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ジェマは窓に向かって叫ぶと、ジャスパーたちを呼んだ。
「私、これから冒険者ギルドに行って納品しようと思うんだけど、みんなはどうする?」
「我はついて行こう。ついでにスコーチアをオハイアリィのところへ届けに行こう」
「それなら私も行かないと。オハイアリィさん、スコーチアのこと見えないんだから」
ジェマが頷くと、ジャスパーはジェマの肩に腰かける。ジェットとモアレは顔を見合わせると、ジェットは1本の脚を上げ、モアレは身体を揺らした。
「分かった。ジェットとモアレは、ハリスといてあげて。きっとハリスも1人では不安だろうから」
「あの強さで何を不安がる必要があるのかは分からないがな」
苦笑いを浮かべたジャスパーに、ジェマは抗議するように頬を膨らませた。
「ハリスだって私よりちょっと年上の女の子だもん。怖いものは怖いでしょ。それにハリスは」
「あー、分かっているって。ハリスは戦闘の経験がないまま力を得て、戦う必要性に迫られて戦っていただけ、だろ?」
「うん。ハリスのことは、できるだけ守ってあげたい。ハリスが本来送るはずだった人生に、近いように」
ジェマの言葉にヒュプノスは視線を落とす。本来送るはずだった人生。それが必ずしも幸せと言えるのかは、誰にも分からない。ジャスパーはそんなヒュプノスをちらりと見て頭を掻いた。
「まあ、それはジェマの気持ちだ。ハリスの気持ちを優先してやろう」
「それは、もちろんそうだけどさ」
ジェマが頷くと、ジャスパーは少し考えて寂し気に笑う。
「なあ、もしもジェマが森に捨てられる前の、本来の人生を選ぶことができる瞬間が来たら、どうする?」
ジェマは目を丸くして、少し考え込む。自分が捨てられなかったとしたら。ジェマだけが知らない、ジェマが送るはずだった人生。その答え合わせは、ジェマの背後で祈るような目でジェマを見ているジャスパーにある。
闇属性の王族として、母によって別荘に追いやられ、独りぼっちの時間を過ごす。ジェマとヒュプノス、2人で暮らす人生がそこにはあったかもしれない。
「私は、自分がどこで生まれて、どんな親なのか知らないから、分からないけど。でも、私を生まれてすぐに捨てるような親なんて、どんな事情があっても好きにはなれそうにないよ」
「親以外に、ジェマがその人生に戻ってくることを願っている者がいたとしたら?」
ジャスパーがちらりとヒュプノスを見る。ジェマはその仮定に首を傾げて、小さく笑う。
「分からない。戻ってきてって言われたら、考えるかもしれないけど」
「考えるのか?」
「それでも道具を作り続けることを許してくれるならね」
ジェマは悪戯っぽく笑って、幸せそうに頷く。
「私は知らなくても、帰ってくることを望んでくれる人がいるなら、それはきっと幸せなことだよ」
「道具を作り続けられるなら、何でも良いのか?」
「うーん。だって、ジャスパーとジェットとモアレと別れることはないでしょ? お店の経営が続けられるなら、私が他に失うものはないよ」
スレートはもういない。血の契約を結んだジャスパーと魔力の契約を結んだジェットとモアレ。場所に囚われることなく共に生きることができる関係がそこにあれば、ジェマにとって家族は十分。
「ハリスはどうする?」
「それはハリス次第だよ。一緒にいられるなら嬉しいし、いられないなら、そのときは残念に思ってしまってもハリスの行きたい道を応援する。友達であることに変わりはないんだもん。当たり前でしょ?」
ジェマの朗らかな答えとは対照的に、ヒュプノスは難しい顔で考え込む。ジェマは誰かが思う以上に自由で、自分の中心となるものを理解している。周りの何が変わろうとも、ジェマ自身が変わることはない。ジェマにとって絶対のことで、ジェマがジェマであると言える理由。
ヒュプノスがジェマの周囲の平穏を守ろうが、自分のそばに引き込もうが。ジェマは変わらない。ヒュプノスは思わず小さく笑って、けれど迷子の子どものように瞳を揺らした。
決意は変わらない。けれどいつか変わるかもしれない。
「人生はその時々によって変わって、移ろっていく。お父さんもそう言っていたしね」
「それは道具の需要の移り変わりの話をしていたような気がするがな。まあ、良い。ジェマがそうあるなら、我はついて行くまでよ。ほら、行くぞ」
ジャスパーに促されて、ジェマは笑顔でヒュプノスに手を振る。
「また来るね! 今度は倒れてないときに!」
「うん。楽しみに待っているよ」
ヒュプノスはひらひらと優雅に手を振り返す。ジェマが両肩にジャスパーとジェットを載せ、影にモアレが飛び込んだ状態でウインドシールドに乗って爆速で帰っていく。その姿を見送ってヒュプノスはため息を漏らした。
「どうしようか」
「あ? そんなもん、時任せで良いんだよ」
頭上から降ってきた声にヒュプノスが顔を上げる。窓から覗いていたドルゲは軽く笑って、くるりと背を向けた。
「ほら、飯作るから、手洗って待ってろ」
「そうか。そうだね。ありがとう、ドルゲ」
ヒュプノスはもう1度ジェマが去っていった方を振り返ると、すぐに別荘の中に戻っていった。




