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全ての道具が完成して、ジェマはホッと息を吐いた。ヒュプノスは頷くと、窓の外を指さした。
「性能のチェックはそこでやっていくと良いよ。この辺りは闇属性の魔獣や精霊の類しか暮らしていないから。頼んで少し離れていてもらおう」
ヒュプノスはさっさと外に出ると、周囲の魔獣や精霊たちに向けて伝令用の闇属性魔法を放つ。すぐに周囲がガサガサと揺らめいて、別荘の周囲が静かになった。
「みんな、離れてくれたの?」
「うん。それでも住処は壊さないように気を付けてやってくれると有難いかな」
「分かった。気を付けるよ」
ジェマはまずアンクレットを足に嵌めると、魔力をアンクレットに向けて静かに流す。いつも使っている魔石付与魔道具以上に柔らかく浸透していく感覚に、慌てて流す魔力の量を抑える。
「これ、全部同時の方が魔力が分散して安全かな?」
「魔力の伝導率がどうしても高いからね。僕やジェマにとってはそうしないと暴発しかねないとは思うよ」
ヒュプノスはジェマの相変わらずの魔力量に苦笑いしながら、ネックレスとイヤリングを付けてあげる。ジェマはブレスレットを付けて杖を握ると、ゆったりと魔力を流す。温かく感じられるそれを、薄く伸ばしていくように。
「土よ、風よ、水よ、火よ、我が呼び声に応え具現化せよ。癒しの力よ、我に力を貸し与えよ」
ジェマの周りが仄かに緑色に輝く。そして足元から土がせり上がり、風が吹き荒れる。水弾と火の矢が風を撃ち抜き土を貫こうと激突する。そして柔らかな緑色の光がジェマを包み、ウインドカッターとグランドウォールを貫いた水弾と火の矢がジェマを傷つけた瞬間に傷を癒す。
ジェマはしばらくそのまま5つの魔法を安定して操る。わざと怪我をする様子にヒュプノスは眉間に皺を寄せたが、何も言わなかった。
「……ふぅ」
静かなため息と共に魔法を止めると、ジェマは軽くふらつく。ヒュプノスは咄嗟に駆け寄ってその身体を受け止めた。
「ジェマ、危険なことはあまりしないで欲しいな」
「でも、自分に当てれば周りは壊さないでしょう?」
至極当然のことのように胸を張るジェマに、ヒュプノスは肩をすくめてその頭を撫でた。
「確かに、周りに被害が出ないようにと頼んだのは僕だよ。でもね、僕はジェマが傷つくところなんて、見たくないんだ。傷は回復魔法ですぐに治るとしても、痛みと衝撃は身体に残るんだから」
「それは、そうだけど」
ジェマはちょっぴり拗ねたような顔をする。ヒュプノスは初めて見たそのどこか幼い表情に、胸を押さえて小さく微笑んだ。
「そうか。ふふ。うん。今回は許してあげる。ジェマ、少し手を貸してくれるかな?」
ヒュプノスは幸せそうにジェマの手を握ると、そっと魔力を流し込む。じんわりとした温もりが、ジェマからゆったりと痛みを取り除いていく。
「同じ属性の魔力を感じることで、少し元気になるらしいと聞いたからね。やってみたんだけど。どうかな?」
くいっとジェマの顔を覗き込んで微笑んだヒュプノスに、ジェマは大きく頷く。じんじんとした痛みも、涙が流れそうな衝撃も、ゆったりと消え去っていった。
「もう、痛くない」
「それは良かった。ジェマ、それで道具の性能の方はどうだった?」
ジェマは本題を思い出してハッとすると、いそいそと魔石付与魔道具たちを身体から外して魔力を流し込んで補充する。
「これでよし。聞いていた以上の性能だったと思う。ほんの少し魔力を流すだけで魔法が発動するから、戦闘には使いやすいと思う。それに、魔力を温存できる分魔力操作で魔法を操ることも簡単にできると思う」
「うん、ジェマみたいに魔石付与魔道具の魔法を操って使う、なんて考える人はそういないけどね。だけど、ジェマが道具と一緒にそのやり方を伝えるなら、その冒険者くんは相当強くなるだろうね」
ジェマは小さく微笑んで頷く。セインの冒険者としての活躍を祈るように、そっと魔石付与魔道具を撫でる。
「セインさんは、聖人って言われているんだって」
「ああ、孤児出身の魔力量が多い人を指す言葉か。聖人と言われるだけで、どうしても能力を期待されてしまうからね。使いやすい魔力で正当に自分の力を扱うことができるなら、それに越したことはないだろう」
「うん。今の杖はセインさんに合っていないから。これからはセインさんがとっても使いやすい武器で、やりやすいように戦ってくれたら良いなと思うの」
のんびりとした微笑みに、ヒュプノスは胸がチリッと痛むのを感じた。ヒュプノスにはない、外の世界。ジェマが持つ交友関係は広くて、ヒュプノスには干渉できないものも多い。ヒュプノスは肩をすくめて寂し気に頷いた。
「そうだね。ジェマにとって大切に想う相手が、これからも活躍することを僕も祈っているよ」
ジェマはヒュプノスの寂し気な様子に首を傾げると、嬉しそうに小さく笑った。
「大切なお客さんだから、ヒュプノスさんにもそう思ってもらえたら、私も嬉しい」
大切なお客さん。その言葉だけで胸の痛みが引いていく。ヒュプノスは自分の心の狭さに苦笑いするしかなかった。




