくふよふよと浮遊して人垣の向こうを覗いた。



「お、ちょうど良いな。オハイアリィがいるぞ」


「オハイアリィ! 俺だぞ! 帰ってきたぞ!」



 ジャスパーは蹄を眉に当ててほう、と息を漏らす。スコーチアは久しぶりの契約者との再会に両腕をぶんぶんと振り回して大声を上げる。が、当然オハイアリィには見えることも聞こえることもない。



「オハイアリィさんで、この騒ぎってことは……」



 ジェマはすっかり落ち着いたはずの胸のざわつきが戻って来るのを感じた。けれどさっきまで触れていたヒュプノスの魔力の温もりを思い出しながらどうにか深呼吸をする。ジャスパーは黙ってその様子を見守っていたけれど、ふよふよと冒険者ギルドの2階へと飛んでいく。



「あれは、まあ。良いお灸だな」



 ジャスパーは小さくため息を漏らすと、歯痒そうに後頭部を書きむしる。ふよふよとギルドマスター室の前に飛んでいくと、蹄で軽くドアをノックする。



「どうぞ」


「失礼するぞ」



 ジャスパーは浮遊魔法でドアノブを回して入室する。ジャスパーの姿を捉えたグラスは、手にしていた書類を机に置いて立ち上がる。



「どうしたんだ? 何か困りごとか?」


「はは、我に向かって開口一番そう言える奴は珍しいな。嫌いではない。が、今回は依頼の達成報告に来たわけだ。オハイアリィとセインに用がある。ジェマは下で人混みに飲まれているから代わりに伝えに来たというわけだ」


「なるほど。分かった。オハイアリィなら下にいるし、セインも孤児院の方に行っていると聞いているからすぐに呼び寄越させよう」



 グラスはすぐに部屋を出ると、階段を下りる。人混みの中からアベリアを見つけると、軽く手招く。アベリアはひょこひょこと人混みをすり抜けて、勢いそのままに駆け出すとグラスの目の前で急ブレーキをかけるように止まった。



「はい! ギルドマスター!」


「今日も元気だな、アベリア。セインを呼んできてくれるか? 孤児院の方にいるはずだ」


「分かりました、すぐに呼んできます。ギルドマスターはあの騒ぎをどうにかしておいてくださいね!」


「ん? 何の騒ぎだ? って、おーい……」



 グラスの問いかけは聞こえていない様子で、アベリアは一目散に冒険者ギルドの外へと駆け出して行った。グラスはその背中を呆れたように見送ると、苦笑いを浮かべたままジャスパーに視線を送る。



「この輪の中心では何が起きているんだ?」



 近付けば歓声やら絶叫で声を掻き消されそうになる。グラスが少し声を張り上げると、ジャスパーは黒い耳をぺたりと倒すように蹄で押さえながら首を横に振った。



「分からん。さっきは腕相撲をしているように見えたがな」


「腕相撲? ああ、なるほど。冒険者の簡易的な力比べだ。よくあることだが、復帰したての、年を取ったベテランに挑むなんて話は滅多にないな。そもそも復帰自体珍しいからな」



 腕を組んで眉間に皺を寄せるグラス。ジャスパーはその姿をちらりと見て、肩をすくめた。



「それで? その年取ったベテランの元仲間から見て、オハイアリィの実力はどうなんだ?」



 グラスはグサリと刺されるような感覚に顔を歪めると、拗ねたように肩をすくめる。それでも大人らしく何も言わず、オハイアリィの声がする方を見やった。



「どうと言われてもな。一緒に冒険していたときと全く変わらないさ」


「あの薬のことだが。販売はこれっきりになる。誰にも口外するなよ」


「ああ。分かっているさ。こんな効果のある薬はギルドマスターとして冒険者たちに広めるわけにはいかない。命の貴重さを理解していないやつに冒険者稼業は務まらないからな」



 魔物たちとの命のやり取り、命を懸けたダンジョン探索。冒険者たちは命を粗末にした瞬間、冒険者としての人生だけでなく、1人の人間としての人生を終えることになる。冒険者ギルドを管理運営するグラスにとって、冒険者は仲間であり宝。そう易々と失えるものではなかった。



「オハイアリィのあの状態を、ジェマに咎めるつもりはあるか?」



 ジャスパーの問いに、グラスは目を丸くして、けれどすぐに真剣な面持ちで冒険者ギルドの隅で呼吸を整えているジェマを見つめる。その手が震えている様子に、グラスは小さく微笑んだ。



「ジェマは、自分の作り出すものの素晴らしさと恐ろしさを知ることができたんだ。それは良いことだろうな」


「オハイアリィの方は?」


「あいつは、死ぬかこうなるかの2択しかなかったんだ。生きているだけで感謝と言っておこう。ジェマは、本当に凄い道具師だ。あの子はまだ、潰れちゃいけない。俺たちで守るんだ。スレートの分もな」



 グラスの瞳は凛々しく輝く。成人したとはいえ、まだ10歳。守るべき相手を見つめる瞳は、グラスのどんな表情よりも力強かった。



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